鹿児島県の伊藤祐一郎知事が、地元の反対を無視して建設を強行した産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(薩摩川内市)をめぐり、事業主体である県環境整備公社が、地域支援金を餌に処分場の是非を争う裁判をつぶそうと画策していたことが明らかとなった。
事実関係の確認を求めたHUNTERの取材に対し、公社幹部は知らぬ存ぜぬの一点張り。昨年12月、原告である地元自治会の臨時総会を前に、複数の自治会役員に対して発出した「訴訟取り下げの議事案」を、見たことがないと言う。
たしかに、自治会役員らに届けられた文書の体裁は自治会の誰かが作成した形。シラを切り通せるものと思っていたのだろうが、同公社の専務理事は「動かぬ証拠」をいくつも残していた。それは一体……。(写真は鹿児島県庁。手前は議会棟)
専務理事の「メモ」
自治会役員らに届けられた訴訟取り下げのための議事文書は計4枚。『議案の提案理由説明(案)』と3枚つづりの『臨時総会 提案議題(案)』だ。あたかも住民がが作成したかのような体裁だが、どうみても役人が使う文体。ご近所どうしが集まる自治会の会議で読み上げたとたん、公社の関与はすぐに分かるはずだ。それでも公社幹部は、議案文書を「知らない」「見たことがない」と言う。
しかし、問題の文書を自治会側に届けたのが、公社の専務理事(事務局長兼任)であることは明らか。専務理事は、「動かぬ証拠」を残していたのである。下がそれ。自治会側に届けられた『議案の提案理由説明(案)』と『臨時総会 提案議題(案)』に、貼り付けられていたという。
メモの文面は、あて名が違うだけでまったく同じ。そこには、こう書かれている。
いつも御世話になっております。 12日(金)の臨時総会に向けて、5日(金)の役員会で協議していただくよう、別添の資料を3日(水)に会長、副会長にお渡ししました。 役員会で話題として説明がなかったとのことですので、誠にせん越ですが、お届けします。 御一読いただき、総会でしっかり議論されますようよろしくお願いします。横山
メモに記名された「横山」とは、鹿児島県環境整備公社の専務理事で、事務局長を兼任している横山隆一氏。県環境林務課長を務めていた現役の県庁職員だ。メモに書いてあるように、横山専務理事は問題の議事案を直接自治会の会長、副会長に渡していたのである。工作が功を奏さなかったことに業を煮やしたのか、今度は他の役員にも議事案を届けていた。いずれの役員も留守だったことから、上掲の「横山メモ」を貼り付けたとみられる。『誠にせん越』と断ってはいるが、『しっかり議論されますようよろしくお願いします』と事実上の命令。上から目線でものを言う、小役人丸出しの文言である。
地元関係者の証言によれば、横山専務理事は臨時総会を前に自治会役員らと度々接触。処分場周辺の自治会に支給している3億円の「自治会活動等支援金」を受け取るためには訴訟(「産業廃棄物処分場建設差止請求」など3件)を取り下げ、県及び公社との間で「環境保全協定」を結んだうえで、御用団体である「エコパークかごしま連絡協議会」に参加する必要があると説き続けていたという。議事案まで作って裁判つぶしを狙ったものの、工作は失敗。専務理事は、自治会臨時総会の会場にまで押しかけ、発言を求めたという。その過程で残されたのが、上掲の「横山メモ」である。
組織ぐるみの疑い
取材した公社幹部が、記者にこの横山メモ書きを突き付けられて頭を抱え込んだのは言うまでもない。「知らない」「見たことがない」と言い張っていた幹部が、ようやく「そういったやり取りがあっていることは聞いていました」と言い出した。訴訟取り下げを働きかけていることも、問題の議事案も、知っていたということだ。100億円もの公費を投じた処分場事業は、「嘘つき集団」によって運営されているのである。
裁判つぶしは組織ぐるみで行った行為なのか――。取材に対応した公社幹部は、「それだけは絶対にない」。つまり、専務理事が個人的にやったことだと言うのである。「横山さんがひとりで頑張っているのは知っていた」「自治会側と、いいところまでいっていると思っていた」……問題の文書と「横山メモ」を前に、組織ぐるみを否定する発言が相次いだ。しかし、この主張を信用することはできない。組織は関係ないというなら、下の文書は一体何なのか。
このFAX送信票は、明らかに鹿児島県環境整備公社が使用しているもの。横山専務理事は、問題の議事案4枚をFAXで送信した後、心配になったのか、わざわざもう一式を自宅に届けていたのである。ちなみに、下はHUNTERの記者が9日、公社に情報公開請求のための用紙を送信してもらった際に添付されていた「FAX送信票」。文書の傾き具合も、上部にある日時等の印字形式もまったく同じだ。
横山専務理事は、公社のFAX送信票とFAXを、業務時間中に使用したということ。つまり、訴訟取り下げを提案する自治会の議案送付を、「業務」として行っていたのである。他の幹部が経緯を知っていた以上、公社が業務の一環として裁判つぶしを企図したことになる。
横山専務理事本人に取材を申し入れていたが、同理事は公社幹部を通じて次のようなコメントを伝えてきた――「この件に関しては、何もお話しすることはありません」。しかし、説明責任の放棄を許すわけにはいかない。9日朝、同氏の携帯電話を鳴らしてみたところ、電話に出た横山専務理事は「この電話番号をどうして知った?電話を切らせてもらう」。怒って一方的に電話を切ってしまった。それまで取材に応じていた公社幹部も、「HUNTERの取材にはお答えできません」と態度を一変させている。追い詰められ、組織ぐるみで隠ぺいに走った格好だ。
公金支給を餌に、県側不利の裁判をつぶしにかけた鹿児島県……。次稿(12日配信)では、改めて狂った伊藤県政の実態について詳細を報じる。