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権力の犬 ― 南日本新聞の紙面から(下) ―

2014年5月15日 08:45

南日本新聞1 県営住宅の入居倍率が「高止まり」していると報じた鹿児島県の地元紙「南日本新聞」。記事の内容をよくよく見ると、倍率は下落傾向にあるにもかかわらず、無理やりこじつけた形。不可解な記事の狙いは何かと考えていたら、記事中の一節が、その答えを示していることに気付いた。
 背景にあるのは、鹿児島県が鹿児島市松陽台町で強引に計画を進めようとしている県営住宅増設問題。南日本新聞が、ことさら県営住宅が不足しているような記事を掲載したのは、この計画を進めるための地ならしの意味があったと思われる。

さりげなく狙いの一文 
 昨日報じた今月10日の南日本新聞朝刊の記事。県営住宅の入居倍率に関する九州各県や鹿児島県における状況は、いずれも「下落傾向」。「高止まり」だという同紙の報道は、どう見てもこじつけで、狙いが分からない。記事を読み進めるうち、ようやく何が言いたいのか理解させてくれる一文が出てきた。

鹿児島市松陽台町のガーデンヒルズ松陽台には、子育て世代限定の住宅を建設中だ

 そこまでの記事の流れからすると、こうなる。

・県営住宅の入居倍率は「高止まり」している
          ↓
・全体では下落傾向だが、鹿児島市内の倍率は高い
          ↓
・高齢者や母子家庭などは、民間賃貸住宅に入りづらい
          ↓
・高齢者や子育て世代に配慮して県営住宅建設を進めている
          ↓
・鹿児島市松陽台町のガーデンヒルズ松陽台では、子育て世代限定の住宅を「建設中」

 この記事は、松陽台の県営住宅建設に、意義があることを示すために執筆・掲載されたということだ。

問題だらけの松陽台県営住宅
松陽台 度々報じてきた通り、松陽台の県営住宅増設には、地元自治会の強い反対がある。増設計画は、平成15年から鹿児島県住宅供給公社が販売している分譲住宅地「ガーデンヒルズ松陽台」の土地を鹿児島県が取得し、新たに県営住宅330戸を建設するというもの。しかし、ガーデンヒルズ松陽台は、約11haの予定地に戸建用地470区画を販売するというのが当初の計画。170区画程度(平成23年2月までの実績)を売却したところで、方針を大きく変えた伊藤祐一郎知事に、地元が反対の声を上げたのは当然の成り行きだった。戸建て住宅が立ち並ぶ静かな街に「終の棲家」を夢見て分譲地を購入した地元住民は、生涯設計を台無しにされるのだ。県や公社が約束してきた商業施設にしても、誘致の目途さえ立っておらず、住民が「騙された」と怒るのは無理もない。

 巨額の税金を投入する事業でありながら、県は事業試算さえ持ち合わせていないことが、HUNTERの取材で判明しており、杜撰な計画であることも事実。昨年の県知事リコールでも、松陽台の問題が原因のひとつに挙げられたほどだった。

 そうした中、県は3月、地元の強い反対を無視して一方的に県営住宅建設の着工を宣言。直後に、地元のテレビで計画の前提とされた地元住民へのアンケート結果が捏造されたものだったことが報じられ、注目を集める事態となっていた。

南日本新聞 “県営住宅増設は不必要”とする批判をかわすためには、県営住宅への入居希望者が多いと見せかけなければならない。そこで登場したのが、報じてきた南日本新聞の記事(右の写真)だったというわけだ。問題の記事は、県の主張ばかりを並べたてており、まさに県の広報。同紙が「御用新聞」たるゆえんである。

 間抜けなことに、記事を書いた記者は松陽台の実情を知らなかったらしい。同町に「子育て世代限定」の県営住宅を造るという県の方針を、何の疑いもなく文字にしている。しかし、松陽台に小学校はなく、同町の子どもたちは、松元小学校に通うため、JR鹿児島本線の列車に乗って、地元「上伊集院」駅から一駅向こうの「薩摩松元」駅に通う毎日を送っている。これが子育て世代に優しい町と言えるのだろうか。「子育て世代限定」が聞いて呆れる。

住民の声は付け足し
 南日本新聞の記事について、地元住民への取材を行ったところ、伏線があったことも判ってきた。先月12日、同紙の紙面に、〔県営住宅「松陽台」着工〕との見出しで、次のような記事が掲載されていた。

 ≪鹿児島県が鹿児島市松陽台町の「ガーデンヒルズ松陽台」の北側用地に建設を計画していた県営住宅(仮称・松陽台第二団地)の建設工事が始まっている。2日に着工した。本年度は10月までに18棟36戸の完成を目指し、11月下旬をめどに入居希望者の申し込みを開始する。
 住宅は長屋住宅で木造2階建て、建設費は約5億円。入居対象となるのは未就学児を持つ子育て世代で、居住期間は原則10年間。県は県住宅供給公社から北側の区画など計約5万4000平方メートルを約30億円で購入、2022年度までに計約330戸を建設する予定。
 県は04~09年度に公社から約4万1000平方メートルを24億円で購入し、既に160戸の住宅を建設した。
 県住宅政策室は「県営住宅の入居希望者は子育て世代を中心に多い状況にある」としている。
 分譲地を購入した住民からは県営住宅建設に反対する声もある。≫ (下がその記事。赤い矢印と線はHUNTER編集部)

新聞記事

 昨日から報じてきた御用記事(5月10日朝刊の記事)と見事に重なる内容。4月の記事の延長線上に、今月10日の記事があることが分かる。

 この新聞のタチの悪さは、先に地元自治会から松陽台県営住宅建設着工の情報を得ていながら、県側の言い分だけを厚く報じたことだ。記事の最後にある≪分譲地を購入した住民からは県営住宅建設に反対する声もある≫との一文は、体裁を取り繕うための付け足しに過ぎない。

 松陽台町の役員は、憤りを隠せない。
「3月下旬、唐突に県営住宅増設工事を近日着工するという知らせを受けました。これまでと変わらず、住民は断固計画に反対である旨を、町内会長として、地元マスコミ各社に伝えました。鹿児島県知事宛に提出した文書も添えて、詳細に状況を伝えたのです。ですが、南日本新聞の対応は全く残念なものでした。情報を提供したこちらには、取材はおろか問い合わせさえなかったのです。そして、4月12日の記事です。私たちの声はほんの数行。記事の最後に、申し訳程度に書いてあるだけでした。対照的に、県の言い分はご丁寧に、そのまま垂れ流している有様です。今月10日の記事も読みましたが、松陽台の県営住宅が、さも必要であるかのような書き方です。県の作った原稿をそのまま載せたとしか思えない、お粗末な記事でした」。

 役員は、さらに続けてこう話す。
「同じ地元メディアでも、3月24日、26日の2回に渡り、県民目線で松陽台問題を丁寧に報じてくださったテレビ局がありました。KTS鹿児島テレビさんです。住民は感謝の気持ちでいっぱいです。これまでも、南日本新聞の記事には住民を無視し、県側に立ったものが多く目に付き、疑念を持っておりました。南日本新聞は、まさに御用新聞。誰のための地元紙なのかと言いたい」。

権力の犬
 南日本新聞をめぐっては、これまでも権力側にすり寄る姿勢が目立っていた。昨年4月の朝刊の紙面。松陽台町の町内会が市議会に提出していた、県営住宅建設にともなう地区計画変更案に反対する陳情書が不採択になったことを伝える記事では、地元自治会を『一部住民』と表現。住民の声を過小に見せる書きぶりに、厳しい批判が上がっていた。

 また、昨年HUNTERが核のゴミの処分をめぐって大揺れとなった南大隅町の森田俊彦町長と、東電の闇の代理人との親密な関係を報じた折、南日本新聞の記者が、町長選に立候補することを表明していた人物の事務所を訪れ、《HUNTERは森田町長にカネを要求したが、断られて記事を配信した》と話したことが分かっている。

 読者ではなく、権力者に寄り添う南日本新聞。権力の犬が、はたして報道機関と言えるのだろうか。



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