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僭越ながら:論

総選挙 本当の争点

2014年11月21日 08:45

国会議事堂 希代の戦争好きが、衆議院の解散・総選挙に打って出る。
 18日夜、消費増税の延期と衆院解散を表明した安倍晋三首相が会見で述べた方針決定の理由とは、増税先送りとアベノミクスについて国民の信を問うというもの。集団的自衛権、特定秘密保護法、そして原発推進といった、まさに国民の選択が必要な事柄については一切言及しなかった。国士を気取ってはいるが、政治手法は姑息。争点を隠して、野党の足並みが揃わぬうちに任期を延ばそうという魂胆だ。
 きょう衆院解散。師走総選挙の争点について考えてみたい。

安倍政権のこれまで
 安倍政権の足取りを簡単にまとめると、こうなる。

  • スタート時点からしばらくは経済政策重視。大胆な金融緩和、機動的な財政出動、そして成長戦略という「3本の矢」からなる総合的な経済政策「アベノミクス」によるデフレ脱却を最優先課題に掲げ安全運転で出発。

  • 日銀が「異次元の金融緩和」実施。急速な円安・株高。好況感に湧く国内。

  • 機動的な財政出動として、国土強靭化という名の「公共事業」ばら撒き。建設単価の高騰で、入札不落相次ぐ事態に。

  • 特定秘密保護法制定。

  • 武器輸出3原則の見直し。

  • 解釈改憲による集団的自衛権の行使を閣議決定。

  • 消費税を5%から8%に引き上げ。

 ざっと以上のような流れだが、この間、原発推進を決めたほか、沖縄の民意を無視して、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を強行するなど、やりたい放題。アベノミクスを隠れ蓑に、軍事国家への道を歩み続けている。国会議員の定数削減など、身を切る努力は放置したままだ。

破たんしたアベノミクス
 経済政策であるアベノミクスが失政であることは、ほとんどの国民が肌で感じているだろう。安倍政権の登場以来、儲かってきたのは一部の輸出関連業や株式投資家だけで、庶民の暮らしは厳しくなる一方。持てる者と持たざる者の格差は、民主党政権時代より拡がったというのが実感だ。消費増税が、こうした状況に拍車をかけたのも事実である。なにより、国内総生産(GDP)が2期連続でマイナス成長となったことが、政権の間違いを示している。

 アベノミクスで機能したのは、黒田日銀が実施した金融緩和だけ。それによってもたらされた急激な株高が、好況感を演出したに過ぎない。過大な公共投資が、景気回復への特効薬にならないことも証明済みだ。ならば、結果が出ている政策を争点に仕立てる必要はあるまい。唐突な衆院解散を、小泉純一郎元首相の“郵政解散”と並べて論じる向きもあるようだが、まったく意味合いが違っている。もちろん、争点を一つに絞った「ワンイシュー選挙」でもない。では、本当の争点は何か――?

終始一貫「民意無視」
 安倍首相が行ってきた一連の政策判断に、通底しているものがある。それは「徹底的な民意無視」の姿勢だ。特定秘密保護法、解釈改憲による集団的自衛権の行使、原発推進、普天間飛行場の辺野古移設……。いずれも国民の半数以上が反対あるいは懸念を示しているにもかかわらず、首相の思惑だけで事を決めてきたのが実情だ。「国益」と称して、安倍自身のためのゴリ押しがまかり通っている。

 とくに沖縄への対応をめぐっては、民意無視の姿勢が如実に表れている。1月の名護市長選、9月の同市議選、そして今月16日の沖縄県知事選と、関係自治体の選挙で「辺野古移設反対」を掲げた勢力が完勝。沖縄県民の民意が示されているというのに、安倍政権は移設に向けた作業を止めようとしていない。これほど民主主義の基本を踏みにじる政権は、戦後政治史のどこをひもといても見当たるまい。

富国強兵
 「富国強兵」という言葉を思い出す。明治維新後の日本が、西洋列強に追いつけ追い越せで国力をつけ、軍備増強を最優先にひた走っていた頃のスローガンだ。安倍政権の足取りは、まさにこの富国強兵路線に一致している。

 アベノミクスは一部の財界、とりわけ軍需産業のための施策であり、そう考えれば核兵器開発と表裏一体の「原発」に固執する安倍の方向性に合点がいく。特定秘密保護法や武器輸出解禁、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認は「戦争ができる国家」への一歩と言えよう。安倍のやってきたことは、戦争の悲惨さ、核の恐ろしさを知るこの国の否定であり、民主主義を踏みにじる暴挙なのだ。彼の訴える「美しい国」とは、眠れる獅子といわれた清国や帝政ロシアを打ち破った頃の日本なのかもしれない。そのための「戦後レジームからの脱却」なら、とんでもない時代錯誤である。

問われるべきは「国の行方」 
 ならば戦後70年を前にした年末の総選挙、争点はおのずと見えてくる。民意無視の政治に信任を与え戦争への道を拓くのか、はたまた主権者たる国民の声を聞く政治で誇りある平和国家を選ぶのか――、そのどちらかということ。問われるべきは目先の経済などではなく、この国の行方なのである。

 大手メディアは、経済政策が争点なのだと垂れ流している。実施される世論調査も、「どの政党に投票しますか」といった通り一遍のものだ。この際、下らない質問はやめて、ハッキリとこう聞いてみるべきではないか――。

Q:民意を無視する政治を認めますか?
Q:戦争と平和、どちらを選びますか?

 子どもや孫たちの世代のことを真剣に考えるなら、答えは決まっていると思うが……。

<中願寺純隆>



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