福岡市が市内中央区で進める市立中央児童会館の再整備事業をめぐり、日本経済新聞の記者に対する「情報漏洩」という重大な疑惑が、放置されたままになっていることが分かった。
日経は、会館整備事業者が公表される前に、漏れるはずのない選定結果を報道。掲載された記事は、守秘義務違反の証明となっていた。
事態を重くみた市が形だけの内部調査を行なったものの、真相は藪の中。地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いが残されたままだ。
現在、同会館に併設されているのが、移転問題に揺れる中央保育園(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)。密接な関係にある両施設の整備計画は、いずれも疑惑まみれのものとなった。
情報漏洩の証拠
5月28日、日本経済新聞の朝刊に、「西鉄、建て替え受託へ」と見出しをつけた記事が掲載された(冒頭の写真)。福岡市立中央児童会館の建て替え事業を、西日本鉄道が受託することを伝える内容だ。記事にはこうある。
《西鉄は福岡市の事業者選定委員会で最有力候補に選ばれ、6月中に正式決定する見通し》。
ここに出てくる「中央児童会館等建替え整備事業者選定委員会」は、平成24年7月(第1回)と同年10月(第2回)の討議を経て、記事が出る前日の5月27日に「最優秀提案事業者」を決めている。委員として選定に当たったのは、外部の学識経験者4人に、市の幹部3人を加えた計7名である。公募に応じたのは3グループ(当初は4グループ。1グループは途中辞退)で、選ばれたのはたしかに西鉄を主軸にした企業グループだった。
だが、事業者の“正式決定”は、選定委の合議結果を受けた市が、「優先交渉権者」と「次順位交渉権者」を決めてからということになる。選定委は、公募に応じた各事業者の提案内容を吟味し、最優秀の提案事業者を選ぶだけなのだ。選定委の「最優秀提案事業者」と市が選ぶ「優先交渉権者」が、違ってくる可能性はゼロではない。従って、選定委段階の情報が漏れてしまえば、その内容を既成事実化してしまうことになりかねない。選定委関係者に、厳しい守秘義務が求められるのは言うまでもない。最終結論を出した5月27日の選定委員会の議事録の最後には、次のように明記されている(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。
日経はなぜ、極秘のうちに決められた選定結果を記事にすることができたのか?答えはひとつ。同紙記者への「情報漏洩」があったからに他ならない。
おざなり調査は許されない
報道を受けて、市は選定委員7名と民間アドバイザー2名、さらに事務局を務めた14名の市職員ら計21名に対し、6月13日から17日にかけて、対面聞き取り方式によるヒアリング調査を実施していた。
結論は、「選定委員及び事務局すべての出席者について、日本経済新聞社の記者への選定結果等の情報漏えいの関与の事実は確認できなかった」である。典型的なお手盛り調査と言うしかない。
記事を書いた記者は「スクープ」だと思っているのだろうが、こんなものがまともな報道であるはずがない。記事自体が、あってはならない情報漏洩の証拠に過ぎないからだ。仮に、市職員が選定結果を漏らしたとすれば、立派な犯罪となる。地方公務員法は、『職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする』と定めており、違反した場合には『1年以下の懲役又は3万円以下の罰金』となる。
選定委員会関係者が情報を漏らしたのは確かだ。犯罪の可能性もある。放置していいはずがない。日経がどんなに言い訳しても、情報漏洩に基づく記事を掲載したという事実も消えない。建設工事の入札で情報漏洩が疑われた場合は、入札そのものをやり直すのが普通だ。今回の事案も結果の見直しが当然だったはずなのに、市は6月21日、日経の報道を証明するかのように、西鉄グループを優先交渉権者にすることを決め、公表している。犯罪行為を追認したに等しい。
もともと中央児童会館と中央保育園は、これまで通り、併設させる形で合築による再整備を行うこととなっていた。方針を変えたのは高島宗一郎市長だ。児童会館に商業施設をくっつけ、保育園をはじき出した結果、いずれの再整備事業にも民間企業がらみの疑惑が浮上している。中央児童会館と保育園の整備事業は、歪んだ市政の象徴なのである。