政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
僭越ながら:論

原発避難計画 論じるナンセンス

2014年5月16日 08:40

 原発再稼働に向かって突き進む安倍政権。これに対し、全国16カ所の原発事故を想定した関係自治体の避難計画づくりが遅れていることを、様々なメディアが伝えている。
 原発から30キロ圏にある自治体は130を超えているが、半数近くの市町村で計画策定が遅れたり、不十分だったりの状況。実際の事故で、どこまで実効性があるのか分からないのだという。
 福島第一の現実を忘れがちな国民に対し、こうした実態を知らせることは大切なことかもしれない。しかし、再稼働を前提とした避難計画の内容だけを論じるのは、ナンセンスであるとしか思えない。(写真は、九州電力川内原子力発電所)

 原発事故を想定した各自治体の避難計画は、明らかに「再稼働」した場合に対応するものだ。だが、いったん原発で過酷事故が起きれば、大量の放射性物質がまき散らされ、住民は避難する時点でこれを浴びる可能性が高い。風向きや事故の度合いによって状況が変わるとはいえ、フクシマが示しているように、放射能被害は広範囲に及ぶ。

 避難するにしても、多くの住民が一斉に動くとなれば、膨大な時間を要することが目に見えている。自治体によっては、これを数十時間と見積もっているところがあるという。繰り返すが、放射性物質が降り注ぐ中での話。実効性がない避難計画など、鼻からあてにしない方がいい。

 原子力規制委員会の動きからすると、再稼働の一番手は九電の川内原発(鹿児島県薩摩川内市)。地元の鹿児島県は、30キロ圏の自治体ごとに説明会を開くとしているが、無責任な話だ。

 住民避難で最も重要となるのは、川内原発に対応するオフサイトセンター。オフサイトセンターとは、原子力災害時に、国や地方自治体などの関係者が参集し、緊急時の情報を共有しながら住民避難などへの適切な対応を導くための拠点となる施設だが、鹿児島県のオフサイトセンターは、川内原発からわずか11キロの薩摩川内市内にあり、万が一の時に役に立つとは思えない。

 福島第一の事故の時、立地自治体である大熊町にあったオフサイトセンター(福島県原子力災害対策センター)では、東日本大震災発生と同時に停電が発生、さらに軽油を用いた非常用電源も故障し、何の役にも立たなかったことが分かっている。

 福島第一原発の事故では、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」も機能しなかった。SPEEDIが機能しなければ、オフサイトセンターなど無用の長物だ。住民避難計画は各自治体でつくられるが、計画の実効性を支えるオフサイトセンターやSPEEDIは国の責任で整備すべきもの。しかし、そうした備えが万全とは言えぬ中、原発の安全審査だけが先行。原発をめぐる議論が、局所的になっている現状は否定できない。

 そもそも大規模な避難計画を必要とする発電施設が原発以外にあるのか――?火力発電所や水力発電所を動かすのに、避難計画など必要ないはずだ。太陽光や風力でも同じ。放射性物質を広範囲にまき散らかし、大勢の人の命を奪う危険性があるからこそ、原発には避難計画が必要になるのだ。国民の生命・財産を奪う可能性があると分かっている危険なシロモノを、なぜ無理やり動かす必要があるのだろう。広域で避難計画の必要があると判断された時点で、原発は廃止すべき存在なのである。

 もう一点、本質的な話。避難計画の策定が求められるのは、原発に「絶対の安全」が担保できないからに他ならない。安倍首相をはじめとする原子力ムラの人間たちは、「世界一安全」などと平気で言う。しかし、日本の原発は「第二世代」と呼ばれるもの。すでに世界では「第三世代」の原発が台頭している。第三世代が第二世代より進化しているのは道理で、安全基準も違うが、その第三世代の原発にしても、やはり事故の危険性は否定されていない。原発も、しょせんは人の手によって管理される施設。「人為的ミス」もつきまとう。「世界一安全」などという言葉には、何の根拠もないのである。

 ましてや日本は地震大国。原発そのものがどんなに頑丈に造られても、地盤が崩壊すれば元も子もあるまい。原発設計の前提となる地震の揺れ(基準値振動)を、いくら大きく見積もっても、フクシマの「想定外」は、それが無駄であることを証明している。いかなる「神話」も成り立たないということを、いい加減理解すべきだろう。再稼働を前提とした避難計画の在り方を論じること自体、ナンセンスなのである。

 15日、会見を開き、集団的自衛権の行使容認に向けて憲法解釈を変更すると明言した安倍首相は、話の中で「国民の命と暮らしを守る責任」と繰り返した。“嘘をつくな!”と言いたい。本当に国民の命と暮らしを守る責任があるというのなら、大規模な避難計画が必要な原発を推進することなどできないはずだ。この極右政治家の言葉も、ナンセンスというしかない。



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲