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盧溝橋事件の銃声と集団的自衛権

2014年6月 5日 10:15

 たった1発の「銃声」が戦争を引き起こすということを、私たちの国は歴史上の事実として知っている。日中戦争の発端となった「盧溝橋事件」は、歴史の授業で誰もが教わる話である。中国側の発砲だったとされるが、じつは一人の日本兵も撃たれてはいない。しかし、意図的かどうかは別として、事を重大視した日本軍は本格的な戦闘へ突き進み、大陸での8年間に及ぶ泥沼の戦いにつながっていくことになる。
 戦後約70年。安倍晋三という戦争好きの政治家は、こうした歴史上の事実を無視し、再び「いつか来た道」へと、国民を引きずり込もうとしている。彼は、いったい何が望みなのだろう……。

 1937年(昭和12年)7月。北京郊外の盧溝橋で、数発の銃声が響いた。中国軍兵士による発砲だったとされるが、銃弾が日本兵にあたったわけではない。しかし、付近で演習中だった日本軍は、発砲を敵対行為とみなし中国軍を攻撃。これを契機に本格的な戦争へとなだれ込む。日中戦争は、実害の伴わない「銃声」が発端だったのである。

 盧溝橋で銃声が聞こえた時、たまたま点呼で兵士が1名足りない状況だったことが、騒ぎを大きくした原因ともいわれる。しかし、軍は中央の不拡大方針を無視して戦線を拡大。それに伴って日本は、次々と兵力を増強し、広大な中国大陸での消耗戦に突入していく。盧溝橋で発砲したのが国民党軍だったのか、共産党軍だったのかさえ定かではなく、日本軍の謀略だったとする説もあるほどだ。いずれの発砲だったにせよ、戦闘行為をエスカレートさせたのは日本側。全面戦争に持ち込む口実を探していた軍部にとっては、じつに好都合な「銃声」だったということだろう。

 日本軍には、盧溝橋での謀略を疑われるだけの根拠がある。1931年(昭和6年)、旧満州(中国北東部)の奉天(現・瀋陽市)近郊にある柳条湖で、南満州鉄道(満鉄)の線路が爆破された。日本の軍部はこれを中国側の仕業であると公表し、満州事変の起点に利用したが、満鉄線爆破は日本軍によるものだったことが戦後になって証明され、謀略の実態が明るみに出る。戦争好きの日本陸軍が、盧溝橋でもでっち上げをやったのではないか―そう思われても仕方のない状況が、当時は存在したのである。

 今日の日本で、自衛だの国益だのという言葉に胡散臭さが付きまとうのは、戦前の軍部が、武力行使の理由を邦人保護や自衛のためだと主張したことと無関係ではなかろう。太平洋戦争を「自衛のための戦争だった」と強弁する向きもある。しかし、他国の領土を軍靴で踏みにじる行為は、相手国から見れば「侵略」でしかない。自衛であれ他国からの解放であれ、戦後、アジア諸国が日本に向けてきた厳しい視線は、そうした屁理屈が通らないことを示している。

 先月、「安全保障の法的基盤の再構築に関する有識者会議」(安保法制懇)の報告書提出を受けて会見に臨んだ安倍首相は、集団的自衛権を行使することの意義について、次のように語っている。

 日本が再び戦争をする国になるといった誤解があります。しかし、そんなことは断じてあり得ない。日本国憲法が掲げる平和主義は、これからも守り抜いていきます。このことは明確に申し上げておきたいと思います。むしろ、あらゆる事態に対処できるからこそ、そして、対処できる法整備によってこそ抑止力が高まり、紛争が回避され、我が国が戦争に巻き込まれることがなくなると考えます。
 皆さんが、あるいは皆さんのお子さんやお孫さんたちがその場所にいるかもしれない。その命を守るべき責任を負っている私や日本政府は、本当に何もできないということでいいのでしょうか。内閣総理大臣である私は、いかなる事態にあっても、国民の命を守る責任があるはずです。そして、人々の幸せを願ってつくられた日本国憲法が、こうした事態にあって国民の命を守る責任を放棄せよと言っているとは私にはどうしても考えられません。

 会見の中で、首相は何度も「抑止力」という言葉を口にした。抑止力とは「武力」「戦力」のこと。つまり「目には目を、歯には歯を」という考え方だ。だが、紛争当事国でもない日本の自衛隊が、首相のいう「攻撃国」とやらに反撃したとたん、今度は日本が「被攻撃国」になるのは道理。そうなれば、本当の戦争になることぐらい、子どもでも分かる話だろう。それでも首相は、憲法をねじ曲げ、集団的自衛権を行使して戦争をやらせろという。扇情的で、現実性に乏しい内容を、高揚感を漂わせて話す姿が、かつての軍部とダブって見えた。

 安倍晋三という軍国主義者が心底待ち望んでいるのは、他国からの攻撃。それが、ただの「銃声」であろうと安倍には関係がない。戦争が出来さえすれば、柳条湖のような謀略も、盧溝橋の時のような勝手な戦線拡大もいとわないだろう。この首相は一日も早く辞めさせるべきだ。それが歴史に学ぶということではないか。



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