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「日本を“取り戻す”より“失う”」安倍政権の移民推進策

2014年6月16日 08:15

gennpatu 1864410756.jpg 集団的自衛権に耳目が集まる中、国の根幹を揺るがす移民政策「出入国管理及び難民認定法」(入管法)改正案が、5月29日に衆院を通過、11日には参院でも可決された。日本が、いよいよ欧米並みの移民国家へと舵をきる。
 国民の大多数が知らないうちに進められてきた重大法案の成立。安倍内閣の姑息さとはいえ、事の重大性に気づかない、あるいは気づいていながら移民推進策に加担して沈黙したままの大メディアの罪は大きい。 

「移民」の弊害
 「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」の成立で何が起こるか。「高度人材」と称する政府が有用な人材と認めた外国人が入国し、3年経過すれば無期限の永住許可を得られる。永住権を獲得すれば両親や家族のみならず、メイドら使用人も呼び寄せることが可能になる。すなわち「高度人材」が一人いたら、その一族郎党や使用人らがぞろぞろ入国してくるというわけだ。そんな外国人コミュニティが全国あちこちにできる。

 「高度人材」だけに社会的にはエリートに属し、大邸宅を構えて家族や使用人を住まわせる外国人もいるかもしれない。しかし、そんな外国人ばかりとは限らない。マンション住まいもあれば人数によっては公営住宅に分散居住するケースもあり得る。するとどうなるか格好の先例がある。門真市や吹田市など大阪の衛星都市の公営住宅街が典型的な事例だろう。

 大阪府は、故・横山ノック(山田勇)知事の時代から中国残留孤児とその関係者に府営、市営の住宅を割り当て積極的に受け入れてきた。それ自体に問題はないが、やがて親族を名乗る中国人が増加して偽装孤児やその2世、3世を核とする中国人が全国に拡散。2007年にはそれまで永住権をもつ外国人の多数派だった韓国、北朝鮮を中国が追い抜いてトップに立った。

 門真市にある公営の大団地を取材したことがある。何棟かは中国人居住者が多数派を占めたため若い日本人が出て行き、残された高齢者は身を細くしていた。影響は団地外にも及び、ゴミの出し方や交通ルールをめぐって周辺住民や自治会とのトラブルが日常茶飯時に――。しかし、何よりも驚いたのが教育現場だ。日本で生まれた2世、3世ばかりか、中途で中国から呼び寄せられた小・中学生も加わり、学年の2~3割あるいはそれ以上が中国人。授業では日本語学習が当然。入学式や卒業式が、日中2か国語で行われている学校もあった。地域そのものが、日本であって日本ではなくなっていくのである。

安倍の狙い
 中国のようにまるで国策として全世界に人を輸出している国にとって、「高度人材」は芋蔓のようなもの。「出稼ぎ」目的の家族、使用人がどこまで広がるか予測もつかない。「子供の養育」名目なら帯同できる「両親」「子供」が実のそれではない場合、すなわち養子でも可能になるとあっては偽装孤児問題の再現だ。安倍内閣はもとより、改正案を通した衆参両院議員は一体何を考えているのか。アフリカや中東からの移民を推進した欧州各国が移民問題に悩まされているいま、国民的議論もなく密かに進められた移民政策の狙いは何か。

 今回の入管法改悪への発端となったのは、内閣府が3月に発表した毎年20万人の外国人労働者受け入れ構想だ。2012年時点における20~72歳の労働可能人口約9,000万人が、100年後には約2,600万人に激減すると試算。それが外国人労働者を受け入れるなら7,000万人台にとどめられるという。現在、永住権が得られるいわば「移民」は専門的な知識、技能をもつ「高度人材」に限られているため、20万人には遠く及ばない。しかし、単純労働者の大量受け入れは不可欠。そこで入管法改正とともに検討されているのが技能実習制度の拡張だ。

 外国人の単純労働者受け入れシステムとしては、法務省や外務省など関係5省庁で組織されている「公益財団法人 国際研修協力機構」(JITCO)による外国人技能実習制度がある。途上国の若者を3年間、建設、製造から農業、漁業まで幅広い業種で「技能実習」名目で働いてもらうもの。人手不足を外国人で補うのを目的に、1991 年から始まった合法的な出稼ぎ制度だ。目下、滞在期間を5年へ延長する手法などが検討されている。

 安倍の狙いは、震災復興やオリンピックで大幅な人手不足となっている建設関連へのテコ入れだ。「移民20万人」は長期目標と目前の問題解決の両睨みで構想され、その手段が入管法改正と技能実習制度緩和である。しかし、技能実習の現場でも実習生と雇用主とのトラブルが絶えないうえ、毎年1,000人単位で実習生が蒸発するという。制度が日本への上陸手段に利用されているのだ。合法的な移民増大で不法滞在者が溢れれば、欧州の危機が日本での現実となる。そうなると、海外での自衛権どころの騒ぎではないはずだが……。

<恩田勝亘>

恩田勝亘:プロフィール
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)など。

新著「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)は、全国の書店で販売中。



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