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STAP細胞と研究界の根腐れ

2014年3月24日 07:50

 独立行政法人理化学研究所(理研)が1月29日にプレスリリースした、「体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見」という研究成果。これが、いま世間を騒がしている「STAP(=刺激惹起性多能性獲得)細胞」問題の幕開けだった。
 研究結果は、科学界の常識を覆すような革新的な内容。連日マスコミでも大きく取り上げられ、研究のユニットリーダーだった小保方晴子氏にも注目が向けられた。小保方氏が、従来の研究者のイメージを覆す割烹着愛用というキャラの立った女性だったため、「リケジョ」(=理系女子)のアイドルに祭り上げられ、急速に一般人向けの消費物となってしまった。
 ここまでは、日本のマスコミのよくある話。そうしたなかで起こった論文の捏造疑惑。マスコミは一度大きく取り上げてしまった手前、引くに引けなくなってしまいバッシングに走る。理研による真相解明も後手にまわり、そうした流れに拍車をかけてしまった。しかし、STAP細胞をめぐる騒ぎの背景に、見落としてはならないものがある。

世紀の発見から一転
 問題となった研究を一言で表現すれば、「新型万能細胞の発見」。動物の細胞は、1つの受精卵から分裂した細胞が、それぞれ必要な機能を持つことで脳・皮膚・肝臓など、からだのあらゆる組織を作っていく。一度「肝臓の細胞」となってしまったら、通常は他の臓器の細胞にはならない。

 STAP細胞の研究成果は、マウスの脳・皮膚・肝臓といった機能を持つ、複数の組織の細胞に簡易な科学的処理を加えることで、それらの機能を「初期化」し、どの組織にもなり得る能力を保持した「万能細胞」が確認できた、という内容である。この研究を応用して肝臓を作れば、肝移植が必要な人に臓器を提供できる、といったことが期待された。この分野には、注目度が高く、国際競争も激しいという背景がある。

 後世に「世紀の発見」と評されるかもしれなかった研究だが、権威ある学術雑誌『Nature』に掲載された論文に多くの疑義が見つかったことで、STAP細胞そのものが消え去る可能性が高くなった。だが、これを小保方氏個人の問題として始末するのは、早計と言うべきだろう。

論文不正は以前から
 基礎生命系における最大の学会である分子生物学会。その2013年会の準備委員会が、日本の科学研究環境の改善を目指して「ガチ議論」するために「日本の科学を考える」(http://scienceinjapan.org/)というサイトを立ち上げた。これを見ると、まるでSTAP細胞問題を予言していたかのような内容がズラリと並ぶ。

 例えば、2013年6月26日にアップされている「捏造問題にもっと怒りを」という記事。「この数年、論文不正問題が研究者社会に大きな影を投げかけています」という文章からはじまり、論文の捏造問題が当初「若手研究者への教育問題」として取り組まれていたものの、その問題に取り組む有力研究者自身が捏造問題の渦中の人となり、若手の問題だけでは収まりきらなくなった、という経緯が書かれている。

 まさにいまのマスコミ報道も、小保方氏に関するものばかりだった状況から、実質的な研究主導者であったと思われる共同研究者にも関心が移りはじめている。実は研究界自体が根腐れしているのではないか、そんな印象すら抱かせる。

問題の土壌は若手教育を取り巻く環境に
 研究結果の発表は「ゴール」ではなく、事実かどうかを世に問われる「スタート」だ。実は結果が違っていたと判明することも含め、科学が進化するプロセスともいえる。

 STAP細胞についても然り。ただし今回は、その華々しい研究結果とは裏腹に、そもそも論文の体をなしていないようなお粗末な論文であったことも相まって、様々な人々の考えや感情が交錯し、論点が散らばってしまっている。

 周囲が感情論で個人攻撃したり、事実検証と称して重箱の隅をつついたりしても、あまり建設的とはいえない。今回の事件が起きる「土壌」は、すでに研究界の若手教育とそれを取り巻く環境部分において十分あったと考えられるからだ。報道する方もされる方も、それをきちんと認識しておくべきだろう。

 そのうえで、根本的な問題解決に必要なことは、研究者本人、研究チーム、理研、日本科学界といった今回の主体者が、それぞれのレベルで状況を省み、事実を検証し、今後につなげていくこと。そして周囲がそのプロセスに興味をもち、しっかりとウォッチしていくことだろう。STAP細胞問題は、根腐れを起こしかけた日本の研究界に対する警鐘でもある。

<笠間レオナ> 



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