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先生たちが語る佐賀県立校パソコン授業の惨状

2015年2月26日 09:40

タブレットPC 佐賀県が進める「先進的ICT利活用教育推進事業」について、問題点をシリーズで報じてきた。平成26年度に入学する全県立高校の新入生全員に強制的にパソコンを購入させ、授業に生かそうという試みだったが、肝心のパソコンが不良品。故障や不具合が頻発したうえ、教材のインストールさえままならないといった状況に陥っていた。背景にあるのは、県教育員会と業者の「癒着」としか言いようのない関係。主役であるはずの「生徒」をそっちのけに、数十億円の県費を費消している。
 一連の報道を見た複数の県立高校関係者から、実情の酷さを訴えるメールが多数――。そこで、直接連絡がとれた先生方とネット上の座談会を企画した。以下、その模様。

 ―― 現場の先生方は大変な思いをされてきたと思います。パソコン授業が始まって、ずいぶんと業務が増えたのではないですか?
 教員A:そうですね。始まる前から心配していましたが、パソコン対応に追われた1年でした。準備不足、杜撰な態勢、教員も生徒にも言えることですが、パソコンに対する習熟度の差……。右往左往するばかりで、とにかく忙しかった。正直、4月からのことを考えると、ウンザリします。

 教員B:一番酷い目にあっているのは、各校にいる「情報化推進リーダー」だと思います。、まず県教委主催のリーダー研修会に何日間も参加させられる。これは必須です。それから、教育フェスタへの強制参加、プレゼン大会への強制参加等々、本来の業務に支障が出るほどの出張があったそうです。そのうえに数々のトラブル。頭を抱えている推進リーダーが少なくなかったはずです。もちろん、授業を担当する私たちもてんてこ舞いでした。とにかく「パソコンを使え」ですから……。

 ―― C先生は情報化推進リーダーですよね。始まってからは、別の意味で大変だった……。
 教員C:はい。端末の不具合対応はほとんど毎日。電子黒板の不具合対応も相当数あり、参りました。また、スカイメニューや「SEI-Net(セイネット)」利活用のための校内研修会、デジタル教材の効果的な利活用についての校内研修会、情報モラルや著作権についての校内研修会など、これまでなかった仕事ばかりで……。こんな状況になるとは……。

 ―― 県教委は現場のことを分かっていたんでしょうか?
 教員D:分からないでしょうね。だから下らんアンケートばかり押し付けてくる。教員が端末を利活用しているかの調査、生徒たちの利活用状況や端末活用についての満足度アンケート、私たちも大変でしたが、調査をまとめる推進リーダーは、どれだけ時間があっても足りなかったんじゃないですかね。

 ―― アンケート結果は現状を伝えていますか?
 教員B:集計表を見て、分かったでしょう。推進リーダーの皆さんは一生懸命作成したと思いますが、実態を正確に伝える資料にはなっていないようですね。一部を切り取っても何の意味もない。一連の調査は、県教委の思い付き。何か残さないとまずいから、といった程度のものでしょう。アリバイ作りですね。そもそも、パソコンの利活用法も、習熟度も(学校によって)違う。比較する過去のデータもない。どうやって成果を確認するのか?できる訳がない。県立校全体の成績が上がったとします。そうすると、それはパソコンのお蔭、ということになるんでしょうか?冗談じゃない。

 ―― 不具合や故障の件数はやはり多かった?
 教員A:うちの学校での端末修理状況は、現在までに100件弱だと聞いてます。そのうち、使い方に問題があったケースもありますが、普通に使って液晶の色がおかしくなったり、画面割れが起きたり、音が出ないとか……。これは明らかに機材の不良です。それからソフトウェアの不具合にインストール不能。その度に時間をとられ、肝心の授業に専念できないということもありました。

 教員C:ある学校では、端末の修理が約半年で200件を越えたとも聞いています。そうしたトラブルに、情報化推進リーダーが授業や部活動の指導をこなしながら対応しているわけです、どれだけ大変か、県教委は何も理解していない。いや、理解しようとしていないと言った方がいいかも。

 ―― トラブル発生の時、授業が止まるんじゃないですか?県教委は、「隣の生徒のパソコンを見せてもらうから、問題ない」と話していますが?
 教員B:本当にそんなこと言ったんですか?信じられない!トラブルが起きれば、授業が止まるに決まってるじゃありませんか。その度に私たちは生徒の側について何がおかしいのか確認しなければならないんですから。ほったらかしで授業を進められるはずがない。無責任というより、非常識。事なかれ主義もいいとこだ。

 ―― 業者の対応は?
 教員C:とにかく先送りばかり。何がおかしいのか、分からなくてお手上げということも多かったですね。保守管理の業務委託を結んでいたそうですが、契約の金額に見合う仕事ではなかったんじゃないですかね。電子黒板も壊れましたが、その対応もお粗末だった。生徒がかわいそうだった。

 ―― パソコン授業について、言いたいことは?
 教員D:酷すぎるとしか言いようがありません。生徒も教員も、あまりにもかわいそうです。機器の不具合の異常な多さ、県教委のサポート体制の不十分さ、とても学力向上に寄与するとは思えません。むしろ大いに授業の進行の邪魔になっていると容易に推察することができます。何としても、見直す必要があります。この責任は、事業を進めてきた県教委の幹部がとるべきです。体制を一新して、今後の軌道修正と課題解決に取り組んでもらわないと、佐賀の高等教育がダメになってしまいます。

 教員A:同感です。パソコンの機種を替えたから大丈夫、ということではないんですね。根本的に、間違っているわけですから。何のためのパソコンか、そこのところから議論するべきでしょう。生徒のためだというのなら、万全の態勢を作ってから導入すべき。付け焼刃で「とにかく使え」では、誰のためのパソコン授業か分からない。私たち教員は、県教委のために教壇に立っているのではない。生徒たちのために頑張っているんですから。

 先生方の話から見えてくるのは、予想した通り、パソコン授業の“惨状”である。生徒を置き去りにした無謀な事業――「先進的ICT利活用教育推進事業」について、HUNTERはさらなる取材を続けている。



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