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鹿児島・公立エリート養成校「楠隼中学・高校」の現状(上)

2014年12月19日 08:00

『楠隼(なんしゅん)中学・高校』 福岡市内から車で5時間以上、鹿児島市内からも2時間ほどかかる肝属郡肝付町に、来年4月、鹿児島県立の中・高一貫校が新設される。
 男女共同参画の時代に、「全国初の公立全寮制男子校」。県外募集の在り方を巡っては、全国の私学関係団体から、抗議や批判が相次いだ。公立でありながら目指すのはエリート養成校――『楠隼(なんしゅん)中学・高校』を取り巻く現状について、2回に渡って報告する。  

公費50億で全寮制男子校
 楠隼中学・高校は、鹿児島県が肝属郡肝付町の現・県立高山高校を廃校にし、同地で新たに整備する新設校だ。近くに内之浦ロケットセンターがある立地を活かし、「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」との連携など産・学と結んだトップリーダー育成を売りにしている。定員は中学60名、高校60名。中学1年で入学した生徒が高校に進学する平成30年度から、高校の募集定員が30名となる。

 男女共同参画の推進が叫ばれる時代に、男子オンリーのエリート育成校計画。しかも、投入される公費は約50億円。事業として成り立つかどうかの見通しもたっておらず、伊藤祐一郎知事に対する昨年のリコール(解職請求)運動でも、失政のひとつに挙げられていたほどだ。県外だけでなく、鹿児島の教育関係者からも疑問の声は絶えない。

歴史ある「高山高校」は廃校
 取材班は先月、福岡市から九州自動車道に乗り、宮崎自動車道・都城インターで降りて現地に向かった。休憩を入れて約5時間半。高速別ルートを利用しても同じくらいの時間が必要だ。鹿児島市内からはフェリー利用で約2時間。鹿児島の友人が「陸の孤島」と話していたが、間違いではなかった。

 肝付町内をしばらく走ると、目的地が見えてくる。現在はまだ県立高山高校のはずだが、校門にはすでに二つの学校名が刻まれていた。下がその写真。「楠隼中学校 楠隼高等学校」の鮮やかな金色に対し、「高山高等学校」の古くなった文字が、両校の現実を物語っている。

楠隼中・高校、高山高校

 高山高校の歴史は古く、開校以来120年。俳優の哀川翔氏がOBだというので、バンカラな気風を持つ学校を想像していたが、戦前は高等女学校で、昭和23年の学制改革によって共学になったのだという。現在の生徒数は、2年生35名(うち女子27名)、3年生20名(同15名)の計55名。楠隼の開校にともない平成28年3月で廃校になるため、今年度から1年生の募集は行われれていない。

 少子化と過疎、二つの重い課題を背負った地方に共通する現象だろうが、高山高校の生徒数は減り続けてきた。統廃合を含めて、高山高校の今後が検討されたというが、出てきた答えが「楠隼」だったというわけだ。正直、交通の便は最悪。車を使わねば行くことのかなわぬ地域である。募集しても生徒は容易には集まらない。そこで考え出されたのが、全寮制、男子限定、エリート育成というコンセプトだったのだろう。高山高校の所在地から車で1時時間ほどのところに内之浦ロケットセンターがあったことから、新設校のコンセプトには「宇宙」も付け加えられている。

 下の写真は、改修工事中の高山高校。楠隼は高山高校の建物を再利用するため、校舎が新築されることはない。高山の在校生がいなくなれば、ここは晴れて「楠隼」というエリートだけの学び舎となるのである。

楠隼高校2.jpg

 校舎の新築がないのに、なぜ50億円もの公費が必要になるのか――。じつは、投入される税金の大半(40億円強)が、下の写真にある「寮」や食堂などの整備費なのである。計画では、写真のような寮が6棟建てられることになっている。

楠隼寮.jpg

 ずいぶんと高額な建設費だが、それもそのはず。楠隼のホームページ上で見ることができる寮の概要は、こうなっている。

楠隼イメージ

 全室個室、空調完備、地元食材を使ったバランスのとれた食事を提供する食堂、パソコン設置の図書館……。まるで有名私学の設備。公立の学校がやることとは思えぬ豪華さだ。周囲に何もない環境であるがゆえに、無理な投資をせざるを得ないということ。さらに言うなら、実績のない「進学校」にとって、これしか道がないことを示している。

 それでは、肝心の教育内容はどうなっているのか――。次稿では、楠隼の目指す姿やその問題点について、県教委や教育関係者の話を交えて報じる。



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