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福岡市地下鉄工事 「落札率100%・技術提案なし」の不可解

2014年4月23日 08:55

 安倍首相が推進してきた「アベノミクス」は、大胆な金融政策、機動的な財政出動、そして成長戦略という「3本の矢」を以てデフレを脱却し、経済を立て直すという触れ込みで進められてきた経済政策だ。放ちきれない成長戦略や日銀による「異次元の金融緩和」は別として、機動的な財政出動=ばらまき公共事業が、おかしな状況を作り出している。
 仕事が多すぎることから生じた建設資材の高騰や人手不足で、自治体が発注する公共事業の入札を辞退する業者が続出。ついには入札金額に業者独自の技術内容を加味して落札者を決める、「総合評価方式」を形骸化させるケースまで現れた。
 役所側も驚いた、福岡市で起こった事例とは……。

落札率100%
 昨年12月4日と今年3月5日、福岡市交通局が、市内を走る地下鉄七隈線の建設工事3件の入札を実施した。それぞれの工事名と契約金額、(予定価格)、落札率は次の通りだ(金額はすべて税込)。
①福岡市地下鉄七隈線博多駅(仮称)工区建設工事 112億9,800万円 (113億5,091万3,700円) 99.5%
②福岡市地下鉄七隈線中間駅(仮称)西工区建設工事 76億5,936万円 (76億6,956万2,940円) 99.87% 
③福岡市地下鉄七隈線中間駅(仮称)東工区建設工事 43億8,642万6,480円 (同額) 100%

 下は3件の入札結果表だが、①の入札では1JV(建設共同企業体)が、②と③の入札では、2JVが入札を辞退。①では競合したものの、②と③は、結果的に一者応札の形で落札者が決まっている。

 入札を辞退した各JVが提出した「辞退届」によれば、辞退理由の大半が、“工事原価の予定価格超過”。つまり採算が合わないということだ。これは、建設資材の高騰などで、役所の積算見積もりと現実が合致していないことを示しており、公共事業の大盤振る舞いが、結果的に建設不況を招いている形だ。

 入札1-2 入札1-1 入札1

 問題は③の入札。落札した「錢高・日本国土・九建」JVは、予定価格通りの金額で応札。他の2JVが応札を辞退したため、漁夫の利を得る形で約44億円の仕事を受注していたのである。落札率100%。これだけの大型事業では異例の数字だ。さらに異例だったのは、錢高JVが総合評価方式の入札に、「技術提案」を行っていなかったことだった。

「技術提案なし」――総合評価の形骸化
 総合評価方式による入札においては、各社・各JVが独自の技術や工事管理について提案書を提出し、応札額と合わせて評価を受けるのが普通。落札したければ、他に優るような工夫を凝らした技術提案を行うしかない。言い換えれば、技術提案があればこその総合評価方式なのである。問題の入札でも、次の5項目について、JV側の技術提案及び下請計画の提出が求められていた。

1、躯体コンクリートの品質確保について
2、深い土留工の確実な施工について
3、基盤層境の確実なシールドの掘進管理について
4、近接の商業ビル及び住民への配慮について
5、地場企業への下請計画について

 これに対し、工事を落札した錢高JVが提出した技術提案が下。上記1から4まで、すべて『提案なし』にチェックが入れてある。下請計画についても『提案なし』だった(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

提案

 他のJVが応札し、技術提案を行っていれば、当然その評価点数が加点されるため、『提案なし』のJVが落札することは不可能。この入札で落札者となった錢高JVは、一定の予算が必要とされる技術提案を作成することなく、44億円もの工事を受注したことになる。福岡市が、一定額以上の工事入札で総合評価方式を採用するようになってからは、昨年の1例に続き、今回が2例目。交通局所管の大型事業では初めてのことだという。総合評価方式の形骸化である。

問われる談合の有無
 ここで一つの疑問が浮上する。入札は、応札金額をデータで送る「電子入札」。そのため入札書を送信した日時のデータが残される。市への情報公開請求で入手した資料で、その記録を確認してみた。

 この工事を落札した錢高JVの入札書送付は、「平成26年2月3日 15時40分」(下の文書参照)。これに対し、1月28日に1JVが辞退届をデータで送り、2月3日にはもう一方のJVが、10時07分に入札を辞退している。つまり、落札した錢高JVは、他のJVがすべて辞退したあとに、技術提案を省いて応札金額だけを送っていたのである。見方によっては、他のJVの動向を確認してから動いたともとれる恰好。ある種の「談合」が疑われるのは当然だろう。

応札データ2

 仕事を受注したいのであれば、当然ながら「技術提案」を作成し、提出する。しかし、他のJVが「辞退する」と分かっていれば、提案書作成に無駄な時間や予算をかけずに済む。現行の総合評価方式が、技術提案がなくても落札が可能な制度であるため、他社の動向が分かっていれば、この制度上の欠陥を抜け道にした手抜き応札が可能となる。錢高JVが辞退ではなく、応札したということは、とりもなおさず「仕事は欲しかった」ということ。ならばなぜ技術提案をしなかったのか――?「談合」の有無が疑われる事態である以上、市は入札の過程を詳しく調べるべきだ。



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