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朝日を笑えぬ読売新聞 ― 「吉田調書」が明かした原発誤報に頬被り
お粗末誤報対応の数々

2014年10月29日 08:55

 従軍慰安婦と吉田調書をめぐり朝日新聞が犯した一連の誤報。この時とばかり朝日たたきに精を出してきた読売新聞だが、“目くそ鼻くそを笑う”とはこういうことを言うのだろう。大手メディアではほとんど取り上げられていないが、福島第一原発に関する報道では、事故から約2か月後、当の読売が1面トップで誤報を垂れ流していた。
 原子炉への海水注入を、当時の管直人首相が「止めた」とする記事だが、9月に公表された「吉田調書」には、まったく違う状況だったことが記録されていた。
 読売はダンマリを決め込むつもりらしいが、同紙の誤報に対する姿勢を拾ってみると、他紙を批判する資格などないことが分かる。

原発事故めぐる自社の誤報にはダンマリ
 下は、平成23年5月21日の読売新聞朝刊。1面トップの見出しは『首相意向で海水注入中断』。記事は、原発事故当時の首相・管直人氏が、原子炉内への海水注水に懸念を示したことで注水が止まり、事態が悪化したかのような内容となっている。ご丁寧なことに、当時は自民党総裁でもなかった安倍晋三氏の発言を取り上げ「万死に値するミスで、ただちに首相の職を辞すべきだ」とまで言わせている。

読売新聞 2011年5月21日

 一方、9月に公表された「吉田調書」。東京電力福島第一原子力発電所の所長だった吉田昌郎氏は、「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)の平成23年7月29日の聴取で、次のようなやり取りを行っていた。

 質問者 資料があれもこれもで申し訳ないんですが、今度は15条通報の方にまいりますけれども、15条通報の中に、26報というものなんです。一番右側に、これは手書きで右上のところに27と書いて あるものなんですけれども、これが第15条26報というもので、発信時刻は20時38分とありまして、こちらを見ますと、この中の発生した特定事情の概要という欄の手書きの部分に、20時20分に消火系 ラインを使用して、海水による原子炉への注入を開始したということで、このときの海水による原子炉への注入開始が20時20分というふうに記載があって、ただ、東軍が公表している時系列によれば、19時04分にはもう海水注入を開始していたということになっているんですが、なぜこういうずれが生じ ているんですか。

 回答者 これは、もう既に課題になっていますけれども、私どもとしては、この前にも海水注入する ことについても了解が取れていると。本店にも報告してやってくれていますので、19時4分に海水注入を開始しましたという話はしております。

 した段階で、いろいろと取りざたされていますが、正直に言いますけれども、注水した直後ですかね、官邸にいる武黒から私のところに電話がありまして、その電話で、要するに官邸では海水注入は、5月二十何日にプレスした内容とちょっと違うかもわかりませんけれども、私が電話で聞いた内容だけをは っきり言いますと、官邸では、まだ海水注入は了解していないと。だから海水注入は停止しろという指 示でした。武黒からですね、雰囲気とか、そんな話は何にもないです。中止しろという話しか来なかっ たです

 それで、それを本店の方に、今、官邸にいる武黒からこういう話が来たけれども、本店は聞いている のかという話をして、そのときに、本店で、小森は多分いなくて、プレスから何かでいなくて、高橋と いうのがいて、高橋と話をして、やむを得ないというような判断をして、では止めるかと、ただし、入 れたことについてどういう位置づけをするかということを、試験注入と、要するにラインが生きている か、生きていなし、かを確認したということにしようじゃないかということを相談の上、どちらかというと、試験注入としづ言葉を本店が挙げてきたと思うんですけれども、うちはそんなことは全く思ってい なくて、試験注入をしようということで、19時 04分は、ある意味では試験注入の開始という位置づけ です。

 では、試験注入が完了したので停止をするということにしましようと、というか、停止ということで 決定したんです。ただ、私は、もうこの時点で水をなくすなんでいうこと、注水を停止するなんて毛頭 考えていませんでしたから、なおかっ中止だったら、どれくらいの期間を中止するのかという指示もな い中止なんて聞けませんから、30分中止というのならまだあれですけれども、中止と、いつ再開できる んだと担保のないような指示には従えないので、私の判断でやると。ですから、円卓にいた連中には中止すると言いましたが、それの担当をしている防災組長、○○といいますけれども、彼には、ここで中止をすると言うけれども、ちょっと寄っていって、中止命令はするけれども、絶対に中止してはだめだという指示をして、それで本店には中止したという報告したということです

 その後で、先ほどの27報の議論になりますが、その後で官邸の方から注水していいよという話が来たのが、それが何時ごろか忘れましたけれども、では、多分、27報の直前だと思うんですけれども、では、わかったでは中止、本格的に注水を20時20分にするということで報告しましようというのが、こ の27報の位置づけです。

 質問者 そうすると、まず、最初に19時04分の後、それほど開がないときに、武黒さんの方から、官邸の方の意向というものを電話で聞いて、その意向というのは、海水はちょっと待てと、まだ了解が出ていないということだったので、その後、本店におられる高橋さんのところへ連絡を取られたという ことになるんですね。.

 回答者 連絡もテレビ会議がつながっていますからね。

 質問者 それは、テレビ会議を通じてのお話。

 回答者 武黒からのやつは官邸なので、官邸はテレビ会議入っていませんので、電話で私のところに 来たので、できませんよ、そんなことと、注水をやっと開始したばかりじゃないですかと、もっとはっ きり言いますと、四の五の言わずに止めろと言われました。何だこれはと思って、とりあえず切って、 本店にこういうことを言ってくるけれども、どうなんだと、そっち側に指示が行っているのかという話 を聞いて、指示がまた言っていたような、言っていないようなあいまいなことを言っていましたけれど もね、高橋はね、彼は聞いていて握りつぶそうとしたのかなという気もしますけれども、そこは高橋さ んに聞いてください。

 質問者 では、そとの高橋さんとのやりとりというのは、テレピ会議を通じてのやりとりになるわけ ですね。

 回答者 はい。

 質問者 結局、これはやむを得ないということで、本店側の方としても、こうやって止めるしかない ということだったので、一応テレピ会議の表向きでは、所長としても止めるという形を取った上で、それで円卓のメンバーにもその旨言った上で、○○さんの方には止めるなよということを、その円卓から 離れたところで言って、そのまま継続をさせた、ということなんですね。

 回答者 はい。

 生々しいやり取りだが、海水注入を止めたのが管元首相ではなく、東電本店の「武黒」氏だったことは明らか。さらに、海水注入が中断していなかったことも明かされている。読売の報道は「誤報」であり、あやふやな情報に基づき管元首相に「辞めろ」とまで言った安倍現首相も、軽率のそしりは免れまい。

 吉田調書が公表された後、読売は朝日ばかりを攻撃してきたが、この誤報については何ら検証していない。都合の悪いことは棚に上げるというのなら、読売に報道を名乗る資格などあるまい。

置き去りにされた県警不祥事誤報の検証 
読売新聞 2012年7月22日 読売新聞は平成24年7月、福岡県警の不祥事をめぐる報道合戦の過程で、同県警本部長名の職務質問に関する通達が存在し、指定暴力団・工藤会への捜索で、その通達が見つかっていたことを一面トップで報道した(右は同日の読売新聞朝刊)。

 しかし、その後のHUNTERの取材で、同紙が前提とした県警本部長名の職務質問に関する通達自体が存在しておらず、工藤会への捜索で問題の文書が見つかったとする記事の内容自体が間違いだったことが判明。同紙は後日、誤報を認める記事を掲載し、記事を取り消している。だが、誤報を認めたものの、なぜこうした記事が1面トップで報じられたのかについては、今日まで何の説明もなされていない。他紙にはやかましく言い立てる誤報の検証を、読売は意図的に怠っているのである。ある意味、朝日よりタチが悪い。

「世紀の大誤報」でのお粗末検証
読売新聞 2012年10月13日 読売の誤報では、平成24年10月の「iPS心筋」の臨床応用をめぐる世紀の大誤報も記憶に新しい。このケースで同紙は、誤報に至った経緯についての検証特集で、疑惑まみれの大学教授にコメントを求めるという醜態を演じていたことも分かっている。ニセ学者に騙された末、検証するために話を聞いた相手もインチキ学者だったという、洒落にならない話である。

 右は同年10月13日の検証記事。この中に「手術手法に専門家疑問」と見出しをつけた一説があるが(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)、検証記事に登場したのは京都府立医科大の松原弘明教授(当時)。同元教授をめぐっては平成24年、血圧降下剤バルサルタンの臨床報告に関する論文に不正があったとして日本循環器学会から学会誌掲載を撤回され問題化。元教授は25年2月に辞職したが、その後、平成13年から23年までに同教授がかかわった計14論文の52カ所に、画像の流用や加工といった捏造があったことを府立医大の調査委員会が認定し、懲戒解雇とすることを決めている。

 松原元教授が関与した複数の論文について、初めて改ざん疑惑が発覚したのは24年3月。米国心臓協会(AHA)が懸念の声明を公表し、京都府立医科大に調査を求めていたことが報じられている。大学側には、すでにこの時点で同様の指摘があったとされ、平成23年12月には調査委員会が設置されていた。読売新聞は、松原元教授に論文捏造の疑惑があることを見落とし、捏造の検証に、同じ捏造の疑いがもたれていた人物を起用していたのである。読売の検証過程がいかに甘かったかを如実に示していると言えよう。

読売に朝日たたきの資格はない
 従軍慰安婦も原発の事故も、実際に起きた問題だ。ならば報道がなすべきは、事実がどうであったかを検証し、後世に同じ過ちを犯さぬよう警鐘を鳴らすことだろう。しかし、右寄り報道機関や一部の雑誌は、朝日のあら捜しばかりに狂奔し、事の本質を語ろうとしていない。とくに読売新聞は、紙面の多くを使って朝日たたきを繰り返し、その内容をまとめた単行本まで緊急出版している。自社の誤報を甘い対応で済ましてきた同紙に、他を排斥する資格があるとは思えない。



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