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福岡市と記者クラブ ― 「告訴」報道の裏

2014年10月31日 08:55

市政記者室 高島宗一郎市長の不適切な東京出張問題をはじめ、福岡市役所の腐敗ぶりについて度々報じてきたが、いかんせんネットメディアはまだまだ力不足、市の惨状は市民に伝わりきっていない。
 責任の一端が不作為を続けてきた市政記者クラブにあることも指摘してきたが、先月、権力側の言い分を垂れ流す一部クラブ記者たちの姿勢を象徴する報道があった。

市長が報道機関を告訴――新聞各紙の対応
 下は、左から朝日、読売、毎日各紙の9月20日の朝刊に掲載された記事。HUNTERが報じてきた高島市長の出張問題などを「NET IBニュース特別号」として紙面化し、福岡市内に配布した株式会社データ・マックス社の代表者を、市長が名誉毀損の疑いで刑事告訴したとの内容だ。

朝日新聞 読売新聞.jpg 毎日.jpg

 注目したのは、告訴状の提出を受けた福岡県警の対応について述べたくだり。朝日は、高島市長が告訴状を『出した』と書いただけで県警が受理したかどうかには触れていない。一方、読売は代理人の弁護士らが告訴状を提出し『受理された』。毎日は、「代理人弁護士によると」と断って『受理されたという』だ。それぞれ、県警が受理したかどうかについての記述が微妙に違っている。

県警の対応は未公表
 じつは、告訴状が正式に受理されたのかどうか、9月19日の段階ではいずれの新聞社も県警から裏をとっていなかった可能性が高い。県警は「この件については、何も話せない」という姿勢を貫いているとされ、告訴状を正式に受理したかどうかについては公表していない。3紙の表現が異なっているのは、このためだ。

 読売は「受理された」と断じているが、県警への確認ができていなかったのなら、記事は正確さを欠いていると言わざるを得ない。一体「受理された」と断定した根拠はどこにあるのだろう?毎日の記事にあるように、市長の代理人弁護士の話を鵜呑みにした結果なら、お粗末と言うほかない。弁護士の言うことが必ずしも「事実」とは限らないからだ。県警が認めた場合だけが「受理された」であって、市長側弁護士が言う「受理された」とは意味が違う。

 警察が告訴・告発を受ける場合、事前に提出者と相談を重ねるなど、内容を吟味してから「受理」となるのが普通。内容によっては、告訴状もしくは告発状のコピーだけを預かるというケースも少なくない。もちろん、これは正式な「受理」ではない。検察にしても、訴えの書類は預かるが、受理しましたという連絡は後日になることが多い。案件によっては、数カ月経って「受理しました」という連絡が来るケースもあるほどだ。市長の告訴状は、9月の段階で本当に正式受理されていたのか――読売、毎日はおそらく実情をつかんでいない。

市長周辺の思惑
 弁護士の話に依拠した読売、毎日の記事は、裏を取ったといえるものではなく、受理が本当だったかどうかは不透明だ。市民団体などが提起した告訴、告発なら、おそらく「裏どり」ができるまで記事にはなっていない。3紙の記事の情報源は、県警ではなく市長の関係者。読売と毎日は、市長の代理人弁護士であることを明記している。つまり、三つの記事はいずれも権力側のリークを垂れ流したもので、独自取材の結果ではない。「NET IBニュース特別号」に掲載された記事の内容を検証したわけでもなく、市長選を前に疑惑に蓋をしたかった市長の思惑に乗っかった形だ。ちなみに、地元紙西日本新聞は、この告訴について何も報じていない。

 ある報道関係者の話によれば、福岡市の幹部から「なぜテレビは告訴の件を報じないのか」と聞かれた記者がいたのだという。市長周辺が、「告訴」の事実を広めたかったということだ。問題の「NET IBニュース特別号」が市内で配布されたのは9月議会の直前。11月の市長選に向けて、動きが激しくなっていた時期とも重なる。市長が行ってきた不適切な出張の実態を、何とか否定し、議会の追及をかわしたかった市長周辺の思惑が透けて見える。事実、市長は裁判に持ち込むことを理由に、記事の内容については『答えを差し控える』の一点張りで逃げている。

 報道に課せられた最大の使命とは、権力の監視である。記者クラブはそのために存在を許されているのであって、役所の発表モノやリーク情報を拾うための箱ではあるまい。しかし、高島市政の4年間、福岡市政記者クラブから市の腐った実情を伝える記事が発信されたことは、一度もない。延長線上にあるのが、「市長が告訴」の記事である。県警への裏どりも、出張問題の検証もなく、市長側の思惑に乗った報道に、正義があるとは思えない。



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