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知っていますか?「集団的自衛権」

2014年4月18日 08:40

 安倍政権は、集団的自衛権の行使容認と、これにともなう憲法解釈の変更を行うため、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書提出後、「政府方針」をまとめて公表することを決めた。その後、公明党との協議を詰め、閣議決定に持ち込む構えだ。
 この間、国民的議論はもとより国会での審議さえ行われることはない。事実上の改憲が、恣意的に決められることになる。
 戦後の国の形を根底から覆す安倍政権の愚行について、国民はどれほど理解しているのだろう。

安保法制懇は私的な会合
 安保法制懇は首相の私的諮問機関。法的で存在が定められた組織ではない。平たく言えば首相の相談相手。報告書が出されても、国や国会がその内容に縛られることはない。その程度の存在ということだ。もちろん、公明党が安保法制懇の報告内容を「はいそうですか」と認める必要はない。このため、政府としては、安保法制懇の報告を受けた後で公式な案をまとめ与党内協議を加速、その後閣議決定に持ち込む手はずとなる。一連の動きの中で、国民の意見が軽く扱われるのは必定だ。閣議決定は政権が勝手に行うもので、国民の意見を反映させる必要がないからである。だからこそ、安倍政権の手法は危うい。

 その安保法制懇のメンバーを確認してみよう。

・岩間陽子 政策研究大学院大学教授
・岡崎久彦 特定非営利活動法人岡崎研究所所長・理事長
・葛西敬之 東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長
・北岡伸一 国際大学学長・政策研究大学院大学教授
・坂元一哉 大阪大学大学院教授
・佐瀬昌盛 防衛大学校名誉教授
・佐藤 謙 公益財団法人世界平和研究所理事長(元防衛事務次官9
・田中明彦 独立行政法人国際協力機構理事長
・中西 寛 京都大学大学院教授
・西 修 駒澤大学名誉教授
・西元徹也 公益社団法人隊友会会長(元統合幕僚会議議長)
・細谷雄一 慶應義塾大学教授
・村瀬信也 上智大学教授
・柳井俊二(座長) 国際海洋法裁判所長(元外務事務次官)

 じつは、細谷慶大教授以外の13名は、第一次安倍内閣(平成18年9月~平成19年8月)の時の安保法制懇のメンバー。右寄りとみられる有識者ばかりで、もともと集団的自衛権の行使に積極的。細谷氏にしても、懇談会の議論をリードしてきた北岡伸一氏の教え子だ。つまり、安保法制懇は、安倍首相の持論である集団的自衛権の行使容認を可能にするための道具立てなのである。5月にも出される予定の「報告書」は、当然前回の平成20年6月に出された「報告書」の内容に近いものになる。

議論された「4類型」とは
 それでは、前回の報告書から、方向性を探ってみよう。平成19年に当時の安倍首相が示した検討課題は、次の4つの事例についてだった。

① 共同訓練などで公海上において、我が国自衛隊の艦船が米軍の艦船と近くで行動している場合に、米軍の艦船が攻撃されても我が国自衛隊の艦船は何もできないという状況が生じてよいのか。

② 同盟国である米国が弾道ミサイルによって甚大な被害を被るようなことがあれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼすことも間違いない。それにもかかわらず、技術的な問題は別として、仮に米国に向かうかもしれない弾道ミサイルをレーダーで捕捉した場合でも、我が国は迎撃できないという状況が生じてよいのか。

③ 国際的な平和活動における武器使用の問題である。例えば、同じPKO等の活動に従事している他国の部隊又は隊員が攻撃を受けている場合に、その部隊又は隊員を救援するため、その場所まで駆け付けて、要すれば武器を使用して仲間を助けることは当然可能とされている。我が国の要員だけそれはできないという状況が生じてよいのか。

④ 同じPKO等に参加している他国の活動を支援するためのいわゆる「後方支援」の問題がある。補給、輸送、医療等、それ自体は武力の行使に当たらない活動については、「武力の行使と一体化」しないという条件が課されてきた。このような「後方支援」のあり方についてもこれまでどおりでよいのか。

 これがいわゆる「4類型」といわれるもの。安倍首相は、この4つのケースで、集団的自衛権を行使すべきだと考えている。短くまとめるとこうなる。

(1) 公海上の米艦防護
(2) 米国向けの可能性のあるミサイルの迎撃
(3) PKOなどで他国軍が攻撃された時の“駆け付け警護”
(4) 海外での後方支援活動の拡大

 公海上で併走するアメリカの艦船が攻撃を受けた場合、自衛隊の艦船が応戦する。これが(1)のケースだ。(2)は、北朝鮮によるミサイル発射が想定されるだろう。北朝鮮がミサイルを発射すると、日本の上空を通過してアメリカに向かう。同盟国への攻撃だから、これを撃ち落とすという論法だ。しかし、これはあまりに非現実的。北朝鮮からアメリカに飛ぶミサイルは高高度。そんなものを落とせる技術など日本にはない。

 「集団的自衛権」というのは(1)と(2)のケース。あとは集団安全保障の領域に入る。(3)の“駆け付け警護”とは、PKOに派遣された要員が、他国の部隊が攻撃された場合に、これを守るために応戦すること。自己防御しか許されていない自衛隊が、他国間の争いに首を突っ込むということにつながる。(4)は、武力行使活動の後方支援を認めるというものだ。

 「4類型」などと称していっしょくたに議論されているが、すべてが「集団的自衛権」というわけではない。安倍政権は、4類型における自衛権行使が許される事態に、地域など一定の制限を加えることでお茶を濁そうとしているが、戦争に巻き込まれる可能性が高まるのは同じ。例えば、米国の艦船が中国軍から攻撃を受けたとして、日本が集団的自衛権の行使だと言って応戦すれば、否応なく「戦争」に加わることになる。中国を北朝鮮に置き換えても同じことが言えよう。いずれにしろ「戦争」なのだ。

 第一次安倍政権下で出された安保法制懇の報告書では、「4類型」について、最終的に次の提言を行っていた。

① 公海における米艦防護については、厳しさを増す現代の安全保障環境の中で、我が国の国民の生命・財産を守るためには、日米同盟の効果的機能が一層重要であり、日米が共同で活動している際に米艦に危険が及んだ場合これを防護し得るようにすることは、同盟国相互の信頼関係の維持・強化のために不可欠である。個別的自衛権及び自己の防護や自衛隊法第95条に基づく武器等の防護により反射的効果として米艦の防護が可能であるというこれまでの憲法解釈及び現行法の規定では、自衛隊は極めて例外的な場合にしか米艦を防護できず、また、対艦ミサイル攻撃の現実にも対処することができない。よって、この場合には、集団的自衛権の行使を認める必要がある。このような集団的自衛権の行使は、我が国の安全保障と密接に関係する場合の限定的なものである。

② 米国に向うかもしれない弾道ミサイルの迎撃については、従来の自衛権概念や国内手続を前提としていては十分に実効的な対応ができない。ミサイル防衛システムは、従来以上に日米間の緊密な連携関係を前提として成り立っており、そこから我が国の防衛だけを切り取ることは、事実上不可能である。米国に向かう弾道ミサイルを我が国が撃ち落す能力を有するにもかかわらず撃ち落さないことは、我が国の安全保障の基盤たる日米同盟を根幹から揺るがすことになるので、絶対に避けなければならない。この問題は、個別的自衛権や警察権によって対応するという従来の考え方では解決し得ない。よって、この場合も集団的自衛権の行使によらざるを得ない。また、この場合の集団的自衛権の行使による弾道ミサイル防衛は、基本的に公海上又はそれより我が国に近い方で行われるので、積極的に外国の領域で武力を行使することとは自ずから異なる。

③ 国際的な平和活動における武器使用について、国連PKO活動等のために派遣される自衛隊に認められているのは、自己の防護や武器等の防護のためのみとされる。従来の憲法解釈及び現行法の規定では、国連PKO活動等においても、自衛隊による武器使用は、相手方が国又は国に準ずる組織である場合には、憲法で禁止された武力の行使に当たるおそれがあるので、認められないとされてきたため、自衛隊は、同じ国連PKOに参加している他国の部隊や要員へのいわゆる駆け付け警護及び国連のPKO任務に対する妨害を排除するための武器使用を認める国際基準と異なる基準で参加している。こうした現状は、常識に反し、国際社会の非難の対象になり得る。国連PKO等の国際的な平和活動への参加は、憲法第9条で禁止されないと整理すべきであり、自己防護に加えて、同じ活動に参加している他国の部隊や要員への駆け付け警護及び任務遂行のための武器使用を認めることとすべきである。ただし、このことは、自衛隊の部隊が、戦闘行動を主たる任務としてこのような活動に参加することを意味するものではない。

④ 同じPKO活動等に参加している他国の活動に対する後方支援について、従来、「他国の武力行使と一体化」する場合には、これも憲法第9条で禁止される武力の行使に当たるおそれがあるとされてきた。しかし、後方支援がいかなる場合に他国による武力行使と一体化するとみなすのか、「戦闘地域」「非戦闘地域」の区分は何か等、事態が刻々と変わる活動の現場において、「一体化」論はこれを適用することが極めて困難な概念である。集団安全保障への参加が憲法上禁じられていないとの立場をとればこの問題も根本的に解決するが、その段階に至る以前においても、補給、輸送、医療等の本来武力行使ではあり得ない後方支援と支援の対象となる他国の武力行使との関係については、憲法上の評価を問うこれまでの「一体化」論を止め、他国の活動を後方支援するか否か、どの程度するかという問題は、政策的妥当性の問題として、対象となる他国の活動が我が国の国民に受け容れられるものかどうか、メリット・デメリットを総合的に検討して政策決定するようにすべきである。

 4類型については、すべて集団的自衛権の行使を容認すべきとの結論。はじめからこの四つに絞っての議論なのだから、当然の結果だったと言えよう。容認論の前提となるのは、9条を的にした憲法解釈の変更。提言にもそのことが明記されている。安保法制懇がやっていることは、戦争への道を開くための、いわば地ならしということになる。

日米安保との関係は
 ここで、日米安保条約(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)の第6条を確認しておきたい。

第6条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。(後略)

 「極東条項」と呼ばれる6条は、アジア太平洋地域における平和と安全のために米国が出動する場合に備えて、日本が施設、区域(基地)を提供する義務を定めたもの。つまり、日本は、集団的自衛権の行使ができない代わりに基地を提供していると解される。しかし、日本が集団的自衛権を行使するということになれば、6条は無用。基地の提供義務はなくなる。県土の大半を占める沖縄の米軍基地も、必要がなくなるというわけだ。

 安倍首相は集団的自衛権の行使容認を米国が喜ぶと思い込んでいる。しかし、これは見立て違い。日米安保第6条をめぐる議論に発展した場合、米国は安倍政権をあっさりと見捨てるだろう。そのあとどうなるか――。歴史認識の問題から軋轢ばかりを生じさせ、アジア諸国と対立、さらに米国という後ろ盾まで無くした日本は、孤立化への道をまっしぐらとなる。まさに「戦前」の再来。いつ戦争になってもおかしくない状況となるだろう。安倍首相が目指す「美しい国」の正体とは、じつは「戦争ができる国」なのである。



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