政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

幼稚な首相・LINE・AKB そして集団的自衛権

2014年5月19日 08:30

LINE2 集団的自衛権の行使容認に向けて、なりふり構わぬ姿勢をみせ始めた安倍首相。15日の会見において、行使容認の目的が海外で活動する邦人の安全確保にあることを強調してみせたが、この主張に首をかしげた国民は少なくなかったはずだ。
 その3日後のこと。記者が使っているスマホに、LINEのメッセージが飛び込んできた。発信元は首相官邸。LINE首相官邸公式アカウントへの登録者(メッセージ文中では(「LINE友だち」)数が300万人を超えたことと、海外留学促進プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」を紹介する内容だった。 
 世界には危険がいっぱいで、自衛隊が集団的自衛権を行使しなければ邦人の安全が守れないと明言した首相が、海外留学を勧めるという矛盾。だが、そこには、若者に集団的自衛権行使の必要性を認識させようとする狙いが透けて見える。(写真は首相官邸)

幼稚なメッセージ
 記者のLINEに首相官邸からのメッセージが入ったのは18日午後6時36分。LINE友だrちが300万人を突破したことを報告した上で、ホームという投稿機能で「トビタテ!留学JAPAN」という文科省プロジェクトのホームページに誘導する形。下の画面が、そのメッセージだ。

LINE1

 ウサギや人の顔の絵文字を使ったところは、LINEを使用する若い世代に媚を売ったとしか思えないが、これが国の中枢である首相官邸の発信するメッセージかと思うと、情けなくなる。そばにいた高校生に官邸が発信したLINEのメッセージを見せたところ、「幼稚やね。それに恋チュンは去年のことよ」と一蹴されてしまった。

何故いま海外留学の勧め?
 初のホーム投稿と断って紹介したのは、文部科学省が昨年10月から行っている「トビタテ!留学JAPAN」という海外留学促進のためのプロジェクト。開始から今年3月まで、奨学金支給をはじめ様々な形でキャンペーンが行われ、全国の高校生、大学生に留学を勧める活動を展開していた。

 キャンペーン開始にあたっての下村博文文科相の挨拶には、次のような一節がある。

≪2020年に夏季オリンピック・パラリンピック競技大会が日本で開催されることになりました。2020年に世界が日本にやってきます。私たちは、2020年を大きな節目として、世界規模で活動し、地球規模で物事を考える日本に進化する必要があります。特に、日本の若者には、広い世界の中で自己研さんを積んでもらい、日本と世界で活躍できるような人材として育って欲しいと考えております。

 このため、本日、私は、この時期をチャンスととらえ、日本全体で若者や日本の「トビタテ」の気運を高めるための留学促進広報戦略本部を立ち上げ、「留学促進キャンペーン」を開始することとしました。これは、留学の魅力や方法などについて情報を提供することで、大志あるすべての若者をはじめとした日本人が、海外留学などの新しいチャレンジに自ら一歩を踏み出す、そういう気運を醸成することを目的にするものです。この取組は、政府だけではなく、官民協働のもと社会総掛かりで取り組むことにより、はじめて大きな効果が得られるものと思います。≫

 このキャンペーンに一役買っているのは、AKB48。昨年、彼女たちが歌ってヒットした「恋するフォーチュンクッキー」の替え歌バージョング「トビタテ!フォーチュンクッキー」が応援ソングになっており、文科省のホームページでは、歌に合わせて踊るAKBのメンバーや各地の大学の学生の姿が動画として見れる仕掛けとなっている。いわゆる「恋チュン動画」の「トビタテ!フォーチュンクッキー留学JAPANバージョン」だ。

 「恋するフォーチュンクッキー」をめぐっては、ヒットする過程で、多くの民間企業や団体が楽曲に合わせて踊る「恋チュン動画」を作成。公費を使った数々の自治体バージョンの背後に、正体不明の人物が絡んでいたことが、HUNTERの取材で明らかになっている。“文科省に次いで官邸まで恋チュン動画か”と呆れたが、曲の旬は過ぎており、いまさら恋チュンでは話題性に欠ける。いわば時期外れの今、首相官邸がこれを宣伝材料にしてまで海外留学を奨励する必要があるのか疑問だ。

透けて見える「集団的自衛権」
 首相官邸が「LINE」の公式アカウントを開設したのは平成24年10月。文科省の留学促進キャンペーンを宣伝する機会は、いくらでもあったはずだ。何故いま「トビタテ!留学JAPAN」なのか――?考えられる理由はひとつしかない。「集団的自衛権」である。

 安倍首相は、「安全保障の法的基盤の再構築に関する有識者会議」(安保法制懇)の報告書提出を受け、15日に首相官邸で記者会見を行った。そこで首相は、「国民の命と暮らしを守る責任」と繰り返し述べたが、具体的な事例として持ち出したのが、海外で活動する邦人の安全確保。紛争地から邦人を運ぶ途中の米国艦船が攻撃を受けたらどうするのか、と、あまり現実的ではない危機を強調。さらに、日本周辺も含めて、世界中に絶対の安全などないという考え方を強く打ち出し、集団的自衛権の行使を容認する意義を説いた。その危険な海外に、留学しろというのだから矛盾している。しかし、どうやら狙いは別。「だから集団的自衛権の行使容認を理解してね」と言いたいのだろう。姑息な政権の考えそうなことだ。

 海外留学を支援する。若者は海外に出ろ。集団的自衛権の行使容認が実現すれば、安全は保障する――これが政権の筋書きだろう。だが、自衛隊が集団的自衛権の行使であるとして反撃すれば、日本が直接的に戦闘に参加したことになり、相手が敵対行為とみなすのは必定。そうなれば戦争である。留学生だけでなく、多くの若者や国民に惨禍をもたらすことは疑う余地がない。

 子どもでも分かる現実を否定して、駄々っ子のように戦争への道を押し付ける安倍首相。この政治家と官邸が発したLINEのメッセージの幼稚さが、見事に重なって見える。



【関連記事】
ワンショット
 ガラスの向こうに積み上げられた洋書。オシャレな入り口の奥...
過去のワンショットはこちら▼
記事へのご意見はこちら
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲