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佐賀県立高パソコン授業の惨状(下) ― 事業失敗 ツケは生徒に

2015年2月24日 10:15

佐賀県 タブレットPC 「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として、県立高校の新入生全員にパソコン購入を義務付けた佐賀県。しかし、導入されたパソコンは故障ばかりの不良品。教材のインストールもままならない状況に陥り、成績向上どころではなくなっていた。
 佐賀県立高の教育現場で何が起きていたのか――県教育委員会への情報公開請求で入手した資料や関係者への取材から、事業失敗を想起させる現状が明らかとなった。

パソコン利用の調査結果は?
 昨年4月にパソコン授業を始めた県教委は、5月1日付けで「県立学校におけるICT利活用の実施状況調査の実施について」と題する通知を、各県立学校長あてに発出。「成果と課題の検証を行い、その都度、改善・充実に努める必要がある」(同通知より)として、次の4種類の文書を作成するよう指示していた。

学習用パソコン利活用状況集計表(学校長用の集計表。推進リーダーが記入)

学習用パソコン利活用状況集計表

学習用パソコン利活用状況調書(授業担当者用の調書)

学習用パソコン利活用状況調書

ICT利活用教育実施に伴う授業評価集計表(学校長用の集計表。管理職が記入)

ICT利活用教育実施に伴う授業評価集計表

ICT利活用教育実施に伴う授業評価記録簿(授業担当者用の記録)

ICT利活用教育実施に伴う授業評価記録簿

 教科・時限ごとのパソコンの利用状況、当該学習でどの程度理解度があったかを、日毎あるいは一定期間まとめて記録するものだ。4月以来、教材のインストール不調やパソコンの不具合発生が相次ぐ中での通知。まともな調査ができたとは思えないが、それでも「やれ」という県教委。成果をあげた形だけは、なんとしても整えたかったということだろう。記録簿作成上の留意点として、以下を参照するよう指示していた。

【朝ホームルームでの活用場面】
 ・学習用パソコンで本日の時間割や行事を確認させる
 ・学習用パソコンから課題提出をさせる
 ・学習用パソコンに送られてきた各教師からのメッセージを確認させる
 ・学習用パソコンから教師への相談等をSEI-Netのメッセージ機能を利用して行わせる
 ・学習用パソコンに日々の記録(学習等の記録)をつけさせる
 ・担任からのお知らせを生徒の学習用パソコンへ配信する
 ・アンケート機能を使用した諸調査を実施する
 ・生徒への朝講話を学習用パソコンを開かせインターネットのニュース等を見せながら行う
 ・生徒の朝の3分間スピーチを学習用パソコンで作成したプレゼン資料を使用して行わせる

【授業】
 ・学習用パソコンを利用した確認テストを実施する
 ・学習用パソコンを利用した各デジタル教材を利活用する
 ・学習用パソコンを利活用による授業評価を実施する

【終礼】
 ・学習用パソコンで生徒に連絡事項を確認させる
 ・学習用パソコンで明日の授業等を確認させる
 ・学習用パソコンに学校行事等の配布資料を配信する
 ・学習用パソコンに家庭への連絡を配信する
 ・学習用パソコンに1日の学習内容等が保存されているか確認させる
 ・SEI-Netのメッセージ機能を利用して各先生に授業でわからなかった所の質問等をさせる

【連休中の活用】
 ・学習用パソコンで日々の記録(学習等の記録)をつけさせ、連休中の自己管理をさせる
 ・連休中の出来事を写真に撮らせ、朝のホームルームでスピーチさせる
 ・連休中の保護者への生活指導等のお願いを動画で生徒に持ち帰らせる
 ・入学してから1か月を過ぎたわが子の成長を、学習用パソコンで親にインタビューさせ、それを担任が学級通信等で 配信する(匿名にするなど、生徒や親のプライバシーに配慮する)
 ・連休中の課題を出来るだけ学習用パソコン上で行わせる
 ・部活動の合宿等の学習に学習用パソコンを利活用させる
 ・部活動での活動状況を学習用パソコンで撮影し、保護者に見てもらう

 ホームルームから授業、終礼、さらには連休中……。事あるごとにパソコンを使わせるよう、仕向けていた格好だ。しかし、パソコンを使った授業が、好結果をもたらしているとは到底言えないデータがある。

 授業評価は「A 分かった」、「B だいたい分かった」、「C あまり分からなかった」、「D 分からなかった」の4段階。開示された集計簿を確認してみたが、学校によってばらつきはあるものの、Bの「だいたい分かった」が最も多いという結果だった。Aの「分かった」を含めると約半数の生徒が授業を理解した形。ただ、パソコンのおかげであることをを示す調査内容は存在していない。ある教員はこう話す。
――「授業内容が分かったかどうか聞かれて、『分からない』と答えるのは難しいものですよ。先生を前にして、なかなか正直には言えないものだ。それにこの調査では、パソコンを使ったことで理解が進んだのかどうかさえ判然としないでしょう。第一、トラブルばかりで嫌気がさしているクラスがいっぱいあったんですから……。
 もう一点。調査するのなら、新年度が始まる前から準備しておくべき。5月になって(調査を)指示すること自体が、付け焼刃であることを証明しています。教材インストールの混乱で騒ぎになったから、すこしでも言い訳の材料が欲しかったというのが、本当のとこでしょうね」

眠るパソコン
 一方、パソコンの利活用状況調査からは、肝心のパソコン利用に何のルールもなかったことがうかがえる。前稿で明らかにしたように、パソコン授業はインストール不能や故障・不具合の連続で、崩壊寸前の惨状を呈していた。まともに利用できたケースの方が少なかったはずで、集計結果にもその影響が表れている。

学習用パソコン

 利活用調査は、「ア 確認テストで利用した」、「イ 授業評価で利用した」、「ウ ア、イ以外で利用した」、「エ 利用していない」を記入するもの。しかし、学校によってパソコンの利用方法がバラバラ。国語で使うケースが多い学校があるかと思えば、ほとんど使わない学校もあるなど、教科ごとのデータを揃えられない状況だ。トラブル続きであったことを証明するように、エの「利用していない」に100%と記入したケースも目立つ(上の写真参照)。確認テストや授業評価で使ったとするケースは少なく、パソコンを十分に授業に活かしているとは言い難い状況。これでは、パソコン授業を総合的に評価することなど不可能だ。

 こうした状況をどう考えているか――佐賀県内の教育関係者に話を聞いてみた。
 ――「授業開始と同時にパソコンを立ち上げるよう指示したとしても、すぐに生徒全員のパソコンが揃うわけではない。動きが重かったり、故障であったり、電池が切れていたりとトラブルはつきもの。パソコン自体を忘れてくる生徒もいる。結局、実質的に授業を始めるのは10分か、最悪な時は15分以上も後になる。そうなると邪魔なだけ。パソコンを使うたびに授業が遅れるのだから、そのうち『止めておこう』となる。まじめにパソコンを使い続けないと申し訳ないというので、支障のない範囲でパソコンを使っているというのが実情。ほとんど似たり寄ったりの状況ではないか」(県立校教員)

 ――「(パソコンは)眠らせておきたい。できれば使いたくない。実際、パソコンを敬遠する先生の方が多いのではないか。インストールはできない、故障はする。なんでこの機種を選んだのか、聞いてみたい。実証研究したうえでウィンドウズを選んだらしいが、私は間違ってると思う。使い勝手が悪すぎる。教員の習熟度にも問題があって、積極的にパソコンを利用しようという先生と、そうでない先生との差があり過ぎる。一番の問題は、パソコンを利用したことで、成績が上がったかどうかの判定ができないこと。学校によって使う場面、回数がバラバラでは話にならない。必要だったのは教員にパソコン授業に対する理解を求め、習熟する時間を与えることだった。小手先だけの研修ではダメ。宝の持ち腐れになってしまう。現状がまさにそれだ。この事業は、立ち止まって検証する必要がある」(県教委関係者)

求められる事業の検証
 佐賀県のパソコン授業は、何十億円もの税金を投入して進めてきた「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環だ。生徒の家庭にパソコン購入を義務付け5万円を負担させておきながら、収拾のつかない状況を招き、一部で事実上パソコンを眠らせる結果にもなっている。県教委暴走の裏に業者との癒着の影もちらつく。新知事は、事業の実態を検証し、直ちにストップをかけるべきではないだろうか。被害にあっているのが、「生徒」だということを忘れてはならない。



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