佐賀県教育委員会が進める「先進的ICT利活用教育推進事業」の現状について、先月から10回にわけてシリーズで報じた。平成19年頃にスタートした同事業は、数年の実証研究を経て本格化。平成26年度には県立高校の新入生全員に授業用パソコンの購入を義務付けたが、その後の経過はこれまでの配信記事の通り。まさに「惨状」だ。
生徒不在の現状を招いたのは、まぎれもなく県の教育委員会。それも、業者と組んだ一部の幹部が主導した疑いが浮上している。来月配信予定の第2シリーズを前に、これまで明らかとなった問題点を整理した。
崩壊したパソコン授業 止まらぬ県教委
県立高校でのパソコン購入義務化にともない、新入生家庭の2割が「借金」していた。パソコンを購入しなければ「校長判断で入学を保留することもあり得る」(県教育長の議会答弁)――。なかば強要した形で購入させたパソコンは、故障・不具合の連続。教材のインストールでつまづき、実質的な授業時間が大幅に削られる結果となっていた。さらに、不明朗な業者選定、お手盛りの利活用調査の実態も明らかとなっている。とどめが教科書、辞書、地図、問題集のアンインストールである。
走り出したら止まらないのが「役所仕事」。佐賀県教委は、平成27年度も事業を続けるのだという。「平成26年度 佐賀県立高等学校入学者選抜実施要項」には、『学習用パソコンの購入について』として、次のように明記されている。
授業用パソコンの指定機種を「ARROWS Tab Q584/H 」から「ARROWS Tab Q555/K32」(いずれも富士通)に変更するとしているが、機種を替えても、授業中に教材のインストール・アンインストールを行うのは同じ。来年度もドタバタ劇が続き、無駄に授業時間が消費されることが予想されている。
27年度は今年度以上の混乱になることが必至だ。教材のインストールは新1年生だけではなく、2年生にも課せられる。この学年については、いったんインストールして1年間利用した教科書や辞書、地図、問題集が削除されており、新学期のはじめの授業で新たにインストールしなければならないからだ。今年度は1学年だけにとどまったパソコン騒動が、1年生と2年生の全教室で繰り広げられることになる。本来なら、いったん事業を見直し、十分な対策を講じたのちに継続するか否かを決めるべきだ。しかし、佐賀県教委の暴走は止まりそうにない。
食い物にされた佐賀県民
じつは佐賀県教委、立ち止まって事業の見直しをすることができない状況に追い込まれている。パソコン購入にあたっての補助金の額は毎年度2~3億円だが、これまで「先進的ICT利活用教育推進事業」に費消された税金は、途方もない額になるのだ。
ICTとは、情報通信技術のこと。これを教育現場で利用するには、パソコンはもちろん、電子黒板、デジタルカメラなど様々なICT機器、さらにはネットワーク構築が必要となる。佐賀県教委は、こうした機器やシステム構築に、推計で40億円をはるかに超える額を投じているのである。その結果が生徒や教員を振り回しただけのパソコン授業の惨状であり、疑惑まみれの業者選定だ。
一連の愚行を主導したのは、県教委の幹部。それに課長級の嘱託職員が加わっている。もちろん、複数の業者もグルだ。佐賀県教育界の闇について来月から報じていくが、子どもや保護者だけではなく、佐賀県全体が食い物にされた実態は醜悪というべきもの。犯罪の可能性さえあることを、予告しておきたい。先月来報じてきた「パソコン授業」についての配信記事は、第2シリーズの序章に過ぎない。