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佐賀県知事選 樋渡陣営電話作戦への疑問

2015年1月 9日 09:05

佐賀県知事選 2日後に投開票を迎える佐賀県知事選挙に立候補している自公推薦候補の選挙戦術に、疑問の声が上がっている。
 玄海原発(佐賀県玄海町)再稼働や新型輸送機オスプレイの佐賀空港配備といった重要課題を抱える同県にとっては、県民の未来を左右する重要な選挙。4氏が立候補したが、大手メディアが作り出した対立軸は「政権VS農協」。自公が推す樋渡氏と、農協や自治体首長らが支援する山口氏の二人に絞った報道が続いている。
 そうしたなか、佐賀県の読者から多数送られてきたのは、樋渡陣営の選挙戦術に対する疑問。安倍自民党総裁の声で樋渡氏の支援を呼びかける電話が、県内5万件にかけられているというのだが……。

5万件の安倍電話
 問題の電話が県内の有権者宅に架けられてきたのは、今月4日から6日にかけて。安倍晋三首相の声で、およそ次のような文言が聞こえてきたという。

  • 佐賀県の皆さま、自由民主党総裁の安倍晋三です。
  • 自民党は、武雄市長としてさまざまな改革を行い、実績を上げてきた樋渡啓祐氏を、自信と責任をもって推薦しました。
  • 佐賀県ではこれまで、古川康さんが知事を務め、強いリーダーシップで大きく県政を発展させてきました。
  • 地方創生を実現するため、国会で活躍する古川康氏からバトンを受け継ぎ、佐賀県をさらに発展させていけるのは樋渡啓祐氏以外にありません。
  • 国と佐賀県、そして県民の皆さまでスクラムを組みましょう。樋渡啓祐氏を先頭に力を合わせ、(政権も)佐賀県の発展のために全力をあげて取り組んでまいります。
  • 新しい佐賀県のリーダーとして、樋渡啓祐氏の支援いただきますよう心からお願い申しあげます。

 電話を受けた人たちの走り書きや記憶に基づく内容だが、安倍首相が「自民党総裁」として、樋渡氏の支援を呼びかけたものであることは間違いない。その数5万件という。事実なら、組織的に電話作戦が行われたことになる。

 電話による投票依頼は合法。誰がどのような投票依頼をしようが、お咎めを受けることはないのだが、電話作戦の形態によっては、公職選挙法に抵触する可能性が出てくる。公選法は、ウグイスなどと呼ばれる車上運動員を除く選挙運動員への報酬を禁じており、電話作戦部隊に金銭を支払うことができないからだ。安倍総裁の電話は、樋渡陣営のものとみられることから、同法違反を疑う声が上がっているのである。

総務省は「合法」と言うが……
 安倍首相の声による5万件の電話作戦は違法か、合法か――。総務省選挙課に話を聞いたところ、「違法性はない」という。他からも問い合わせがあったらしく、聞いてもいないのに「システムを運用している業者に、労務費を支払った形であり、問題にはならない」。なるほど、樋渡陣営の電話作戦は業者のシステムによって実施されているというわけだ。

 しかし、この説明には承服しかねる。問題の電話は、明らかに樋渡氏支援を呼びかけるもの。投票依頼と解するのが普通だ。5万件が事実なら、相当額の費用が発生したと考えられ、実質的な選挙運動とみなすべきだろう。公選法は選挙運動への支払いを禁じており、法の趣旨からいえば、業者への支払いは選挙運動への報酬ではないのか?システム運用だからセーフというのなら、法の抜け道を使った手法。「脱法行為」といわれてもおかしくはあるまい。

 8日、樋渡氏の選挙事務所にこの件について取材を申し入れたところ、「電話の件なら自民党本部がやっていること。本部に聞いてくれ」。つまり、自陣営が実施した電話作戦ではないので、関係が無いというわけだ。法的な問題はクリアした形だが、やはりしっくりこない。

背景
 原発絡みの滋賀、普天間飛行場の辺野古移設で揺れる沖縄――昨年行われた両県の知事選で自民党推薦候補が惨敗した。佐賀を落とせば知事選3連敗。農協改革にもブレーキがかかる。安倍政権にとって、絶対に負けられない状況だ。しかし、告示直後の選挙情勢調査で10ポイント以上離れていた樋渡氏と山口氏の差は、年明けとともに消滅。ついには「両者が並んだ」と言われるまでになった。あわてた政権は、菅官房長官をはじめ大臣やタレント候補を総動員し、連日佐賀に送り込んでいるが、樋渡氏が抜け出す形にはなっていない。異例の5万件電話作戦は、政権の焦りを証明するものだ。

 中央主導の候補選定に、佐賀県政界が不満を持っているのは事実だ。農協改革に対する反発もあろう。しかし、政権が推す樋渡氏が苦戦している理由は他にもある。第一に、任期途中で知事職を放り出した古川氏から、3年半の任期を残して武雄市長を辞めた樋渡氏に「禅譲」が行われることへの拒絶反応。次に総選挙の大勝を受けて、強権姿勢を露わにしはじめた安倍政権への不信。新聞報道では触れられない樋渡氏の攻撃的な性格も災いしている。武雄市長時代には、意に沿わぬ相手に対してTwitterなどで『気色悪い』『ゴキブリ以下』とつぶやくなど徹底的に痛めつけ、多くの敵を作ってきたのである。レンタル大手「TSUTAYA(ツタヤ)」と組んだ武雄図書館再生、市内の全小学生に対するタブレット端末の無償配布、学習塾「花まる学習会」(さいたま市)との提携など、樋渡氏の行ってきた施策は斬新だが、図書館以外は緒についたばかりで本当の「成果」は不明だ。やりっぱなしの傲慢政治家に、無条件で知事職を任せるほど世間は甘くないのである。

政権の狙い
 ところで、5万件の安倍電話で引っかかっている文言がある。 『国と佐賀県、そして県民の皆さまでしっかりとスクラムを組みましょう。樋渡啓祐さんを先頭に、(政権も)佐賀県の発展のために全力をあげて取り組んでまいります』の部分だ。安倍政権が進めてきたのは原発再稼働であり、オスプレイの佐賀空港配備、そして農協改革だ。電話の文言を読みかえれば、次のようになるのだろう。

国と佐賀県、そして県民の皆さまでしっかりとスクラムを組み、原発再稼働とオスプレイの佐賀空港配備を実現させ、農協を解体しましょう。樋渡啓祐さんを先頭に、全力をあげて取り組みます

 佐賀県民が審判を下すのは11日。届け出順に、飯盛良隆(44)、樋渡啓祐(45)、山口祥義(49)、島谷幸宏(59)の4人が立候補している。



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