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選挙情勢報道への警鐘

2014年12月 5日 09:25

新聞各紙 4日、メディア各社が衆院選の情勢調査結果を一斉に報じた。いずれも自民党の圧勝を予想する内容で、単独もしくは自公で300議席を上回る勢いなのだという。“また始まった”というのが実感。ウンザリする。
 選挙のたびに繰り返される情勢調査の数字が、選挙結果に与える影響は決して小さくはない。事実、自民優勢を伝える報道が相次いだことで、「投票に行くのがバカバカしくなった」と漏らす市民もいるほど。公示からわずか3日で一つの流れを作り出す愚行が、この国の政治を歪めている。

公示後2日の数字の意味
 珍しく読売、朝日、毎日と主要3紙の足並みが揃った。『自公 300超す勢い』(読売)、『自民、300議席超す勢い』(朝日)、『自民300議席超の勢い』――公示日当日の2日から3日にかけて、新聞各紙と共同通信(毎日が使用)が行った選挙戦序盤の情勢調査結果だ。自民党圧勝を予想させるもので、共産党を除く野党各党の伸び悩みも報じている。

 ここ数回の国政選挙の傾向として、序盤の調査結果を、そのまま投票日まで引きずるのがほとんど。自民優勢は揺るぎそうにないが、もともと野党第一党の民主は候補者難。全国の小選挙区を埋められなかったのだから、やむを得まい。野党の選挙協力も機能していない。ただ、選挙取材で受ける印象と、調査結果の数字とに違和感はある。選挙区にもよるが、投票先を決めきれていない有権者の方が多いというのが実感なのだ。ちなみに、読売、朝日、共同の「投票先未定」の数を比較してみると、こうなる。

・読売 ⇒ 小選挙区で2割 比例区で3割 

・朝日 ⇒ 小選挙区で4割 比例区で3割 

・共同 ⇒ 小選挙区で53.5% 比例区で45.5% 

 この時期、自らの投票行動についてハッキリと意思表示できるのは、これまで特定政党や候補者を支持してきた人ばかり。政策や候補の人柄などを総合的に判断している有権者は少ないはずだ。第一、選挙が始まってから2日間で、それぞれの訴えが浸透するはずがない。現段階では確かに自民優勢なのかもしれないが、投票先未定層が動いた場合は、どうなるかわからない状況というのが本当のところだろう。

 調査に応じた有権者数を見ると、読売8万人、朝日6万人、共同12万人。サンプル数の多い共同の調査結果を重く見るのが普通で、そうなると「小選挙区で53.5% 比例区で45.5%」が態度未定であることは、取材現場の肌感覚に近い。もうひとつ踏み込むなら、読売の「小選挙区で2割」という数字は現実離れしている。それにしても、有権者は大手メディアのこうした報道を望んでいるのか?

投票意欲を削ぐ選挙情勢報道
 そもそも、公示直後に投票先を聞き、数字を並べ立てるのに何の意味があるのかわからない。報道機関が有権者に伝えるべきは、各党・各候補者の訴えの詳細であって、予想屋の見立てではあるまい。衆議院議員選挙の運動期間は、公選法で12日間と定められている。選挙区の有権者に訴えを浸透させるための最低限の時間だ。有権者はこの間、各党・各候補者の主張を見比べ、投票先を決める。勝敗を決めるのは有権者の1票であって、報道機関ではない。しかし、現実は違っている。

 始まってすぐに報道で選挙の趨勢が見えてしまった場合、考えられる有権者の行動は二つ。しらけて棄権に回るか、“これではいかん”と奮起するかのどちらかだ。ただ、序盤の調査結果を、そのまま投票日まで引きずるという最近の傾向からして、前者のケースになる可能性が高い。4日午後の取材では、新聞各紙が伝えた選挙情勢について首をかしげる有権者がいる一方、「投票に行くのがバカバカしくなった」と感想を漏らす人も――。選挙情勢報道が、一部の有権者を投票所から遠ざけているのは紛れもない事実である。問題は、大手メディア側がその責任を感じていないことだろう。

大手メディアの矛盾
 大手メディアの選挙報道には、疑問を感じることばかりだ。テレビ番組でも、新聞の紙面でも、決まって出てくるのは「各党、各候補者の訴えに、じっくりと耳を傾けて、必ず選挙に行きましょう」といった呼びかけ。アナウンサーも評論家も記者も、揃って口にする。そう言っておきながら、公示からたった3日で選挙が終わったかのような報道である。自己矛盾に気付いていないとすれば、もはや病気と言うしかない。投票先未定の数字を挙げ、「終盤情勢が変わる可能性がある」というのも決まり文句。しかし、これは「選挙妨害」との批判をかわすための、報道の逃げに過ぎない。姑息な手法はテレビも新聞も同じだ。

 大手メディアの矛盾はまだある。選挙前、一定の時期になると権力側の不祥事についての報道がピタリと止まる。「選挙結果に影響を与えるから」というのが報道自粛の理由だ。しかし、これは明らかな間違い。報道の使命が権力の監視にある以上、いかなる状況にあっても、国民に真実を伝える義務があるはずだ。選挙前における大手メディアのふがいなさは、抗議されるのを避けたいという堕落の表れでしかない。そのくせ、選挙結果に重大な影響をもたらす「選挙情勢調査」の数字だけは競って垂れ流すというのだから、始末に負えない。報ずべきことから逃げ、報じてはならなことを垂れ流す大手メディアの姿勢が、この国の政治を歪めているのである。

 選挙は始まったばかり。何が問われているのか、考える時間はたっぷりとある。マスコミの情報操作に惑わされる必要は、ない。



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