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伊藤鹿児島県知事 徳洲会グループに便宜供与の疑い
― 「社会医療法人」認定の闇 ―

2014年3月 7日 09:35

 公職選挙法違犯事件で組織存亡の危機が囁かれる医療法人「徳洲会」と、同法人の牙城・鹿児島で権勢を誇る伊藤祐一郎県知事の関係を追っていたHUNTER取材班。たどり着いたのは、知事が平成16年の鹿児島県知事選挙で人的支援を受けた「大隅鹿屋病院」(鹿屋市)にからむ事案だった。
 大隅鹿屋病院の運営母体は、「社会医療法人鹿児島愛心会」。鹿児島愛心会は、平成23年に伊藤知事から『社会医療法人』の認定をうけていたが、この認定過程と前後の徳洲会側の動きから、ある疑惑が浮上した。

鹿児島愛心会
 昭和63年に開院した「大隅鹿屋病院」は、もともと徳洲会グループの総合病院だ。平成7年に新たな運営母体として徳洲会とは別に「医療法人愛心会」が設立されたが、傘下の病院は大隅鹿屋病院だけだったという。

 変化が見られるのは、平成20年に「医療法人愛心会」から「医療法人鹿児島愛心会」へと改組してから。この頃から、法人傘下に県内の徳洲会系病院やクリニックを入れはじめ、翌21年には、3病院、14診療所(クリニック)、2介護保険施設などを擁する法人へと姿を変える。

 不可解なのは、傘下施設の数が度々変わっていること。平成22年12月に鹿児島県知事に対し社会医療法人の認定申請を行った時点で、クリニックの数が12箇所に減り、認定後の平成24年には病院数が4に増え、クリニックが11に減る。登記簿上で確認できるのは、平成25年3月末の傘下施設数で、4病院、10クリニック、2介護保険施設。その他事業として、訪問看護ステーション、サービス付き高齢者向け住宅、障害福祉サービス、グループホーム、デイサービスなどを運営している。傘下施設の増加に比例して資産も増え続け、平成21年に約15億円だったものが、25年には47億7,000万円近くに膨れ上がっている。

施設増加で億単位の税金逃れ
 傘下施設を増やすことは、社会医療法人の認定を受けることと密接につながる。前稿で記した通り、社会医療法人には税制上の優遇措置が与えられており、例えば、法人税に関しては、本来業務については非課税。附帯業務や収益業務は軽減税率を適用するといった具合。収益業務の一部収益を本来業務に充当することも認められているうえ、固定資産税・都市計画税・不動産取得税も非課税扱いだ。

 これらすべてが適用されるのは救急医療に携わる病院だけだが、その他のクリニック等も法人税は非課税。法人全体での税負担の軽減額は億単位になっているとみられる。

 鹿児島愛心会が社会医療法人の認定を受けるにあたって傘下施設を増やしたのは、明らかに徳洲会グループが税金逃れを意図したものと言えよう。法人の肥大化が税金対策を目的としたものであることは歴然としており、通常なら、認定を行った県が、鹿児島愛心会に厳しく指導すべきケースだった。

 元徳洲会職員で、大隅鹿屋病院に勤務していたある関係者は次のように話している。
「徳洲会による明らかな税金逃れ。(鹿児島愛心会が)傘下の病院、クリニックを増やしたことで、徳洲会グループ全体としては年間で数億円の節税になっているはずだ。県が、愛心会に社会医療法人の認定をしたことは、こうした事態になることを承知の上でのこと。形を変えた便宜供与にほかならない。まじめにやっている県内の中・小の医療施設にとって、こんな不公平なことはない」

 鹿児島愛心会傘下のクリニックの数は、前述した通り、社会医療法人の認定申請時に減っている。税金逃れとの指摘を、少しでも和らげようという狙いがあったとみる方が自然だろう。
 一方、法人改組からまたたく間に傘下施設を増やした鹿児島愛心会の動きは、社会医療法人の認定が得られることを見越したものとしか思えない。つまり、「認定」が既定路線だったということ。権限を有する伊藤知事との間で「話ができていた」(県内の医療関係者)可能性が高い。

疑惑の背景
 徳洲会が全国で勢力を拡大する過程は、それぞれの地元医師会との激しい対立の歴史でもある。24時間診療で年中無休、謝礼お断りといった独自の経営方針を掲げる徳洲会に対し、それぞれの地元医師会が猛反発したからだ。鹿児島県も例外ではない。取材で会った県医師会所属の多くの医師が、徳洲会への反発を隠そうとしない。

 その徳洲会グループに対し便宜を図った形の社会医療法人認定に、鹿児島市内の医師は、こう憤る。
「県医師会は知事にとっては大恩人の集りのはず。平成16年に伊藤さんが知事選に名乗りを上げた時、多くの業界団体は自民党の県議を支援する方向で固まっていた。公然と伊藤支持を打ち出したのは、当時の県の医師会長だった。いわば、知事選の流れを変えた支持表明だったはず。医師会と徳洲会との反目は、伊藤さんは百も承知。選挙で(徳洲会から)応援してもらったことを噂では聞いていたが、伊藤さんは『たいした支援ではない』という言い方で逃げていた。それがどうだ。徳洲会では通りが悪かったのか、愛心会に多くのクリニックをくっつけ、社会医療法人として認定してしまった。分かりやすい便宜供与だろう。脱税の手助けをしてやったようなものだ。知事と徳田一族の蜜月というより、疑惑というべき話だ」

 この医師が話した内容には、裏付けがある。初当選以来、伊藤知事の後援会長は県医師会の会長が務めていた。その後援会長こそが、伊藤知事誕生の立役者である。後援会長が県の医師会長を退いたのは平成22年春。これをを待っていたかのように鹿児島愛心会は社会医療法人格獲得に向けての動きを顕在化させ、同年暮には認定申請を行っていた。

 社会医療法人の認定権限は知事にあるが、申請後、知事の諮問を受けて是非を審議するのは「鹿児島県医療審議会」。実際の議論は同審議会の医療法人部会が行うが、審議会会長も医療法人部会の会長も、県医師会長が兼任している。日本医師会の幹部でもあった前医師会長は、県内の医師らに徳洲会に対する根強い不信感があることを理解していたため、徳洲会への厳しい姿勢を崩していなかったという。前会長の下では、鹿児島愛心会への社会医療法人認定は、かなわなかったということだ。傲慢な姿勢で知られる伊藤知事といえども、大恩人の後援会長には逆らえなかったらしい。

 ところが、後任の県医師会長は「伊藤知事べったり」(医師会所属の開業医の話)。知事が右と言えば、喜んで右を向くのだという。そして、鹿児島愛心会の社会医療法人認定について討議された県医療審議会の会長も、慣例にしたがって“知事べったり”の現医師会長が務めていた。認定申請が行われた平成22年には、徳洲会(鹿児島愛心会)にとって、願ったりかなったりの状況となっていたのだ。

 知事と徳洲会の親密な関係、徳洲会と知事にとっては目の上のたんこぶとなっていた前医師会長の退任と直後の社会医療法人認定……。出来すぎた話にしか見えない。そこで、審議過程に不自然なところはなかったかどうか、確認するために行ったのが、鹿児島県への情報公開請求だった。請求したのは、鹿児島愛心会の社会医療法人認定過程に関するすべての文書。たった120枚の文書に2か月もの時間をかけ、開示決定を遅らせた県だったが、出てきた文書は、驚くべき内容だった。

議事録なし――開示された「シナリオ」が明かす茶番
医療法人部会議事進行シナリオ 鹿児島県が開示した公文書の中に、審議会の「議事録」はない。所管課である県保健福祉部保健医療福祉課に確認したところ、「議事録は作成されておりません」とキッパリ。医療審議会の議事録を公表する自治体が多いというのに、鹿児島県は相変わらずの隠蔽主義なのだ。“公平・公正など知ったことか”と言わんばかりの行政運営手法は、伊藤県政の特徴でもある。

 議事録の代わりに開示されたのが「医療法人部会議事進行シナリオ」。そこに記されているのは、開会から閉会までの会議の流れの一切合切で、『意義なし』の文言まで明記されていた。税金を使った茶番と言っても過言ではあるまい。鹿児島愛心会の社会医療法人認定申請の議論については、おそらくこの「シナリオ」通りに『異議なし』で終わったと見られる。
(下が「シナリオ」の一部。『異議なし』の文字がある)

医療法人部会議事進行シナリオ

「社会医療法人」恣意的に認定か
 鹿児島県の医療審議会自体が、形骸化しているとの指摘もある。ある県関係者の話。
「社会医療法人の認定については、あらかじめ伊藤知事の方から、事務方に『ここを認定しろ』という指示がある。その指示に従って、申請、そして審議会と進んでいく。審議会は儀式。知事の方針を認めさせるためのアリバイ装置に過ぎない」
 恣意的認定が事実なら、鹿児島県の医療行政は知事の意向なくしては動かぬ、歪んだ状況ということになる。由々しき事態だ。

 たしかに、鹿児島県の社会医療法人認定には知事の特別な思惑が働いているふしがある。平成26年1月現在、認定された全国の社会医療法人数は215。第1位は広大な面積の北海道で27、次いで大阪の25、鹿児島はなんと第3位の12という数なのだ。ちなみに、九州・沖縄の状況は、人口500万を超える福岡県が10。大分8、熊本5、沖縄4、長崎3、宮崎2とつづき佐賀に至っては1という数字だ。鹿児島の12という認定数が、いかに突出しているかが分かる。前述した前県医師会長の在任中は4だったものが、退任後、一気に7つもの社会医療法人が認定されていた。その中の一つが鹿児島愛心会への認定である。

 こうした状況に、県内の医療関係者が警鐘を鳴らす。
「鹿児島の社会医療法人数が突出して多いことは、指摘されるまで気付かなかった。社会医療法人の認定を、知事が道具にしている可能性がある。自分にとって都合のいい医療機関に税制上の優遇措置を与え、見返りに選挙での支援を得る。そうした構図にしか見えないからだ。鹿児島県が離島やへき地を多く抱えているのは事実だが、同じような事情は他県にもある。県医療審議会のあり方も含めて、認定過程を検証する必要があるのではないか」

高まる知事への不信
 これまで述べてきたように、鹿児島愛心会に対する社会医療法人認定過程は、たしかに不透明だ。認定までの間に、同法人の傘下施設が大幅に増えたことも、偶然ではあるまい。それによって徳洲会グループに巨額の「浮き金」ができたことも容易に想像がつく。事実、県への情報公開請求で入手した同法人の認定申請文書の中には、個人と見られる相手への貸付金「62,194,390円」が記載されている(下がその記載)。

鹿児島 1056.jpg

 貸付は明らかに鹿児島愛心会の関係者に対するもの。黒塗りにはなっているが、貸付先が「徳田一族」であることは疑う余地がない。貸付当初の年月日は「H20.12.1」。「医療法人愛心会」から「医療法人鹿児島愛心会」へと改組され、正式に登記された日である。徳洲会は、「大隅鹿屋病院」をうまく利用し、一族の資金源を大きくするために法人を肥大化させた――そうした見方も成り立つ。その先に見据えたのが「社会医療法人」。認定で便宜を与えたのが知事という構図だ。

 伊藤鹿児島県知事は、毎度の選挙支援に対し、徳洲会グループの鹿児島愛心会に「社会医療法人」の認定という形での「見返り」を与えたのではないか?疑問に答える義務が、知事にはあるはずだ。



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