政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

御用新聞の証明 ― 南日本新聞の紙面から(上) ―

2014年5月14日 07:35

南日本新聞1 記者クラブ制度の弊害について、これまで幾度となく報じてきた。とりわけ地方自治体にある記者クラブは、役所の広報室と化すケースが多く、“権力の監視”という本来の使命は葬り去られたも同然の状況だ。
 注目すべきは、地元紙と当該自治体の関係。地域内の販売部数が多いだけに、地元紙が役所と結託して御用新聞となれば、結果的に住民が不利益を被ることにつながる。
 鹿児島県の地元紙は「南日本新聞」。この新聞が掲載したお粗末な記事に、その典型的な事例があった。

目を疑った南日本新聞の記事
 つい最近、鹿児島県の地元紙「南日本新聞」を買って読む機会があった。5月10日の同紙朝刊である。〔県政・総合〕とくくられた4面の記事に目がとまったのは、違和感を感じたせい。そこには、「入居倍率 高止まり」と大見出しが打ってある。鹿児島県の県営住宅についての記事らしいが、「高止まり」と言う言葉に引っかかった。

 記事を読むと、鹿児島県の県営住宅入居希望者の倍率が高止まりしており、入居希望の理由が多様化しているとの分析を紹介している。だが、内容自体は県の言い分をそのまま載せたとしか言いようのないもの。南日本新聞社や記者独自の見解は見当たらない。(下が、「南日本新聞」5月10日朝刊の記事)

南日本新聞2

 再読してみたが、何が言いたいのかさっぱり分からない。文脈が通らないのだ。見出しとリードの打ち出しは入居倍率が「高止まり」。しかし、リードや記事本文で鹿児島県における県営住宅の現状、入居者募集の概要、背景などについて説明しながら、途中で論理矛盾をきたしている。まず、リードの文章を見てみよう。

2013年度は3.65倍で、10年間でピークだった5.78倍(07年度)に比べると下がっているものの、県内人口が減少する中、依然として高い水準だ
 
 「高止まり」と断定しながら、「下がっている」。これでは読者が混乱するだけだ。「高い水準」というが、何を基準に「高い」というのか、リードにもその後の記事にも説明ひとつない。ひどいのは次の記事本文中の一節だ。

最近では07年の5.78倍をピークに徐々に下がっており、直近の3年間は3~4倍で推移。特に鹿児島市内の住宅は人気が高く、13年度の同市内の倍率は7.24倍だった

 「徐々に下がっており」の後に、「特に」と前振りしてから鹿児島市内での倍率が高いと続けている。「特に」と来るならば、前の文章は「上がっている」でなければなるまい。記事を書いた記者も、校正担当も、整合性の無さに気付かなかったのだろうか?

 記事と、記事の説明用グラフにも整合性がない。下は、記事にある年度ごとの入居者倍率を示したグラフを拡大したものだが、若干の上下はあるものの、倍率が下落傾向にあることは歴然。「高止まり」という表現とは、まったく違う格好となっている。

南日本新聞3

九州各県―入居倍率は下落傾向
 ここで、同紙記事がいう「高止まり」という表現が、いかにいい加減なものか、明らかにしておきたい。
 九州各県に、県営住宅入居希望者の倍率について聞いたところ、募集方法が特殊であるため、年度ごとの倍率を算出していないという佐賀県を除き、次のような状況であることが分かった(県名の横は、各県が管理する県営住宅の戸数。熊本県は1年を前期・後期に分けているため、半年ごとの数字)。

【長崎県】 12,000戸 
24年度→7.4倍
25年度→5.9倍

【大分県】 8,671戸
24年度→5.1倍
25年度→5.6倍

【宮崎県】 9,056戸
24年度→4.6倍
25年度→3.8倍

【熊本県】 8,500戸
24年度後期→4.07倍
25年度前期→4.75倍

【福岡県】 29,064戸
24年度→7.5倍
25年度→6.2倍

 各県で年度ごとの上がり下がりはあるものの、長いスパンで入居倍率を見れば、どこも下落傾向にあるという。つまり「高止まり」というわけではない。年度ごとの数字の上下は、募集する県営住宅の新・旧や、場所によってかなり左右されるというのも各県そろっての見解だった。鹿児島県の入居倍率を示した前掲のグラフと同じ状況だと言えよう。

 南日本新聞の記事は、鹿児島県の県営住宅への入居倍率を「高止まり」「高い水準」と断定的に書いているが、他県の数字と比較したわけではなさそうだ。≪県内人口が減少≫している現状に対し、「高い」と判断しているだけ。これでは単なる“こじつけ”でしかない。福岡県以外、人口減少はどの県も同じ。鹿児島だけの傾向ではなく、これを以て「高い」という判断を支えることはできまい。肝心の人口減少を示す数字さえないところなど、お粗末過ぎて話にならない。入居倍率についての実情を正確に伝えるなら、「下落傾向」とすべきだろう。

 それでは、この訳の分からない記事の狙いはどこにあるのか――?結論を述べるが、この記事は県の広報としての使命を果たしただけで、県民の目線で書かれたものではない。ヒントは記事中の一文にあった。

つづく



【関連記事】
ワンショット
 ガラスの向こうに積み上げられた洋書。オシャレな入り口の奥...
過去のワンショットはこちら▼
記事へのご意見はこちら
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲