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懲りない鹿児島県知事の傲慢姿勢
無駄な県営住宅 業者投げ込み文書で強行着工

2014年4月 9日 08:00

松陽台県営住宅の建設現場 昨年、知事に対するものとしては50年間で2例目となるリコール(解職請求)を起された伊藤祐一郎鹿児島県知事。上海研修や体育館建設計画における傲慢な県政運営が原因だったが、その姿勢は全く変わっていない。
 先月末、リコールの際にも問題視された鹿児島市松陽台町での「県営住宅増設」を、住民の反対を無視して強行着工。県から地元への詳しい説明は一切なく、業者が出した工事開始のお知らせ文書を各戸に投げ込ませるという、横暴な手法だった。
(写真は、松陽台県営住宅の建設現場)

着工通知は業者の紙切れ1枚
 先月21日、鹿児島市松陽台町にある住宅団地「ガーデンヒルズ松陽台」の各戸に、1枚の文書が投げ込まれた。下がその現物。同町内に県が計画し、地元自治会が激しく反対してきた「県営住宅」の建設工事を請け負った業者からの「挨拶文」だった。事実上の着工宣言である。

工事着工のご挨拶

 地元自治会が怒ったのは言うまでもない。今年2月には、県営住宅1期分として36戸を建設することと、さして望まれてもいない「集会所」の建設に向けて開催してきたワークショップを打ち切ることを、今回同様紙切れ1枚の通知で周知。それまで県が土地を取得したことさえ知らされていなかった住民らは、県側に工事中止と詳しい説明を求めていたからだ。

 またしても紙切れ1枚。業者の挨拶文投げ込みを受けて、松陽台町内会は、知事あてに県営住宅増設工事の着工に反対する抗議文を送付。合わせて説明会の開催を求めていた。

 地元メディアもこの問題を取り上げる中、着工予定期日を1週間も過ぎた4月3日、突然工事が開始される。冒頭の写真は、バタバタと造られた工事用の塀と建設現場用プレハブ。広大な分譲用地の一角だが、最も不便な端の部分。完成した後の、居住者の利便性など何も考えていない証拠である。

住民無視
20121026_h01-01t-thumb-280x240-5606.jpg 何度も報じてきたが、「ガーデンヒルズ松陽台」は、もともと県住宅供給公社が約11haの予定地に戸建用地470区画を販売するために開発したもの。しかし、170区画程度(平成23年2月までの実績)の売却が済んだ平成23年3月、知事が唐突に方針を転換、未分譲の戸建て用地約6ヘクタール、商業施設用地約5ヘクタールの全てを県が住宅供給公社から買い取り、390戸の県営住宅を移転増設すると言い出す。公社の赤字を補てんするため、住民を切り捨てた形。問題となった上海研修や体育館と同じ構図で、いわくつきの事業なのだ。

 「最高の住環境」を謳い文句に進められていた街づくりが、住民に何の相談もなく放棄されるという暴挙。もちろん、松陽台周辺で、県営住宅建設への要望があったわけではない。小学校は一駅先。歩いて行けるスーパーも、コンビニもない。はっきり言って、所得の少ない世帯にとっては「不便」な地域なのだ。

 県は、県営住宅の建設戸数を330戸に減じたりするなど修正を加えたものの、松陽台の住民は納得しなかった。県が保障した“変わらぬ環境”を信じ、終の棲家を買い求めた住民が、県住宅供給公社の赤字補填を目的とした県の一方的な計画変更を認めるはずもない。同年4月には、戸建て住宅世帯の86%が、県に計画への反対署名にを提出。6月には県知事、県議会宛に反対陳情を提出するなど、計画撤回に向けて、地域をあげての運動を続け、昨年の知事リコールでは、失政の一つとして明記される事態となっていた。

データねつ造で陳情つぶし
 伊藤県政のタチの悪さが露呈したのは、前述の陳情書について、県議会定例会で採択・不採択について審査に付された時のこと。企画建設委員会で県側が松陽台の事情について報告したが、住民らの県営住宅建設に対する意思を表す数字が改ざんされていたのである。

 県は、松陽台地区計312戸のうち、「賛成、理解、特に意見なし」が256戸と報告したが、住民の8割以上が建設計画に賛同しているかのような結果である。逆に全面反対は19戸、計画に意見ありとするものが37戸としていた。松陽台町が提出した建設反対陳情に添付された署名世帯の数「111」とはかけ離れた数字だった。

 当時のHUNTERの取材に対し、事業を所管する県建築課住宅政策室が、次の事実を認めている。

  • 県議会で報告したのは戸建住宅だけを対象とした調査結果ではなく、松陽台地域にある市営住宅や県営住宅の住民の数を加えたもの。
  • 市営住宅の数字は戸別訪問して聞き取った数字だが、県営住宅については役員会での話をまとめただけ。

 前述したように、陳情書に賛同し、建設計画に反対している松陽台町の住民は129世帯中111世帯(当時の数字)、つまり9割近くを占めていた。県が議会で報告したのは、意思確認もしていない人たちの数字を入れ、分母を大幅にふくらませたあげく、都合のいい解釈で反対住民の声をもねじ曲げたものだったのだ。県が陳情書を葬り去るために使った数字は、単に杜撰な集計に基づいたというだけでなく、明らかな「改ざん」だったのである。犯罪的行為と言っても過言ではあるまい。

怒る地元自治会
 問答無用の強行着工に、地元自治会の会長は次のように怒りをあらわにする。

 県知事リコールのほとぼりも冷めたということでしょうか。業者からの投げ込みチラシで、着工を知らせるとは……。

 今回も、事前に何の相談もありませんでした。思えば、2011年8月以来、説明会などは一切開かれていません。それどころか、商業施設の誘致も確約されず、避難所の設置も、JR最寄り駅の過密、小学校の児童数の増加など、多くの問題点については、先送りされたまま、「見切り発車」、「はじめに計画ありき」の県の強行姿勢が続いています。そこに突然の、「住民無視の強制着工」の知らせです。秘密裏に県が県住宅供給公社から土地を購入していたことも、まったく知らされていませんでした。あまりの県の手口に、開いた口が塞がりません。

 先日、地元のKTS鹿児島テレビが、「住民の反対続くガーデンヒルズ松陽台、3月27日に着工」と、24日と26日の2度に渡り、報じてくれました。丁寧な、わかりやすい報道により、かなりの反響を生み、インタビューに応じた私には、多くの方から激励やお声かけをいただきました。もっと多くの方々に、この理不尽な計画を知っていただけたらと思います。住民意見をめぐるデータのねつ造については、絶対に許すことができません。民主主義を捻じ曲げた伊藤県政の在り方には、怒りしかありません。

 テレビ報道の中でもありましたが、「事業試算もない、何十億もかかる事業を、見切り発車で、押し切るのはやめていただきたい」というのが私たちの正直な気持ちです。松陽台の問題は、決して地元のエゴではなく、無駄な公共事業を許すかどうかの問題なのです。

 無謀な計画に反対する住民を無視して、将来、県民にツケ回しをするような無駄な公共事業には、断固反対します。少なくとも、「捏造」や「隠ぺい」ではなく、住民に向き合って、納得のいく説明・回答をすることが、何より大事だと思います。



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