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カネまみれ政権と新たなる戦前

2015年3月 2日 09:05

国会議事堂 安倍政権の閣僚に、次から次へと噴き出した「政治とカネ」の問題。農相辞任で一件落着かと思いきや、文科相や環境相、さらには法相にまで飛び火する始末。今国会を「改革断行国会」と名付け、自信満々で臨んだ首相だったが、改革どころか来年度予算の年度内成立さえままならない状況となっている。
 もっとも、首相が一番心配なのは予算ではなく、安全保障法制の行方だろう。安倍晋三という政治家が目指しているのは国民生活の安定などではなく、「軍事国家」の確立だからだ。

アベノミクスの正体 
 国民が安倍政権に求めてきたのは経済再生。だからこそ、危うさを承知で自民党に政権を委ねてきた。右傾化に目をつぶり、アベノミクスに賭けたと言っても過言ではあるまい。しかし、肝心の成長戦略=第3の矢は的に届かず、株価が上がって円安を助長しただけ。一部の投資家と輸出企業は儲かったが、格差は広がるばかりである。アベノミクスの恩恵を実感している国民は、少数でしかない。

 もともとアベノミクスは目新しい経済政策ではない。日銀による金融緩和(第一の矢)も、公共事業への税金ばら撒きでしかない財政出動(第二の矢)も、これまであった策の規模を大きくしただけのもの。首相の知恵というわけではない。もっとも重要なのは成長戦略(第三の矢)だったが、目玉といえば国家戦略特区と農政改革ぐらい。だが、これらがどのように日本経済を押し上げていくのか、具体策や道筋を示すことさえできていない。

 国家戦略特区は、現在ある規制を特区選定を受けた地域内だけで緩めるというもので、いわば「実験」。失敗したら、地域の責任が問われるだけだ。農政改革も同じ。成果があがらなければ、「農協が悪い」ということで逃げを打つに決まっている。加えて、どちらも即効性はなく、2%の消費増税が決まっている平成29年までに、国内経済を好転させるだけの力があるわけではない。

 冷静に見れば、安倍首相の経済政策は“張りぼて”。派手に見えるが、中味はないに等しい。もともと安倍政治の特徴は、表で一般受けするフレーズを連呼しながら、裏に回って右寄り政策を進めるところにある。アベノミクスは、表向きのアイテムに過ぎないのだ。

安倍政権―本当の「実績」
 失速気味の経済政策とは対照的に、首相が言う「美しい国」への歩みは着実に前に進んでいる。政権がこれまで何をやってきたのか、そしてこれから何をやるのか――まとめてみるとこうなる。

本当の「実績」

 アベノミクスとは大違い。こちらは着実に、首相の理想に近づいている。わずか2年そこらで、よくもまあこれだけ矢継ぎ早に国の根幹を揺さぶる施策を打ち出したものだ。憲法を踏みにじり、武力行使の機会を増やし、言論や思想、教育の分野にまで自らの考え方を押し付けようというのだから、たちが悪い。しかも、民意を無視して強行されたものばかり。「独裁」以外の何ものでもあるまい。

安倍政治がもたらす「新たなる戦前」 
 上に挙げた安倍の施策がすべて実現したあかつきには、どのような世の中が待っているのか?歴史を学んだ日本人なら容易に理解できるはずだ。1931年(昭和6年)の柳条湖事件(満鉄線爆破)、1932年(昭和7年)の上海事変、1937年(昭和12年)の盧溝橋事件――いずれのケースにおいても現地部隊である関東軍の暴走があった。日本はその度に、「邦人保護」を大義名分に掲げて兵力を増強し、日中戦争へとなだれ込んだ。国民が真相を知ったのは、敗戦後である。

 国による検閲や国民の監視、国家情報の隠ぺい、海外での武力行使、軍部の暴走、愛国心の鼓舞――まぎれもなく戦前の日本である。そして今、集団的自衛権やそれに伴う海外での武力行使の必要性を説く首相がよく使うのが「邦人保護」。安倍政権は、戦前の軍部と同じ論法で戦争ができる態勢を構築しようとしているのである。この2年間は、いつでも戦争ができる国家への準備段階だったと言えよう。

 かくして戦後70年をかけて築きあげてきた「平和国家」は崩壊寸前。これ以上安倍政権が続くなら、間違いなくこの国は「軍国主義国家」に回帰するだろう。新たなる戦前の始まりである。「遠のく平和、近づく戦争」――これが現在の日本の状況だ。

 防衛大臣は、「文民統制」とは政治が軍をコントロールすることだと言う。だが、腐敗した政治が軍部と手を組んだ結果が先の戦争ではなかったのか。カネまみれ政権が国会で立ち往生する様から、戦前を想起しているのは筆者だけではあるまい。



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