業務委託先の元社員が大量の顧客情報を盗み、名簿業者に売却していたことが分かったベネッセコーポレーション(以下「ベネッセ」)。過去に例を見ない事態を受けて信頼回復に躍起だが、被害者となった顧客への対応をめぐり、同社の姿勢を疑問視する声が上がっている。
同社が示した顧客へのお詫びは、「500円か寄付か」を迫るもの。寄付先は、同社が贖罪の意味で設立した財団法人で、被害者にその財源を求めた形。筋違いとしか思えぬ対応に、多くの親たちが困惑している状況だ。
情報漏えい ― ベネッセの言い分
顧客情報流出の経緯について、ベネッセは自社ホームページ上で次のように説明している。
平成26年6月27日、株式会社ベネッセコーポレーションは、お客様からの問い合わせによりお客様の個人情報が社外に漏えいしている可能性を認識し、緊急対策本部を設置するとともに、これらの問い合わせで提供された情報を手がかりとして社内調査を開始しました。この調査により、同年7月7日、弊社からの漏えい情報であることが確認されたため、株式会社ベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長・原田泳幸指揮のもと、緊急対策の意思決定機関として危機管理本部を設置し、外部の情報セキュリティ専門家などを招聘し、データベースの安全確保のための緊急対策を講じ、顧客情報の拡散防止の活動を開始しました。社内調査の結果、弊社の管理するデータベースから個人情報が社外に不正に持ち出されていた事実が存在する可能性が高いことが判明したため、警察に対する相談を開始し、同年7月15日には、警視庁に対して、本件お客様情報漏えい事実についての刑事告訴を行いました。本件刑事告訴を受け、同月17日、警視庁は、不正競争防止法違反の容疑で、弊社のシステム開発・運用を行っているグループ会社・株式会社シンフォームの業務委託先元社員を逮捕しました。
同社の説明によれば、漏えいが確認された情報項目は、以下の通り。
・サービス登録者の名前、性別、生年月日
・同時に登録した保護者または子どもの名前、性別、生年月日、続柄
・郵便番号
・住所
・電話番号
・FAX番号(ご登録者様のみ)
・出産予定日(一部のサービスご利用者様のみ)
・メールアドレス(一部のサービスご利用者様のみ)
こうした顧客情報約3,504万件分が流出し、実際に被害を受けた顧客は約2,895万件(同社推計)になるのだという。
500円か寄付か
そして下、個人情報が流出し被害者となった顧客に、ベネッセから送られてきた文書。全部で5枚。「お客様情報漏えいに関するお詫びとご報告」、「漏えいした情報項目について」、「お詫びの品について」、「『財団法人 ベネッセこども基金』について」、「返信用はがき」である。
一連の文書を要約すると、こうなる。
自社の情報漏えいを「事故」と呼ぶことに違和感を覚えるが、お詫びの品について、500円をとるか寄付するか選べという対応には問題がありそうだ。
ベネッセが立ち上げた基金は、情報漏えいという事態を受けてのもの。基金創設に贖罪の意味があることは、同社の説明文書にも明記してある。ならば、自社の利益の中から積み立てるべきで、お詫びのための500円をこれに充てるというのは筋違いではないのか。
ベネッセからの文書を受け取った同社の顧客からは、次のような声が聞こえてくる。
―― うちは、子ども二人がベネッセを利用していた。先月の終わり頃だったか、まず子どもたちに文書が送られてきて、今月14日に親である私にも同じものが送られてきた。事件の詳しい内容には触れていないし、何件の情報漏えいがあったのかさえ記されていない。おかしいと思ったのは500円か寄付かという同社の姿勢。基金を作るのは自由だが、その財源にお詫びのための500円を充てるというやり方には合点がいかない。そもそも、被害者に選択させるのが間違いだ。高校生の子どもでさえ、『なんか、気分悪いね』と言っている。ベネッセのやり方には、疑問を感じている(40代主婦)。
同じような感想を持っている人は少なくなかったようで、取材に応じた複数の親たちが、異口同音に「500円か寄付かに、違和感を覚えた」と答えている。ベネッセの信頼回復への道は険しそうだ。