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伊藤鹿児島県政 「子育て支援住宅」の真っ赤な嘘

2014年6月 9日 07:55

 地元の反対を無視して、鹿児島県(伊藤祐一郎知事)が鹿児島市松陽台町で建設を強行している県営住宅。約10年で328戸を整備する計画だが、入居の対象は「子育て世代」、それも原則10年の期限付きだという。“安心して子育てのできる環境”を強調する伊藤県政だが、今年秋の完成を目指す県営住宅1期分(36戸)の工事現場と松陽台町を取材したところ、まるで違う実態が浮かび上がった。
 小学校に通うのに30分から40分。足となるのは電車で、駅のホームはごった返し。これが松陽台に住む子どもたちの朝だ。
 改めて、伊藤独裁県政の欺瞞を証明する。

松陽台問題
237.JPG 鹿児島市松陽台町の県営住宅建設計画は、平成15年から鹿児島県住宅供給公社が販売している分譲住宅地「ガーデンヒルズ松陽台」の土地を鹿児島県が約30億円で取得し、新たに県営住宅328戸を建設するというものだ。もともと、約11haの予定地に戸建用地470区画を販売する計画だったが、170区画程度(平成23年2月までの実績)を売却したところで、伊藤祐一郎知事が方針を大きく変え、ガーデンヒルズ松陽台で最大の面積を占める戸建用区画約5.6 haを、すべて「県営住宅」にすると発表した。周辺環境が激変することなどを憂慮した松陽台町の住民は、県営住宅増設を白紙に戻すよう運動を続けてきたが、県や鹿児島市はこうした声を無視して強引に計画を進め、今年春になって、突然建設工事を始めている。

目的が「子育て支援」?
 県営住宅建設にあたって県が目的として強調しているのは「子育て支援」。県のホームページには、〔松陽台町の県営住宅整備について〕として、こう書かれている。

 鹿児島市内の県営住宅については、近年の応募倍率が平均で6倍(既設の松陽台団地:5倍強)を超えるなど、多くの方々が入居を希望しているとともに、特に子どもを持つ世帯が新規入居者の7割を占めることなどから、安心して子育てのできる環境を整備することとしています。

 これまで、県住宅供給公社がガーデンヒルズ松陽台を分譲するにあたって謳い文句にしてきたのは「最高の住環境」。商業施設や集会所を造り、子育て世代にも配慮すると約束していたが、これらはまったく守られていない。昨年2月、取材に応えた松陽台町在住の主婦は、「店舗、公共機関、金融機関、医療機関など一切なく、子育てを含め、社会環境が整っていない」と話していたが、この状況は県営住宅建設が始まった今も変わっていない。とくに問題なのは、子育てに関し、もっとも重要となる保育所や小学校がないことだ。松陽台町に住む大半の小学生は、3キロ以上離れた「鹿児島市立松元小学校」まで、“電車通学”を余儀なくされているのである。HUNTERの記者が改めて現地を歩き、その実態を取材した。

通学はJR ラッシュ時の危険 
 松陽台町には、戸建て住宅と県営住宅、さらには少ないながら市営住宅もある。200人ほどの小学生が松元小学校に通っているのだが、その実態を見れば、県の言う“安心して子育てのできる環境”が真っ赤な嘘であることが歴然となる。 

 広大な松陽台町が位置するのは高台。ここから、地元駅であるJR鹿児島本線「上伊集院駅」までは徒歩である。下の写真にある通り、町内から駅に通じる階段を降りていくと、そこが駅だ。駅に近い住宅からでも歩いて5分、少し離れると10分以上かかる。幼い子どもなら、さらに時間が必要だろう。

駅1

駅2 駅3

 改札を出てすぐのホーム。小学生たちは、2両編成の電車に乗り込むことになるが、通学時間にあたる朝の7時台、昼はのどかなこの駅の状況が一変する。下がその光景だ。

朝7時台

 電車からは、松陽台にある「松陽高校」に通う生徒たちが次から次へと降りてくる。一般客もいる。ごった返す人の群れの中を、小学生たちは身を縮めて乗車口へと向かわざるを得ないのだ。危険極まりない。着任して、この状況を見て驚いたという駅長さんによると、どうしても小学1年生くらいの子どもたちは、乗り遅れまいと必死で乗車口に向かう。そのため、他の業務を止めてでも事故がないよう誘導にあたる毎日で、朝の7時から40分間は息が抜けないという。「ここ(松陽台)に必要なのは小学校。県営住宅じゃないでしょう」――駅長さんの一言は、現実を知る大人の実感といえる。

 子どもたちが乗った電車が向かうのは、一駅先の「薩摩松元駅」。乗車時間は3分ほどである。下は、JR鹿児島線の電車と、路線地図、そして薩摩松元駅の写真だ。

JR鹿児島線の電車

路線地図

矢印

薩摩松元駅

 薩摩松元駅で降りた子どもたちは、ここから「松元小学校」へ。徒歩で5~6分の距離だった。同小の児童数は約400人。そのうちの半数近くが松陽台からの通学組だという。なかには交通量の多い県道を歩いて通う子どももいるというが、JR利用が大半で、通学に30~40分かかることが分かった。ちなみに、松陽台の小学生が卒業後に通うのは「鹿児島市立松元中学校」。小学校よりさらに遠くなる。

松元小学校
松陽台町の子どもたちが通う「松元小学校」

これが子育て環境か!
 松陽台の小学生の通学路に危険があることは、鹿児島市議会や県議会でも問題視されてきた。つまり、子育て環境に問題があることを、行政側も分かっていたということだ。しかし、伊藤知事はこうした実態を無視して、松陽台は子育て世代向けの県営住宅にはうってつけの環境だと主張する。だから税金を数十億円使ってもいい、という論法だ。前提が真っ赤な嘘であることは、松陽台に住む小学生たちの通学事情を見れば分かる。

 問題はまだある。下は、最近になって建設工事が始まった県営住宅1期分の工事現場を、戸建て住宅地区から撮影したもの。はるか遠くにその場所がある。

建設現場 完成予想図

 公社が公表しているガーデンヒルズ松陽台の図面で、建設現場と上伊集院駅の場所を確認し、ここに住む可能性がある小学生の通学ルートを示してみた(赤い斜線部が建設現場、二重の赤丸が駅、通学ルートは赤い矢印)。

松陽台図面

 県が県営住宅用地として住宅供給公社から取得したのは、黄色い線で囲んだ部分。このうち、1期分として建設をはじめた場所は、その一番端にあたる。つまり、松陽台町では最も奥まったところに位置しており、駅からは相当距離がある。大人でも歩いて10分以上かかり、小学校の低学年なら15~20分はみないといけない。他の松陽台町内の子どもたちが松元小学校に通うのに30~40分かかるところを、県営住宅1期分に住むことになる小学生は、さらに5~10分余計にかけることになる。松元小のキャパが限界に近いこともあって、新たな県営住宅の小学生を別の小学校に通わせるという案も浮上しているらしいが、該当するのは「石谷小学校」。こちらへの通学手段は徒歩のみ。なんと、歩いて50分近くかかる距離だという。これでも子育て世代のための住宅と言えるのか?おそらく、現地の実情を知った親たちは、首を横に振るだろう。

 県は、松陽台に整備する県営住宅への入居者を、低所得の子育て世代――しかも就学前児童のいる家庭に限定している。しかし、周辺には保育所もなく、近隣の保育所を利用するなら車かバスで送り迎えするしかない。所得の少ない家庭に、負担が重くのしかかる。小学校への通学事情はみてきた通りだ。

 入居期間を原則10年としたことも理解できない。小学校にあがるまでに6年。さらに小学校で6年。これだけで「12年」になる。県は入居期限の延長制度を設けるとしているが、≪小学校を卒業するまで入居可能な制度≫(県のホームページより)でしかない。“子どもが中学生になったら、出ていけ”ということだ。こんな無責任な子育て支援があるのだろうか。

 松陽台の土地を住宅供給公社から買い取り、県営住宅を整備すると言い出したのは鹿児島の独裁者・伊藤知事だ。住民には何の相談もなく、街づくりの大方針を変更したのは、公社の赤字を埋めるためだったとみられる。選挙のたびに支援を受ける建設業界への、プレゼントの意味もあるのだろう。だが、事業の原資は税金、県民のカネなのだ。事業試算もなく、知事の勝手で無駄な公共事業が進められる現状は、県民不在の狂った県政というしかない。割を食うのが幼い子どもたちである以上、松陽台の県営住宅整備は、これ以上進めさせてはならない事業だ。

<鹿児島取材班>



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