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玄海町・佐賀県 原発マネー道路の実態

2014年5月20日 09:40

 国民の声を無視して原発再稼働への動きが加速する中、原発立地自治体による杜撰な公共事業の実態が浮き彫りとなった。
玄海町役場 問題の事業は、玄海原子力発電所を抱える玄海町から唐津市に抜ける道路の整備工事。原発マネーにモノをいわせた玄海町の単独事業だったが、肝心の唐津市から正式な同意を取り付けていなかったため、工事区間が玄海町内でストップ。事業目的が果たせない形となっていた。
 そこに助け舟を出したのは佐賀県。唐津市内の延長区間を含め、路線ごと「県道」にすることで玄海町を救ったが、町道や市道を県道に昇格させるための基礎データとなった交通量調査が、わずか12時間だけのものだったことが、県への情報公開請求で明らかとなった。
(写真は玄海町役場)

1.9㎞の町道整備に28億3,700万円
 事の発端は、玄海町役場から唐津市に向かう町道「長倉-藤平線」の道路整備事業。平成12年春に始められたこの事業、整備される道路の距離は1.9キロでしかない。カーブする部分の直線化や140メートルほどの架橋などが含まれてはいるが、大半は道路幅を約50センチ拡げるだけの話。これに28億3,700万円にものぼる事業費が投入されていた。架橋に約15億円が見積られているが、1メートルあたりの整備コストは150万円。通常の道路整備コストの10~15倍となる計算だ。

 事業費の原資のうち、9割近くは原発マネー。一般財源から3億7,100万円が充てられるが、15億2,500万円は核燃料サイクル交付金、9億4,100万円は電源立地対策交付金が使われている。原発立地自治体特有のばらまき事業ということだ。

「道路改良工事中」岸本組 玄海町側の説明では、計画当初は西九州自動車道北波多インターチェンジへのアクセス道路として、「産業振興」を目的とする事業だったが、福島第一原発の事故を受けて、道路整備の目的が一変。原発事故時の「広域避難のため」(町側説明)という別の理屈が後付されていた。

 途方もない無駄遣い事業の背景には、何が何でも公共事業を創出しなければならないという町内事情がある。昨年の取材時、道路工事現場で撮影した業者の看板にはそこにあった社名は「岸本組」——言わずと知れた岸本英雄玄海町長のファミリー企業である。玄海町では、原発がらみの公共事業を、岸本一族がコントロールする状況が続いており、町長が発注者として絶えず地場建設業界に仕事を出すことで、強固な支配体制が確立されている。巨額の原発マネーが玄海町に入り、町や九電の発注工事を岸本組が落札して、同社の株主である町長に配当が渡るという“原発マネー還流”の仕組みも確認されている。

玄海町を救った県
 問題は、玄海町が一方的に道路整備を進めてきたこと。避難用にせよ、インターチェンジへのアクセス道路であるにせよ、玄海町から隣接する唐津市内に至る道路であれば、一体化した道路整備が必要になるのは分かっていたこと。しかし、肝心の唐津市側には、道路整備の計画さえなかったことが分かっている。

 唐津市や市議会が道路の事業計画を知ったのは工事が始まって1年近く経った去年の春。岸本町長が唐津市に道路整備の要請をしたのは、町道整備事業の問題を指摘した新聞報道を受けてのことだったという。玄海町は、県や唐津市と十分な相談もせぬまま、勝手にアクセス道路を整備していたのである。杜撰な巨額公共事業の進め方に、町の内外から批判の声が上がったのは言うまでもない。

佐賀県庁 困った玄海町が頼ったのは県。予算がないという唐津市に代わって、県費で唐津市内の道路を整備しようという企みだ。しかし、一自治体が勝手に進めた話。県が簡単にこれを認めるとは思えなかったが、他県では通りそうもない玄海町の要望を受けた県は、あっさりこの計画にゴーサインを出してしまった。玄海町から唐津市内に至る約6キロの道路を県道「肥前呼子線」にすることで、町に助け船を出したのである。この間、わずか半年程度。ばたばたと県道整備の計画が出来上がっていく。町側が言っていた「避難用」は影をひそめ、北波多インターへのアクセス道路という形での事業。事業費は30億円以上。原資は“原発マネー”なのだという。

わずか12時間の交通量調査
 しかし、県道として認めるには、それなりの交通量が必要。極端に通行量が少ないとなれば、事業の名目が立たないからだ。県は、業者に費用対効果をはかる調査を行わせたが、ここで基礎データとして使われたのが「平成22年度道路交通センサス一般交通量調査」の結果だった。 

 「道路交通センサス」とは、国土交通省、都道府県、政令市及び各高速道路会社・道路公社等が合同で道路交通の状況を調査するもの。おおむね5年ごとに行われ、直近では平成22年に実施されていた。佐賀県での調査は同年10月、平日の午後だったという。

 下はその調査結果の一部。佐賀県に、県道整備にあたっての基礎資料となった交通量調査に関する情報公開を求め、開示された資料がこれだ。赤いアンダーラインを引いたのが、玄海町が整備している町道「長倉-藤平線」の玄海町役場前での調査結果である。交通量は1,144台となっている。

県道 交通量調査

 調査結果にある通り、調査時間はわずかに12時間でしかないが、この数字を基に業者が試算した将来の交通量は、なんと3,000台以上(県側説明)。約3倍の車が走ることになるという。県は、町道や市道を県道に昇格させるにあたって、改めて交通量調査を実施しておらず、検討材料にしたのは、「平成22年度道路交通センサス一般交通量調査」の結果だけ。わずか12時間の交通量調査が、総額約60億円におよぶ道路整備の根拠となった形だ。

 玄海町の事業も、県道整備も、綿密な計画に基づいたものでないことは明白。「原発マネー」があるがゆえに可能となる、無駄な公共事業と言っても過言ではあるまい。



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