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天皇陛下のお心と安倍晋三の不敬

2014年8月 7日 10:35

 集団的自衛権の行使容認と、それに伴う解釈改憲を閣議決定した安倍晋三首相。悲願の憲法改正に一歩近づいたと言いたいところだろうが、国民への説明は不十分で、反発は強まるばかり。先月行われた滋賀県知事選挙では、民主党の衆議院議員だった候補者が、自民・公明推薦の官僚出身候補を破って初当選を果たし、政権の先行きに影を落とす結果となった。内閣支持率の下落も顕著だ。
 それでも首相の強気は変わらない。新型輸送機オスプレイを佐賀空港に配備することを決めたのに続き、今度は民間船舶の軍事転用を行うのだという。主権者である国民には何の断りもなく、戦争への歩みを早める安倍。正気の沙汰とは思えないが、こうした事態をもっとも憂慮されているのは、この国の象徴である天皇陛下ではないだろうか。

民間船舶の徴用 重なる「対馬丸」の悲劇
 尖閣諸島を擁する南西諸島での有事を睨み、安倍政権が進めようとしているのが民間船舶の「徴用」。自衛隊員や軍用車両を運ぶために、民間のフェリーを借り上げ、船員を予備自衛官として利用しようという計画だ。世界の警察を自認してきた米国の艦船を援護しようという自衛隊が、民間船舶を徴用しなければ有事に対応できないという滑稽な話だが、国はすでに国内の企業とフェリー2隻を借りる契約を結んでいるのだという。本気で民間人を戦争に巻き込むつもりなのだ。

 先の大戦では、軍に徴用された船舶の多くが撃沈され、あまたの民間人船員が犠牲になった。戦争を知る世代なら、「徴用」と聞いただけで危険な兆候を察知するのだが、歴史に学ぶことのできない首相には、そのあたりの思慮が欠けているのだろう。「徴用」が船舶以外に及ぶのは時間の問題で、じわじわと戦争の足音が近づいている状況だ。

 民間船舶の犠牲といえば、思い起こされるのが「対馬丸」の悲劇。「対馬丸」は、日本郵船所有の貨物船だったが、戦争末期の昭和19年(1944年)、疎開する沖縄の児童らを乗せて九州へ向かう途中、アメリカの潜水艦に撃沈され、780人の児童を含む1,500人近くの犠牲者を出すという悲劇に見舞われた。

 今年6月、天皇皇后両陛下は、沖縄県那覇市を訪問。その「対馬丸」乗船者の慰霊碑に献花され、追悼の意を表された。戦争当時、犠牲になった児童たちと同じように疎開中だった両陛下は、長年対馬丸のことを気にかけておられたという。同船の撃沈から70年になる今年、陛下ご自身が強く希望されての沖縄訪問だった。

 国内で唯一の地上戦を経験し、4分の1ともいわれる県民が犠牲になった沖縄、対馬丸の子どもたち――望んだわけでもないのに、無理やり戦争に引きずり込まれた「民間人」の哀しみが、そこに在る。そして、両陛下の沖縄訪問は、国が招いた戦争の惨禍を、二度と繰り返してはいけないという思いを、体現されたものと見るべきだろう。

両陛下、皇太子殿下の憲法への思い
 昨年12月18日、天皇誕生日に際する記者会見において、陛下は次のように述べられている。
≪戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ、改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱いています。≫

 皇后陛下も、昨年のお誕生日に際して出された文書の中で、憲法について触れられた。
≪5月の憲法記念日をはさみ、今年は憲法をめぐり、例年に増して盛んな論議が取り交わされていたように感じます。主に新聞紙上でこうした論議に触れながら、 かつて、あきる野市の五日市を訪れた時、郷土館で見せて頂いた「五日市憲法草案」のことをしきりに思い出しておりました。
 近代日本の黎明期に生きた人々の、政治参加への強い意欲や、自国の未来にかけた熱い願いに触れ、深い感銘を覚えたことでした。≫

 いずれも平和と、それを支えてきた「憲法」の重要性を示された内容。両陛下が、揃って憲法に言及されるのは異例のことだったが、皇太子殿下も今年2月21日のお誕生日に際し、会見で次のように述べられ、憲法擁護の姿勢を示されている。
≪今日の日本は、戦後、日本国憲法を基礎として築き上げられ、現在、我が国は、平和と繁栄を享受しております。今後とも、憲法を遵守する立場に立って、必要な助言を得ながら、事に当たっていくことが大切だと考えております≫

保守を逸脱した安倍
 天皇象徴制を定めた日本国憲法を誰よりも尊重してきた天皇陛下が、政治向きに関するご発言をなさることはない。その陛下や皇后陛下、さらには皇太子殿下までが、あえて憲法について語られ、両陛下が沖縄や対馬丸関連施設を訪ねられた意図を、首相は慮るべきだろう。だが現実は、まったく違う方向に向かっている。特定秘密保護法、武器輸出解禁、集団的自衛権の行使容認と解釈改憲……。安倍政権が進めてきたのは、平和を希求されてきた天皇陛下のお心に背く愚行ばかりなのだ。

 この国の保守政治家が一番大切にしてきたのは皇室だ。自民党の新憲法草案では、天皇を「元首」と定めている。安倍が天皇陛下のご意思を尊重するのは当然のはずだが、期待するだけ無駄というものだろう。戦後の歴史の中で、これほど天皇陛下のお心を無視する宰相の存在を、筆者は知らない。



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