先週28日、佐賀県の古川康前知事の陣営が、ホームページ上で衆院選「出陣式」の日程を明記し、参加を呼びかけていたことを報じた。明らかな事前運動で、公職選挙法に抵触する可能性が高かったが、記事配信後の同日午後には古川氏側が問題の箇所を削除。3度の知事選を経験しており、選挙慣れしているはずの陣営とは思えぬ落ち着きのなさを露呈した。
任期途中で国政に転じようという前知事に、佐賀の有権者が懐疑的な見方をしているのは事実。加えて突然の解散・総選挙で準備不足は否めず、焦りからのフライングだったとみられる。背景にあるのは……。
オスプレイ佐賀空港配備の裏
任期途中で知事を辞職し、国会議員を目指すという古川氏。九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の再稼働、新型輸送機オスプレイ(下の写真)の佐賀空港配備――いずれも県民の将来に多大な影響をもたらすことが確実な案件を放り出し、国会の赤絨毯をめざすというのだから、どう言い訳しても無責任との批判は免れまい。原発を巡る九電やらせメール事件も、うやむやのままだ。これでどうして国政転出か?
じつは今年7月、オスプレイの佐賀空港配備問題が浮上した直後、政府関係者から次のような裏情報が寄せられていた。
―― 古川と自民党との間で、話が出来上がっている。古川は、間違いなくオスプレイの佐賀空港配備を認める方向で動く。その見返りは佐賀2区での公認。やらせメール事件の後遺症が残っており、次の知事選で有力候補が出馬すれば再選は危ない。いろいろと理由をつけて知事選を回避し、次の総選挙に自民党公認で出る。
その後、思いもよらぬ突然の衆院解散。古川氏の国政転出は頓挫したかに見えたが、政府関係者が囁いた通りの展開となった。佐賀空港へのオスプレイ配備を巡って、初めこそ慎重な姿勢を見せていた古川氏だったが、徐々に政府寄りの姿勢へと転じ、辞任直前の17日の会見では「現在及び近 い将来、民間空港としての使用、発展に支障がないことを確認した」と述べ、配備容認の姿勢を露わにする。下は、会見での発言だ。
ずっと前から申し上げているように、私は地方自治体は基本的には国の安全保障に関する事柄については協力をすべきだと考えています。これはもう前から申し上げているとおりです。でありますから、本来であれば受け入れるべきだろうという前提に立っているわけです。
しかしながら、全く何も前提なしに、ああ、いいですよというわけにはいきませんよというので、私どもは検討の前提となること、あるいはクリアしなければならないことというのをお示しした上で、それがクリアできるかどうかということも自衛隊に検証していただき、また私どもとしてはその確認を行ってきているんですね。だから、作業のプロセスとしては、認めないために作業をしているわけじゃなくて、防衛省さんが認めてほしいとおっしゃっている、私どもも一般論としては協力しなければならないということを申し上げている。
しかしながら、我々としてもチェックをしなければならないことがあるということでチェックをしてきているわけです。そこの中で、大前提のうちの、今と近い将来については確認ができましたということを今の状態として申し上げているということです。
本来であれば、今ここでご報告する意味がないと言えばないんですけれども、ああいう資料が来たということで、皆様方からどのように私がどう考えているのかということについて随分答えを求められておりましたので、今の段階でこう考えているということを途中経過として本日皆様方にご報告、公表しているということでございます。
古川氏が会見で述べた受け入れの「大前提」とは、オスプレイ配備が民間空港の使用・発展に支障をきたさないという国の保障。会見では、防衛省が出してきた検証結果を基に県がチェックしたところ、「支障がない」という結論になったことを力説した。
ただし、防衛省の検証は一方的な見込みの数字を並べただけ。自衛隊機の離着陸を1日「60回」にするなど、守られるあてのないものだ。県議会での議論も経ておらず、知事がこの段階で「支障なし」と公表するのは早計。想定外の解散・総選挙となったため、佐賀空港へのオスプレイ配備に道をひらく作業を急いだ格好だ。
本人が語っているように、もともと≪地方自治体は基本的には国の安全保障に関する事柄については協力をすべき≫というのが古川氏の政治家としての信条。佐賀空港の軍事基地化や飛行ルート上での事故を懸念する声に対し、言い訳の材料が出てくるのを待っていたというのが本当のところだろう。
任期途中で県政を放り出す形となったのは誤算だろうが、古川氏にとっては既定路線を歩むため、なんとしてもオスプレイ配備に前向きな姿勢を印象付けたかったともとれる。オスプレイ配備への事実上のゴーサインこそが、自民党公認の「前提」であることを証明した形。政府関係者が明かした裏話が、信憑性を帯びるのは致し方あるまい。
玄海原発再稼働で弱気に?
オスプレイの佐賀空港配備同様、佐賀県民の未来に大きな影を落としているのが玄海原子力発電所(右の写真)の再稼働問題。佐賀県の政界関係者から「九電一家」と揶揄されるほど、古川氏と九電の関係は深く、やらせメール事件はその延長線上で起きたもの。鹿児島の伊藤祐一郎知事が川内原発(鹿児島県薩摩川内市)再稼働に合意を表明したことで、ハードルは下がったというものの、九州で6基ある原発のうち、4基を擁する玄海原発再稼働のカギは、知事が握ることに変わりはない。知事である古川氏の動向に注目が集まっていた。
しかし、玄海原発での過酷事故は長崎県や福岡県にも甚大な被害をもたらすことが確実視されており、周辺住民の懸念も大きい。九電と近い古川氏の合意表明に、県内外の市民が納得するとは思えない。古川氏の国政への転身は、そうした雰囲気を感じとった結果だった可能性もある。
いかなる理由があるにせよ、県政の重要課題を放置したまま、知事の座を放り出したことに変わりはない。無責任というより非常識。自身の政治生命を保つため、空港問題を利用し、県民を踏み台にした姿勢に批判が出るのは当然だろう。
言行不一致
その古川氏、問題のホームページ上に次のような一文を記している。
「一隅を照らす」という言葉が好きです。これは私の政治観にもつながっています。
自分が責任を持って担当している分野の仕事を一所懸命にこなす、というのがもともとの意味だと思います。
こうも言っている。
私には、地域や日本を元気にしていくためにさまざまな夢やアイデアがあります。しかし、「実現してこそ大人の夢」です。私は、こうした夢を実現していきます。そしてそれは可能であると信じています。私が辞任することで一定期間、佐賀県知事がいない状況になりますが、今回、私が次の舞台に立つことができればそれ以上の成果をしっかりと出していきたいと思います。
あまりの言行不一致と身勝手さに呆れるしかないが、古川氏への評価は、佐賀2区の有権者が判断することだろう。しかし、これだけは同氏に聞きたい。