佐賀県が進める「先進的ICT利活用教育推進事業」について、先週から4回に渡って問題点を報じてきた。平成26年度に入学する全県立高校の新入生全員にパソコンを購入させ授業に活かそうという試みだが、約8万5,000円のパソコン代のうち5万円は保護者負担。このため、県の貸付制度を利用した家庭は、新入生徒全体の2割にのぼっていた。
さらに、事業推進のため結ばれた2件の業務委託。それぞれ約9,000万、2億1,000万円の契約金額だったが、入札までの過程は極めて不明朗。県と業者による出来レースを疑わせるものだった。背景にあるのは、特定企業と県の深い関係である。
(写真は佐賀県庁)
必然だった「一者応札」
前稿で紹介した通り、「先進的ICT利活用教育推進事業」のため、新たに締結された業務委託契約は次の2件である。
①「佐賀県学習用PC等管理・運用業務」
契約金額:8,726万4,000円
契約先:株式会社 学映システム(佐賀市)
②「先進的ICT利活用教育推進事業にかかるモデル指導資料作成等サポート業務」
規約金額:2億952万円
契約先:株式会社 ベネッセコーポレーション(東京都)
この2件の業務委託契約について、入札までの過程を一覧表にまとめた。
注目すべきは、それぞれの業務委託の入札に至る過程で、予定価格策定のために参考見積りを依頼された会社の顔ぶれである。
授業用パソコンを使用するにあたって発生するトラブルへの対応及びセキュリティ管理などを行う「佐賀県学習用PC等管理・運用業務」では、(株)学映システム、ニシム電子工業(株)佐賀支店、(株)佐賀電算センター、凸版印刷(株)の4社が選ばれている。落札した学映システムをはじめ、他の3社も佐賀県とは切っても切れない縁がある。
ニシム電子工業は九州電力の系列会社。県からは、公共ネットワーク運用管理業務を請負っているが、玄海原発(佐賀県玄海町)や川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の中に事業所を持つ原発関連企業。佐賀県からの依頼であれば、絶対に断われない会社なのだ。
佐賀電算センターは、県内企業のコンピュータ共同利用による事務合理化と会計指導を目的に、佐賀新聞社、サガテレビ、佐賀銀行など県内有力企業160社の出資によって設立され、県が積極的に育成を図ってきたIT関連企業である。県からは、「佐賀県パーソナルコンピュータ等の運用・保守支援業務」を請負っている。
凸版印刷と佐賀県は、すでに大きな事業で手を組んだ仲だ。同社は、校務管理・学習者管理・教材管理が一体になったICT教育支援システムを国内で初めて構築し、佐賀県教育情報システム「SEI-Net(セイネット)」に提供。平成25年4月から校務管理システムの一部で運用を開始していたのである。
「SEI-Net(セイネット)」とは、凸版印刷が佐賀県の「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として開発したシステム。同社のホームページでは次のように紹介されている。
≪佐賀県全体における、学力向上のための環境整備の1つ。具体的には、小学校や中学校、高等学校に通う児童・生徒について、教職員が出欠管理や成績管理、保健管理などの情報をシステムに入力して専用のセキュリティサーバに蓄積。情報の授受は専用回線を通じて行うことで県教育委員会と市町教育委員会が連携し、児童・生徒一人ひとりの情報を、小学校から高等学校にいたるまで一括して参照できるため、個人の進捗状況に合わせた、より的確な指導が可能になります。≫
佐賀電算センターと凸版印刷は見積書提出を断っているが、県としては学映システムの他に1社でも提出があれば良かった状況。コントロールしやすいニシム電子に見積書を出させ、形だけを整えた可能性が否定できない。
一方、パソコンを使った授業を進めるにあたっての指導計画や指導案の作成、さらには36校ある県立高校ごとに「ICTサポーター」を配置し、教員の指導・支援にあたるという「先進的ICT利活用教育推進事業にかかるモデル指導資料作成等サポート業務」の方はといえば、見積り依頼を受けたのが(株)ラーンズ、(株)ベネッセコーポレーション、東京書籍(株)の3社。ラーンズはベネッセコーポレーションのグループ内企業だ。ベネッセグループについては、平成26年度以前の「先進的ICT利活用教育推進事業」の実証研究段階において、教育現場での実務指導を行っていたことが分かっており、問題の業務委託の内容を、先行してこなしていたことになる。
教科書出版大手の東京書籍だが、じつは凸版印刷グループ。前述したように凸版印刷は「SEI-Net(セイネット)」で佐賀県と蜜月の関係にあり、凸版本社の指示で見積りにつき合ったと見ることも可能である。
佐賀県教委が見積り依頼を行った企業は、すべて県の仕事を請負っているか、「先進的ICT利活用教育推進事業」の実証研究に協力した企業ばかり。それが悪いわけではないが、「馴れ合い」の構図の中で、官製談合に近い動きがあったとすれば話は違ってくる。二つの業務委託では、入札公告以前に落札企業に参考見積りを依頼しており、意図的に業務の内容を知らせた形だ。学映システムもベネッセも、提案書を作成するのに十分な時間を与えられていたことになる。この動きを知っていた他社が、入札に参加するとは思えない。誘導された「1者応札」であれば、競争の原理は働かなかったも同然。業者側の言い値で、予算が組まれた可能性さえある。入札までの過程は、改めて検証されるべきであろう。