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中東支援をめぐる報道から見えてきたのは…

2015年1月29日 07:00

新聞社・民放TV比較表 安倍晋三首相が、中東訪問でばら撒いた海外援助の額は850億円。このうち2億ドルが「ISIL(イスラム国)と闘う周辺各国」に対するものだった。首相が表明した中東全体への支援は25億ドルという途方もない規模だが、イスラム国絡みの報道を優先させるあまり、支出額を巡る情報が、報道機関によって違うというおかしな状況になっている。
 正確さを欠いた報道の実態を調べてみると……。

ドル⇒円換算―金額バラバラで最大幅100億
 安倍首相が「ISIL(イスラム国)と闘う周辺各国」のために支援すると表明した額が「2億ドル」。イスラム国側が邦人2名と引きかえに要求してきた身代金の額も「2億ドル」だ。大手メディアの報道では、2億ドルのあとに( )を設け、その中に円換算の数字が記されている。じつはこのカッコ内の数字、「約240億円」とあったり「約236億円」になっていたりと報道機関ごとにまちまち。どれが正しいのか分からない。

 「2億ドル」ばかりが取り沙汰されているが、この外遊中に安倍首相が表明した中東支援の総額は「25億ドル」である。この25億ドルの円換算に至っては、メディアによって2,900億円から3,000億円まで様々。ドル表記は同じ25億ドルなのに、日本円で示した場合には最大100億円も違ってしまうのだ。報道機関ごとにレートの捉え方が違うらしいが、ひとつの公表事項を受けて、新聞やテレビ局のニュースごとに円換算の額が違うというのは、おかしな話だ。そこで、主に新聞各紙が「2億ドル」と「25億ドル」をどう円換算したのか、過去の記事から抜粋して表にしてみた。

新聞社・民放TV 比較表

 2億ドルについては、朝日、読売、日経、産経と主要紙の足並みが「236億円」でそろっている。毎日だけが「235億」としていたが、社説では「240億円」。5億円もの違いがある。問題は民法テレビが流している数字で、その多くが「240億円」となっていた。新聞の数字とは4~5億円の開きがある。

 最大幅5億円の差とはいうものの、これとて庶民からすると生涯拝むことのない金額。しかも、支出原資は税金だ。決しておろそかにすべき数字ではない。ましてや報道機関によって円換算した場合の金額に100億円もの違いがあるとなれば、納税者はたまったものではない。“些細なこと”で片づけることはできないのだ。

2億ドル円換算―いずれも間違い
 「2億ドル」について、もう少し詳しく検証してみると、大手メディアの杜撰な報道ぶりが浮き彫りとなる。
 1ドル=118円前後という、このところの円相場からすると、2億ドルはたしかに240億に近い数字となる。読売の記事は、きちんと『現在の為替レートで』と断っており、236億円という同紙が出した数字などは信ぴょう性が高そうに思える。しかし、いずれの報道機関の数字も、じつは正解とは言い難いのである。というのも、外務省の為替レートは年度ごとに違っており、必ずしも現在の相場で換算することができない場合があるからだ。

 念のため外務省に確認したところ、やはり今回の2億ドルには平成26年度のレートが適用されるといい、そうなると1ドル=97円(平成25年度なら1ドル=82円)。2億ドルなら、97×200,000,000で194億円が正解なのだ。報道されている「約240億円」といった数字との差額は46億円にもなる。大手メディアの報道にある230億円台~240億円は、外務省の計算とは異なるものであり、厳密に言うといずれも間違いなのだ。

 同様に、中東全体への支援額25億ドルは、現在の相場では約2,950億円となるはずだが、外務省の決めたレートなら2,425億円。前掲の表を確認すると、新聞各社が外務省の計算に近い数字にしている一方、産経がとんでもない数字を使っていることが分かる。お友達の安倍首相が表明した額を円換算するにあたって、正しいレートを確認もせずに過大表現したのだろう。やっぱりこの新聞は信用できない。

見えてきた首相の本音
 昨日報じた通り、エジプト、ヨルダン、パレスチナへの資金提供額を、すべて現在のレート(1ドル=118円)で円換算すると総額約914億円となる。ところが、外務省が決めた1ドル=97円なら、852億円。これは、外務省が認めた正式な金額である。首相が表明した中東支援の総額は25億ドル。つまり、2,425億円のうちの852億円分の使途が分かっているだけで、残りの1,573億円分は、どう振り分けられるのか明らかとなっていない。≪はじめに25億ドルありき≫だったことは、疑う余地がない。

 支援金の算定根拠を確認する必要がありそうだが、どうやら首相は「25億ドル」という数字を表明したかっただけで、あとは野となれ山となれというのが本音だったのではないか。中東でのパフォーマンスの最大の売りは「25億ドル」。「ISILと闘う周辺各国のために2億ドル」という発言に関しては、重きを置いていなかった可能性が高い。その結果どうなったか――くどくど述べる必要はあるまい。

報道に求められているのは…
 報道に求められているのは、イスラム国による蛮行の逐一を報じることだけではない。背景にある日本政府の行いの一つひとつを、きちんと検証していくことも必要なのだ。ましてや報道によって円換算した場合の金額が違うなどということは、あってはならないこと。日本の大手メディアは、公平・公正、そして正確を旨としているはずなのだから……。

 気になったことがもう一つ。報道によって円換算の数字が違っていることについて、外務省に訂正を申し入れないのか聞いてみたところ、「レートについて聞かれれば答えている」という。残念ながら、役所もメディアも、税金の使い道には無頓着ということだ。



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