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鹿児島伊藤県政 税金使って裁判つぶし
薩摩川内産廃処分場めぐり暴走

2015年3月 6日 09:05

鹿児島県庁 鹿児島県が建設を強行した産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」をめぐり、事業主体である県環境整備公社が、地域支援金を餌に処分場の是非を争う裁判をつぶそうと画策していたことが明らかとなった。
 訴訟原告である地元自治会に働きかけをしたのは、被告となっている公社の専務理事(事務局長兼任)。昨年12月の自治会臨時総会を前に、複数の自治会役員に対し、訴訟取り下げの議事案を作成し配布していた。
 被告側が、代理人弁護士をとばして原告に訴訟取り下げを誘導した形。暴挙としかいいようのないルール違反に、原告の住民側はもとより、法曹関係者からも厳しい批判の声があがっている。
(写真は鹿児島県庁)

県公社配布の文書を入手
 「エコパークかごしま」は、公共関与型といわれる管理型の最終処分場。県内に最終処分場が一箇所もないという大義名分を掲げ、伊藤知事の音頭取りで始まった事業だ。事業費は約100億円。地元住民らの根強い反対を無視して平成23年10月に着工したが、1年以上も工期が遅れ、18億円に上る追加工事費が発生するなどすったもんだ。昨年暮れに、ようやく竣工にこぎ着けていた。 

 「伊藤知事案件」といわれる事業は、スタート時点から疑惑まみれ。用地決定の過程は極めて不透明で、県内29箇所の対象地については、満足な調査を実施しないまま、知事の指示で薩摩川内市川永野の一箇所に絞っていたことが明らかになっている。

 処分場建設が進められているのは、霊峰「冠嶽」の裾野。薩摩藩以来、信仰の対象となってきた山の一角を、産廃で汚そうという無謀な計画だ。特別にこの地が最終処分場に適していたわけではなく、むしろ不適。冠嶽は、近隣の水源になってきたほど湧水が豊富で、後々深刻な被害をもたらす可能性が指摘されていた。計画に反対してきた地元住民らは、司法の場で県と争う道を選んでいる。

 そうしたなか、県環境整備公社側が地元自治会の役員らに配布したのは、HUNTERが独自に入手した下の4枚。『議案の提案理由説明(案)』と3枚つづりの『臨時総会 提案議題(案)』だ(クリックで拡大)。

議案の提案理由説明(案) 臨時総会 提案議題(案)1

臨時総会 提案議題(案)2 臨時総会 提案議題(案)3

 議案の提案理由で、公社の専務理事を招き説明を受けることを明記。具体的な議案は、現在進行している3件の訴訟を取り下げ、県及び公社側と「環境保全協定」を締結し、「エコパークかごしま連絡協議会」に参加するよう呼びかける内容だ。

 問題の文書に明記はされていないものの、「環境保全協定」とセットになるのが「自治会活動等支援金」。県及び公社との間で同協定を結べば、当該自治会に「自治会活動等支援金」が入る仕組みとなっているのである。処分場周辺では、これまで「川永野」、「木場茶屋」、「百次大原野」、「東大谷」の4自治会が協定に参加しているが、4自治会すべての所帯を合わせても150前後。350人に満たない住民組織に、なんと約3億円という途方もない額の支援金をばら撒くのだという。原発交付金同様、カネの力で迷惑施設を認めさせる手法だ。

 県側の狙いは、「環境保全協定」を結ぶことで自治会に入る巨額の支援金を「餌」に、住民らが訴訟原告から降りるよう誘導すること。しかし、支援金の原資は税金。鹿児島県は、税金を使って自らが被告となった裁判をつぶしにかけた格好だ。県や公社側の代理人弁護士が知っていたとすれば弁護士規定に反する行為。知らなかったとすれば、それこそいい面の皮となる。

暴走に厳しい批判
 県公社の暴走について、地元住民は怒りを露わにする。
 ―― 公社は即ち県。理事長は副知事で、公社の職員もみな県職員だ。県が訴訟取り下げを提案する議事案まで作って配ったということは、訴訟から降りろということ。圧力以外の何ものでもない。支援金目当てで訴訟を止めるくらいなら、初めから争ったりしない。私たちは、子どもや孫たちの世代のために、理不尽な伊藤知事のやり方に異議を唱えているだけだ。カネを積めば黙ると思ったら大間違い。最後まで徹底的に戦う。

 法曹関係者の見方も厳しい。
 ―― 県側の弁護士は何をやっていたんでしょうか。知らなかったでは済まない話でしょう。審理中に、しかも裏で公金使って裁判を終わらせるなんて聞いたことがない。場外反則。レフェリーストップものだ。行政が司法制度を否定したわけで、実行行為者が厳しく処分されてもおかしくない事態といえる。(40代:弁護士)

注目の「産業廃棄物処分場建設差止請求事件」
 「エコパークかごしま」をめぐっては、公金支出差止請求など3件の訴訟が進行中。とりわけ注目されているのが鹿児島地裁で審理中の「産業廃棄物処分場建設差止請求事件」だ。原告は地元自治会関係者ら224名。被告は公益財団法人鹿児島県環境整備公社となっている。

 平成25年8月に提起されたこの裁判で、原告側は遮水シート等(遮水工)に破損、せん断等のおそれがあり、漏出した汚染水が地下水等に流入することで、周辺住民の健康を害するおそれのあると主張。さらに、薩摩藩時代から信仰の対象となってきた「冠嶽山(冠嶽)」の霊山性が失われてしまうこと等を根拠に、処分場の建設中止と操業停止を求めている。県側は全面的に争う構えを崩しておらず、現在までに計6回の審理が行われている。

 県公社側が、裁判つぶしに動いた理由はどこにあったのか――。次週の配信記事で、公社側の「言い訳」を含め、背景について詳しく報じていく。

(以下次稿)



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