安倍政権は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に向け今、大車輪だ。当面、11月中旬の沖縄県知事選の勝敗を睨みながらになるが、地元の民意は「移設反対」。工事のスケジュールが狂えば、政権の命取りにもなりかねない状況だ。辺野古での移設阻止運動が注目を集めがちだが、その裏側で奄美大島をはじめ風光明媚な西日本の島々がとんでもない狂騒曲に晒されようとしている。一体、何が進行しているのか――。
【写真は奄美南部の海。中央の島は自衛隊が離島奪還訓練をした江仁屋離(えにやばなれ)】
埋め立て土砂の大半を県外依存
沖縄の米軍基地の一つ、普天間飛行場(下の写真)を返還、新たに太平洋側の名護市辺野古にV字型滑走路を備えた空港を、海を埋め立てて造る計画があることは周知の通りだ。その政府の埋め立て申請を仲井眞弘多(ひろかず)沖縄県知事が昨年末承認したことで、事態は新たな段階に入った。
防衛省・沖縄防衛局は昨年3月22日、『普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認申請書』(以下、「埋立申請」)を沖縄県に提出。さらに県の指摘を受けて手直しした補正書が同年5月31日に提出され、公告・閲覧に付された。その中でようやく膨大な埋め立てに使用する土砂を何処から運ぶか、防衛省がひた隠しにしてきた秘策の概要が明らかになっている。
埋立申請書によると、キャンプ・シュワブ沿岸部に建設されるV字形滑走路は172ヘクタール。海面より10メートル高く埋めるのに投じる土砂は 2,1000万㎥にのぼる。数字だけではピンとこないが、東京ドーム17個分、10トラック340万台分だと言えば、そのすさまじい量が想像できる。
土砂の内訳は岩を砕いた「岩ズリ」が79%、山土17.5%、海砂2.8%。この投入土砂のうち400万㎥はキャンプ・シュワブの陸上部と辺野古ダム周辺の地元土砂を充てるとしているが、残る8割の約1,700万㎥の岩ズリは県外の採石業者から購入されることになる。
小豆島から徳之島まで
旧来、沿岸の埋め立て工事は採算性や作業効率から、土砂を近隣から調達するのが通例だが、辺野古では大量の岩ズリを海の向こうの遠い西日本各地から海上輸送する。そこには狭い島土での調達が難しく、環境問題などで地元摩擦を避けたい当局側の思惑が透けて見える。
防衛省が県外調達を決めた理由は他にもある。直接採取だと環境アセスを必要とするが、業者購入では不必要となるため県外を選択した公算が強い。その分、県外では環境アセスもなく採取地に監視の目が届かないことになる。
事業計画によると、西日本各地からかき集められる岩ズリの採取予定地は以下の通りだ(採取地区、保有量、採石場所在地の順)。
(1) 門司 740万m3 北九州市門司区3か所、山口県防府市、山口県周南市(黒髪島)
(2) 奄美大島 530万m3 奄美市、瀬戸内町、龍郷町
(3) 天草 300万m3 熊本県天草市御所浦町
(4) 五島 150万m3 長崎県五島市本窯町(椛島)
(5) 佐多岬 70万m3 鹿児島県錦江町
(6) 瀬戸内 30万m3 香川県小豆島町(小豆島)
(7) 徳之島 10万m3 鹿児島県徳之島町
防衛省は具体的な採取計画を明かしていないが、この大量の調達計画づくりにあたって石材については瀬戸内、九州の13地区で27社、埋立材については6地区8社から採取可能量や岩ズリ保有量・出荷可能量、将来採取5年の予定出荷量などについてのヒアリングをすでに終えている。
しかし工事ピーク時には月間投入量が100万㎥にも達するため、全ての地区から掻き集めてもなお月16万㎥の不足が生じる期間が出ると見られ、不足分の対応に建設残土やリサイクル材まで投入する案が浮上している。
防衛省がこうした埋立土砂の調達に投じる予算は1,300億円。本体工事費1,000億円を上回る。この県外への大盤振る舞い「辺野古特需」に手ぐすねひいてきた業界は、水面下での契約獲得工作や、ストック量の積み増しを一層加速させるなど、近づく契約日Xデーに沸き立っている。業者が潤う一方で、奄美をはじめ各地の自然が壊されることになるが……。