全国注視の沖縄県知事選は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に異を唱えた翁長雄志前那覇市長が初当選。巨額な沖縄振興費と引きかえに基地を押し付ける安倍政権に、「オール沖縄」が拒絶の意思表示をした形だ。沖縄県民の見識に敬意を表したいが、選挙取材で沖縄を訪れるたびに気になっていることがある。
林立する候補者の旗、氾濫する印刷物、走り回る違法街宣カー……。公選法無視と言っても過言ではない状態の選挙が、繰り返されているのである。
林立する「のぼり旗」 走り回る「違法街宣カー」
名護市長選と沖縄県知事選、二度の取材で驚いたのは、選挙期間中であるにもかかわらず、至るところに候補者の名前を大きく染め抜いた「のぼり旗」が林立していたことだ(下の写真参照)。
公職選挙法は、選挙運動のために掲示する文書図画について、選挙事務所や選挙カーの表示用として使用される看板などのほか、ポスター、たすきなどに限定しており、名前を大書したのぼり旗はもちろんご法度。本土の選挙では、選挙前の一定の時期からのぼり旗は警察の取り締まり対象で、選挙期間中なら、なおさら厳しく使用を禁じられる。これが沖縄では野放し状態なのだ。
驚かされるのは、のぼり旗の数だけではない。下の写真の通り、各陣営で作成される印刷物は幾種類にも及び、法定のハガキやビラだけを認めた公選法の頒布文書についての規定も守られているとは言い難い。
違法行為はさらにある。下は名護市長選の折に撮影した写真だが、沖縄では選挙期間中、禁じられているはずの候補者陣営以外の拡声器を使った「政治活動」(いわゆる「街宣」)が、公然と行われているのである。県知事選期間中も、至るところで同様の所業を確認したが、本土の選挙では決してあり得ない光景だ。
占領下の名残
なぜ沖縄の選挙では、違法行為がまかり通っているのか?選挙違反の取り締まりにあたっている沖縄県警捜査二課によれば、違法と判断した時点で、その都度警告はしているが、聞き入れてもらえないのが現状だという。沖縄の特殊事情と、法との間で苦しい立場にあることが分かる話しぶりだった。
名護市長選の折、ある選挙関係者から聞いた話を思い出す。
「沖縄公選法とでも言うんですかね。占領下の名残で、なんでもありの選挙が続いている。県警もなんとか是正しようとした時期があったが、うまくいかなかった。いけないことかもしれませんが、ある意味、選挙の原点みたいなところがあるんじゃないかと思ってます。選挙は自由にやるべきで、なんでもかんでも規制するのがいいとは思えない」
一理あるとは思うが、派手な選挙にカネがかかるのは確かだ。名護市長選と知事選でお目にかかった違法街宣カーは、いずれも基地移設に賛成する立場のもの。移設推進派を応援していたのは間違いない。のぼり旗にしても、目立ったのは移設推進を訴えた候補者の名前。とくに知事選では、黄色地に赤く「なかいま」とある旗が、県内のあらゆる場所に立てられていた。物量では、圧倒的に現職が優勢だったが、結果は10万票の大差をつけられ落選。違法行為が必ずしも当選に結びつくわけではない、ということを証明している。沖縄らしいといえばそれまでだが、同県の政界関係者は、選挙の在り方について再考すべきではないのだろうか。