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安倍晋三 ― 愛国者か悪党か

2015年2月10日 09:35

安倍首相 自己顕示欲の強い人間にありがちなのが、反省や謝罪を拒否する姿勢。激しい言葉を連発するのも特徴だ。たいていが大言壮語を繰り返し、自らを大きく見せようと必死になる。こうした阿呆が、悪行の末に振りかざすのが「愛国心」。この国の歴史のなかで例を挙げようとすれば枚挙に暇がない。あるイギリスの文学者は、この手の類いを「悪党」と蔑んだ。
 さて、邦人2人を殺害したイスラム国に「罪を償わせる」と大見得を切った安倍晋三首相。「美しい国」だの「戦後レジームからの脱却」だのと聞こえの良い言葉を並べたてる一方で、“戦争のできる国”めがけて歩みを速めている。この人は愛国者か、はたまた悪党か。
(写真は、エジプトで演説する安倍首相。外務省HPより)

「愛国心は悪党の最後の隠れ家」
 新渡戸稲造――。樋口一葉の一代前に五千円札の顔となっていた、わが国が誇る教育者、思想家だ。英語で書かれたあと7カ国語で訳されたその著書『武士道』は、広く世界中で読まれ、日本人の精神構造=道徳心を海外に知らしめた。

 盛岡藩士の子として生を受けた新渡戸は、維新後、札幌農学校の助教授から海外留学を経て台湾総督府の役人に転身。のち、京都・東京両帝大の教授、旧制一高校長、東京女子大の学長などを歴任し、晩年には『武士道』が高く評価され、国際連盟の事務次長に選ばれている。

 その新渡戸が、旧制一高の校長を辞任するにあたって行った演説の最後で紹介したのが、イギリスの文学者サミュエル・ジョンソンの言葉 ―― “Patriotism is the last refuge of a scoundrel.”である。

Patriotism:愛国心
refuge:避難所、逃げ場、隠れ家
scoundrel:悪党、ならず者

愛国心は悪党の最後の隠れ家』と訳すことができる。

 愛国心が悪いという意味ではない。自分の悪行を正当化するため、愛国心を利用することを戒めた言葉と考えるべきだろう。代表的な例が、主として軍部を中心とした戦前の無能な戦争指導者たち。勝ち目のない戦を続けるため、権力批判は即「非国民!」。ひたすら愛国心を鼓舞し、あまたの国民に犠牲を強いた。当時の「悪党」たちが戦争の理由としてよく使った言葉が、「自存自衛」である。70年後の現在、同じような愚かな指導者がいることに、思い当たらないか?

正体不明の「美しい国」
 安倍晋三首相が目標としているのは「美しい国」である。首相が国会でも、街頭演説でも、著書でも、繰り返し述べてきたことだ。そのためには、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障といった「戦後レジーム」から脱却しなければならず、絶対条件として憲法改正が必要だと主張する。

 だが、「美しい国」が、どのような状態の日本のことを言っているのかわからない。そもそも、美しくないとすれば、日本のどこがそうなのか、具体的な「美しい国」とはどんな世の中なのか、安倍の言い分からは想像すらできないのだ。「美しい国」とやらが、形而上的なことを指しているのか、形而下的なことを示しているのかさえ明らかにされていない。まさにイメージ先行。漠然とした目標だけが示され、そこに至る過程だけがハッキリと形を成しつつある。安倍の言う「美しい国」は、日本を「戦争ができる国」にするための幻影なのである。

 下は、安倍の公式サイトにある一場面。これまた彼が好んで使う「瑞穂の国」を想起させる画像である。

安倍晋三.png

 この場面設定、安倍の政治手法を如実に示すものだといえよう。日本人の心象風景に訴えることで、打ち出した政策が有する危険性を糊塗しているとしか思えない。写真から想像されるのは、日本の原風景ともいえる中山間地にある農村。農家のご婦人に深々とお辞儀をし、礼を尽くしている安倍首相である。「私は、美しい瑞穂の国ニッポンや農家を守ります」――そう伝えたいのだろう。だが、実際にやっているのはTPPへの参加推進に農協改革。外国の農産物を増やし、農業への大企業の参入を加速させるのが目的だ。小規模農家が厳しい状況に追い込まれるのは目に見えている。画像にある風景を壊しかねないことを、安倍は進めているのである。

繰り返される愚行
 美しい国、美しい人、瑞穂の国、日本を取り戻す……安倍が好んで使う言葉は、どれも抽象的で心地よい。しかし、実際の動きは極めて攻撃的。靖国参拝、戦争責任の否定、国軍の創設、特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認、そして憲法改正と、どれをとっても戦前回帰。「自存自衛」を目指していることは疑う余地がない。

 戦前、「自存自衛」を叫んだ日本の戦争指導者たちは、中国や朝鮮と事を構え、ドイツ・イタリアをのぞく欧米諸国とも袂を分かつ道を選んだ。その結果が敗戦である。国民と国家に多大な悲劇をもたらした彼らは、まさに「悪党中の悪党」といえる。

 安倍首相はどうか。靖国や従軍慰安婦といった問題で中・韓を刺激し、戦争責任を否定する姿勢を露わにして欧米諸国からも危険視されているのが現状だ。かつての戦争指導者たちと同じことをやっているのではないか。

 謝罪や反省を拒否するところも、戦前の悪党たちと酷似している。首相は、火薬庫も同然の中東に出かけ、血税850億円をばら撒いたあげく、2億ドル発言で日本を過激派の標的にするお膳立て。邦人2人の命が犠牲になったにもかかわらず、自らの軽率な言動に何の反省もなく、「罪を償わせる」などと勇ましい言葉を口にする始末だ。勝てぬ戦争を始めておいて、国民に責任を押し付けたかつての戦争指導者と同じだろう。

 沖縄に対する仕打ちも、そうだ。大戦末期、沖縄は本土決戦までの時間を稼ぐための捨て石にされた。沖縄戦では県民の4人に1人が犠牲になり、戦後は国土の0.6%にしか過ぎない同県に、75%の米軍基地が集中する状況が続いている。一方首相は、知事選をはじめ4度の選挙で示された米軍普天間飛行場の辺野古移設反対の民意を一顧だにせず、移設工事を進める構えだ。沖縄の民主主義も、誇りも踏みにじり、再び本土の犠牲になれと言っているに等しい。自国民の声を聞こうともしない政治家が、愛国者であるはずがない。

 「愛国」を隠れ蓑に、国民を戦争に駆り立てる様は、かつての戦争指導者そのもの。安倍氏にはこう言うしかあるまい――「悪党、いい加減にしろ!」



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