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奄美・琉球「自然遺産登録」に黄信号 ― 建設特需めぐり各地で狂騒
辺野古移設が日本を壊す(下)

2014年10月 6日 09:15

奄美大島 沖縄の民意を無視して安倍政権が進める米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設。ジュゴン生息域である辺野古の海を埋め立てるために使われるのは、主として奄美大島や九州、瀬戸内の「岩ズリ」と呼ばれる石材だった。
 「美しい国」を連呼してきた首相が、日本の自然を破壊して軍事施設を造るという矛盾……。岩ズリ採取予定地で何が起きようとしているのか、現地を取材した。
(写真は、碧さが目にしむ奄美の海)

環境破壊に各地で悲鳴
 過度な情報化時代にありながら、大量の埋め立て用岩ズリを西日本から調達するプランは、マスコミに取り上げられることが皆無だったため対象地の住人にもほとんど知られておらず、驚きで受け止められている。「白羽の矢」が立った各地では、寝耳に水の事態に「自然が壊される」「粉塵、騒音公害が深刻化する」と危機感、反発が徐々に巻き起こりつつある。

 何より問題なのは安倍政権が「地方創生」と銘打った新政策を打ち出したしょっぱなから、こうした押しつけ型、旧来の土木政治を強行しようとしている点だ。ようやく乱開発時代が去り、地域の自然や歴史文化など独自性を生かした地域興しプランが芽生えつつある段階だけに、失望や怒りが収まらない。

 「まさか、沖縄ん基地に、こん島ん石が使われっとは誰も考えましぇんけんね」 (天草の住民)――。不知火海に浮かぶ天草市の御所浦島。山肌の至るところから発見される恐竜の化石を活かした全島博物館構想を打ち出し、去る8月には「天草ジオパーク」として日本ジオパークの加盟地域に認定されたばかり。それだけに、関係者はショックを隠しきれない。島の東側では現在も採石業者が海底まで土砂を堀り進めていて、今後事業が拡大すれば、恐竜の化石見物どころではなくなってしまう。

 平成25年1月、政府は奄美大島、徳之島、沖縄島北部、西表島などを「奄美・琉球」として、ユネスコの世界遺産暫定一覧表に記載することを決定。同年12月には正式に登録候補地として選定された。その矢先の岩ズリ採取。「(岩ズリを)辺野古に持ち行きゅんち?本当の話かい」(奄美大島の住民)――。北九州に次ぐ採取量が見込まれる奄美大島では、岩ズリに過疎脱却の切り札としての期待が高まる一方、秒読み段階である“世界自然遺産登録”について「環境省が申請を進めても、果してこれではユネスコが認めるかどうか」(同)と懸念する声が出ている。

 現在も大規模な公共工事用の砂利採取が続く奄美市住用町戸玉地区。その2~3キロ先の住用湾奥に、西表島に次ぐ国内2番目のマングローブ群生地がある。カヌーで密林内を見学でき、今回の世界自然遺産登録に向けた目玉の一つ。近隣にはアマミノクロウサギ、リュウキュウアユの貴重な固有種が生息する森や川もあり、世界的にも屈指の景観が採石場と隣り合う環境だ。自然遺産とは相容れない現状に、疑問の声が上がるのは当然だろう。
(下の写真、左が採石場の河口上流にある国定公園特別地域のマングローブ。右は岩ズリ採取が急ピッチな奄美大島住用町戸玉)

国定公園特別地域のマングローブ 岩ズリ採取が急ピッチな奄美大島住用町戸玉

 そうした中、最近気になる動きが。今年4月、現地入りした石原環境相(当時)は、奄美・琉球について世界自然遺産の前段となる「国立公園化を年度内実現」と打ち上げたが、内閣改造でこの秋に退任。その直後、環境省側は手の平を返すように「関係者との調整遅れ」を理由に「年度内」をさっそく撤回した。このため「辺野古の採石を優先せよという安倍内閣の意向が働いたのでは」という、うがった見方まで出ている。開発と自然保護という、古くて新しい対立点がまたぞろ復活の気配だ。

 土砂採取問題で真っ先に反対の声を上げたのは小豆島など瀬戸内海のゴルフ場、リゾート開発阻止に立木トラスト運動を展開したことで知られる「環瀬戸内海会議」(阿部悦子代表)。昨年末の段階で環境・防衛両相、沖縄県知事に辺野古埋め立て計画の中止を訴える要望書を提出している。事務局長の松本宣崇さん(岡山市在住)は「瀬戸内海は今年、国立公園指定80周年の節目。高度成長期、美しい島や海は破壊され続けて来た。もう止めにすべき。辺野古埋め立ての視点は埋め立てられる側も、埋め立て土砂を採取される側も環境を大きく損なう。破壊された環境は取り返しがつかない。それ以前に辺野古基地は移設ではなく、軍事機能の強化。粘り強く阻止に取り組んでいく」と語っている。

見通せないプロジェクト
 巨大な開発プロジェクトは当然、アレルギーを引き起こす。日米安保に関わる辺野古への基地移設計画、それにともなう沖縄と日本各地の自然破壊には、もっと全国的な議論が加えられてしかるべきだ。自然への負荷が強い砂利採取については、海砂問題や代替材開発をも含め、さらに本格的な議論が必要だろう。辺野古はそうした多様な視点の提起をももたらしつつあるが、自然問題だけに限定しても、今回の基地計画が強行されれば、辺野古の海は78ヘクタールの藻場を失い、7ヘクタールの珊瑚が死滅するという報告(日米実務者協議移設報告書)がある。美しい辺野古の海を埋め立てることは、沖縄だけでなく、広く日本の、世界の損失なのだ。

 「地方創生」と言いながら、地方を使い捨ての踏み台にする政府に対しては、厳しい追及が必要だ。埋め立て資材を割り当てられ、自然破壊に直面ようとしている採石地の離島などからは、「なぜ私たちの島か」という素朴な疑問が提起されよう。活性化の方途を失った御所浦島や奄美大島では、不発に終わったものの、どこもそっぽを向く「放射性廃棄物処分場」受け入れの動きさえあった。また南島防衛の国策に乗じ、奄美大島では二つの自治体が「過疎対策として」自衛隊基地受け入れを決めた。それは過疎地のSOSでもあるが、どん詰まり状態にある地域にとって共通するものがある。それが、地域生存への道を担保する「豊かな自然」なのだが、辺野古移設がそれを台無しにしようとしている。

 政府は辺野古について今年度中に調査・設計を終え、来年度から5か年で埋立工事を完了、9年以内に普天間返還を実現させる意向だ。しかし県外移設を求める地元世論は根強く、11月に予定される知事選で辺野古移設反対派の候補が当選すれば、政府計画は大きく狂う可能性がある。安倍政権の威信を賭けたプロジェクトには、不透明感が拭えない。取材班は、引き続き土砂採取地の動静と地域住民の声を追っていく。

<特別取材班>
                        



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