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原発城下町・玄海町の不思議な選挙

2014年8月 1日 09:55

玄海町長選挙の投票日を告知する垂れ幕 原発立地自治体の首長選挙で、これほど盛り上がりに欠けるケースは珍しいのではないか――町長選挙の真っ最中である原発城下町・佐賀県玄海町の様子を取材しての偽らざる感想だ。
 3期目を目指す現職に新人二人が挑む構図だが、原発の是非をめぐる論戦は皆無。町長のファミリー企業が、原発マネーによる事業を独占するという“町政の歪み”を正そうとする動きさえない。原発に依存し、活力を失った町の選挙戦とは……。

立候補者3人 論戦乏しく
 先月29日に告示された玄海町長選に立候補したのは3人。現職と元町議の新人は原発再稼働容認。飲食店経営の新人だけが再稼働に反対だ。ただ、選挙事務所を構えているのは現職と元町議のみ。原発再稼働に反対する新人は、事務所を設置していない。唯一の原発反対派でありながら、街頭での訴えはなし。選挙運動といえば選挙公報、実施予定だという新聞折り込みのチラシ、公営掲示板のポスターだけで、現時点では町内の有権者に訴えの内容が届いていないというのが実情だ。原発再稼働のカギを握るのは玄海町長。はたから見ると重要な選挙のはずだが、地元には選挙中特有の熱気というものが感じられない。

玄海町長選挙ポスター掲示場

 人口約6,000人の玄海町では、直接・間接に原発がらみで生活の糧を得ている町民が多く、「原発がなくなれば、町が成り立たなくなる」(玄海町 50代男性)というのが実態。町財政を支えているのも原発で、玄海1、2、3、4号機にかかる固定資産税、原発交付金などが主な収入源だ。原発城下町で、原発再稼働に反対する声を上げること自体がむずかしい状況なのだ。

 昨年9月に行われた、定数12を争う玄海町議選。原発の是非について論戦が交わされるものと期待していたが、案に相違して立候補者は12名。選挙は無投票で幕を閉じてしまった。出馬予定は13名とされていたが、直前になって一人が取りやめ。「原発再稼働を前に、町内で原発の賛否についてゴタゴタするわけにはいかない。調整の結果だ」――そう断言する町の関係者もいる。原発の是非を、立地自治体だけに決めさせる現在の日本の原子力行政は、やはり間違いだと言わざるを得ない。

現職町長は唐津市民
 奇妙なのは、現職と新人で飲食店経営者の住居地が唐津市だということ。町のトップを決める選挙で、他の自治体の住民が争うという、珍しい展開となっているのである。新人候補はともあれ、現職町長が原発から離れた唐津市に住むというのは、どう考えても無責任。これが許されてきたのは、現職批判を声高に唱えることが難しい現実があるからに他ならない。現職町長は、ファミリー企業である地元最有力ゼネコンをバックに、強固な支配体制を築いているのだ。

町長一族が支配する町
 玄海町めぐっては、町長の実弟が社長を務めるファミリー企業が、町発注工事や九電の仕事を独占。膨大な利益の一部が、株主である町長の懐に還流するシステムとなっていたことが分かっている。「薬草園」、「次世代エネルギーパーク」、「町道・長倉-藤平線」の道路工事――原発マネーを原資とする事業のほとんどの工事に、町長のファミリー企業が参加している。

 薬草園も次世代エネルギーパークも、町長が推し進めてきた事業。町道整備に至っては、県や唐津市といった関係自治体に何の相談もなく工事をはじめ社会問題化。結局、「県道」として整備させることを県に認めさせ、無駄な公共事業を増やす格好となっている。

 一連の原発マネー事業を町長が発案し、発注。それを町長や町議のファミリー企業が受注するという状況が続いており、町政の歪み具合は深刻だ。じつは、玄海町で問われるべきは、この歪んだ町政の刷新のはずだが、新人陣営から厳しい批判が出ている様子もない。建設業者の反発を恐れてのことと見られているが、これでは町政刷新など夢のまた夢だ。

 ちなみに、前回の町長選。町長の陣営が同町の現職町議5名に車上運動員の報酬としてそれぞれ9,000円の現金を支払っていたことが判明。町議は特別職の公務員であることから、選挙当時の活動実態によっては、公職選挙法で禁じる「公務員の地位利用による選挙運動」にあたる可能性があったことが、分かっている。

 玄海町長選の投開票は8月3日。正直、結果にはあまり期待できない。



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