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明かされぬ「吉田調書」の出所 ― 歪められた原発事故の実相

2014年9月25日 09:45

 誤報の報いとはいえ、朝日新聞への集中砲火が止みそうにない。従軍慰安婦をめぐる証言が虚偽だったことを認め、過去の記事を取り消し謝罪。さらに、いわゆる「吉田調書」の記述を曲解し、東電職員の退避を「命令違反」だったと断定した記事でも同様の展開となった。読売、産経に週刊誌、さらには政府・与党からも厳しい批判が続く。
 誤報の罪が重いのは分かるが、目下のところ筆者の興味は別のところにある。政府が公表する前の段階で、朝日や読売、産経が独自に入手したという吉田調書の「出所」である。

 政府が吉田調書を公表したのは9月11日。これに対し、朝日新聞が吉田調書の内容について報道したのは今年5月20日だ。調書の内容から「命令違反で撤退」と報じたのは周知の通りである。この段階で調書を入手していたのは朝日だけ。他の報道機関は、完全に「抜かれた」形となった。

 次に調書を入手したのは、産経新聞だったとみられる。同紙の吉田調書に関する報道は8月18日。そして読売が吉田調書を入手したとして、朝日批判の記事を掲載したのは8月30日。調書は相次いで別の報道機関に渡っていた。

 それでは朝日は、調書をどうやって入手したのか――朝日の検証記事でも、同紙をコテンパンに叩きのめしている読売・産経の記事でさえも、この点は明らかにしていない。というより、いずれの新聞も調書の入手過程には触れようともしていないのだ。産経、読売が吉田調書をどこから入手したのかについても藪の中。本来政府しか公表することのできない吉田調書を、新聞各紙はどのように入手したのだろう?

 朝日は民主党関係者、読売・産経は政府筋という見立てもあるが、いずれも推測の域を出ない。新聞各紙は調書の入手経過を明かしていないし、これから先も、それが記事になることはないだろう。新聞各紙は、それぞれの立場で「目的」を果たすために調書を利用したに過ぎず、入手経過が知れると情報源とそれぞれの新聞の「意図」がわかってしまうからだ。

 吉田調書の存在を世に知らしめたという意味において、朝日の報道は評価に値する。しかし、入手した調書を通じ、原発事故の恐ろしさを伝えるだけで十分だったはずなのに、朝日はなぜか「命令違反」に焦点を当ててしまった。そのせいで調書の持つ意味が変貌したのは事実だろう。調書はその後、朝日叩きの道具として扱われてしまったからだ。誤報が朝日の権威失墜を招いたのは自業自得だが、調書を争いの道具に貶めたことの方が罪は大きい。

 同じことは読売、産経にも言える。両紙とも、原発事故の実情を淡々と伝えればいいものを、吉田調書を朝日叩きの道具にしたのである。これでは朝日と五十歩百歩。原発事故の重大性を棚に上げて、騒いでいる様は滑稽と言うしかない。

 一連の経過を振り返れば、各紙の調書入手の裏に、情報提供者の思惑があったと見られてもおかしくない。朝日に吉田調書を渡した側にあったのは、東電叩きの意図。そして読売、産経に情報提供した側には、朝日叩きの思惑が働いていたと見るのが普通だろう。だからこそ、新聞各紙は調書の入手経過には触れられない。

 “情報源の秘匿”は報道が守るべき大原則である。ここは絶対に譲ってはならない。しかし、情報源に特別な「意図」がある場合、もたらされた情報の意義や事の実相が歪められてしまうことを、今回の騒ぎは示している。

 報道機関が大見出しで伝えるべきは、「われわれのイメージは東日本壊滅。本当に死んだと思った」という吉田調書の記述なのである。

<中願寺純隆>



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