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僭越ながら:論

弄(もてあそ)ばれる「民意」

2014年2月 3日 08:40

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長が、いったん市長を辞し、市長選をやると言い出した。議会の抵抗で大阪都構想の実現が遅れそうになったため、民意を問うのだという。前回の大阪市長選は平成23年11月。2年ちょっとしか経っていない。府知事に続いて市長の職も任期半ばで投げ出し、選挙を繰り返そうとする橋下氏―。無理やり「民意」を作り出す手法には、民主主義を歪める危険性がある。
 一方、「民意」を平気で踏みにじりながら、都合のいいところだけに「民意」を持ち出そうとする卑劣な政治家もいる。安倍晋三首相である。基地移転に反対する沖縄の民意を無視しながら、都知事選で示される民意を、原発推進や集団的自衛権の行使容認に利用しようというのである。こちらは「国家」を危うくする可能性が高い。
 議論が分かれる重要な政治課題がある場合、「民意を問う」ということは大切だ。民主主義の基本でもある。しかし、この国の「民意」は、権力者の都合でいいように弄(もてあそ)ばれてはいないだろうか。

大阪都構想めぐる「民意」
 日本維新の会にとって、大阪府と大阪・堺の両政令市を再編することを軸にした都構想は「1丁目1番地」の政策。そのため橋下氏は平成23年、構想実現のため大阪府知事を任期途中で辞任し、府知事と大阪市長のダブル選挙に打って出た。都構想を最大の争点に仕立てた結果、府知事に維新の会幹事長の松井一郎が当選、橋下氏は大阪市長に就任する。この時の大阪の民意は「都構想支持」だった。

 しかし昨年9月、維新は都構想の行方を占うとされた堺市長選で痛い敗北を喫する。投・開票の結果、都構想に真っ向から反対してきた現職・竹山修身氏が大差で勝利し、維新の看板政策が否定される事態となったのである。堺の民意は「都構想NO」。この時点で、構想自体がすでに破たんしていたと見るべきだろう。

議会のうしろにも「民意」はある
 来年4月に都構想の実現を目指していた橋下氏周辺は、構想実現の是非を問う「住民投票」を、今年の秋にも実施する意向だった。市民に都構想への賛否を問い、大阪都にするかどうかを決定するというものだ。そのためには、都構想の制度設計のなかでも最重要となる大阪市の「区割り」方針を早急に決定する必要がある。「区割り」とは、大阪市24区を5~7の特別区に再編することで、四つの案が示されていた。

 事を急ぐ橋下市長と松井府知事は、都構想の制度設計について話し合う大阪府と大阪市の法定協議会で区割り案を一つに絞り込むよう要求。しかし、公明、自民、民主、共産の各党側は「時期尚早」と反対し、区割り案の絞り込みが見送られてしまった。

 多様な市民の声をすくい上げる必要がある市議会や府議会では、維新以外の政党も議席を有しており、橋下氏の独断専行は認められない。二元代表制である以上、当然のことだ。その議会が「議論が足りない」という。議会を納得させるだけの材料がなかったともとれる。

 こうした状況を打開するため橋下氏が最大限の努力をしたかというと、どうもそうした形跡はない。議会が言うことを聞かないから“選挙”というのでは、あまりに短絡的な発想。これでは議会のうしろに控える「民意」が無視された形となってしまう。橋下氏は、議会が民意によって選ばれた議員達で構成されていることを忘れているようだ。

掛け声ばかりの都構想
 堺市長選における維新の敗北は、橋下氏による一連の従軍慰安婦発言が原因と言われる。だが、都構想について説明不足だったことも否めない。なぜ堺が大阪にならなければならないのか、そもそも、都構想実現で大阪がどう変わるのか―当の大阪市民でさえ分かっていないふしがある。都構想が実現すれば、大阪の未来がバラ色になるかというと、そう断言できる理由など示されていない。掛け声だけが大きく響いているだけで、都構想が大阪にもたらす未来像は描ききれていないのが実情だろう。

 堺市長選の敗北に続き、思わぬ議会の抵抗。来年までのスケジュールに狂いが生じたことで橋下氏が“キレた”―これが真相といったところだ。だが、都構想は短兵急に進めなければならない課題ではなかろう。堺市長選の結果が示しているように、都構想に対する有権者の受け取り方は様々だ。詳しい工程や、「大阪都」になった場合、どのようなメリット、デメリットが生じるのかまで、市民に説明する必要がある。その上で、議会を含めた広範な議論を展開し、住民投票を経て結論を求めるというのが常道ではないだろうか。都構想については、“選挙結果がすべて”ではないのだ。もちろん、1年そこらの遅れが致命傷になる話でもない。

橋下流「選挙の私物化」
 橋下氏は、舌鋒鋭く現状批判を行うことで支持を伸ばしてきた。たしかに一流のパフォーマーではある。従軍慰安婦に関する暴言は、それが行き過ぎたが故の失敗だったのだろうが、知名度だけはいまだに群を抜いている。自身の選挙なら、たしかに強い。勝てると踏んで、「民意」を武器に議会を屈服させようとの算段であることは疑う余地があるまい。

 1日の辞任表明で橋下氏は、「個人的に信を問う」と述べたが、これほど身勝手な話はない。もともと維新は、都構想について住民投票で民意を問うと主張してきたはずだ。ならば、区割り案について、議会側の賛同を得る努力を続け、住民投票で決着をつければよい。前述したように、市民や議会と議論を積み重ね、問題点を整理した上で、成案を得るのが筋だ。出直し市長選で民意を問い、さらに住民投票までやる必要はないだろう。前倒しで民意を問うような手法は、橋下維新のわがままに過ぎないのだ。

 仮に出直し市長選で橋下氏が再選されたとする。しかし、議会の構成は変わらない。議会側が示した「時期尚早」の状態もまた、変わらない。議会が屈服して予定通りに住民投票が行なわれたとして、その結果が都構想に反対だったとしたら、橋下氏はどうするのか。また市長選と言い出すのだろうか。市長選挙には、6億円も費用がかかるという。原資は税金だ。自分の努力不足を棚に上げ、税金と民意で都構想をゴリ押しすることが、本当に大阪のためになるのか疑問だ。

 全国の自治体では、来年度予算の審議など重要な課題を処理する時期にかかる。大阪市も例外ではない。だとすれば、暮らしに直結する予算を担保に取って、「さあ、どうする」と迫る手法は、市民生活を無視した暴走であり、選挙の私物化に他ならない。無理やり作り出した「民意」を、自らの政治闘争の道具にすることは、決して許されることではあるまい。

踏みにじられる沖縄の民意
 強引に引き出した「民意」に活路を見出そうとする橋下氏に対し、平然と民意を踏みにじる恥知らずな政治家もいる。安倍晋三首相である。

 先月、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に関する是非を最大の争点にした名護市長選挙が行なわれた。争点が明確であったがために、移設反対を訴えた現職・稲嶺進氏の勝利は、名護市民が移設に反対であることを明確に意思表示したものであり、沖縄県の民意を凝縮した選挙結果であるとも言えよう。しかし、安倍政権は沖縄の「民意」を無視して、基地移転を進める構えだ。

 民意を尊重するのが民主主義の原理・原則であるなら、安倍政権の姿勢はまったく逆。独裁としか言いようのない政権運営のあり方は、この国の民主主義を否定する暴挙と言っても過言ではあるまい。

原発、集団的自衛権に利用される都知事選の民意
 政治家は、都合のいい時にだけ「民意」を利用するものだ。安倍首相は、総選挙と参院選の勝利という「民意」を受けて、アベノミクスを推し進めてきた。しかし、特定秘密保護法や原発再稼働に関しては、民意を無視して強引に事を進めている。集団的自衛権の行使容認にしても同様。改憲への道のりが遠いことを自覚した首相は、解釈改憲で戦争への道を切り開こうとしているに過ぎない。姑息な政治手法が、国の未来さえ危うくしている。

 姑息といえば、東京都知事選挙における安倍政権の姿勢はさらに顕著だ。原発即時ゼロを掲げた細川護煕・小泉純一郎元首相コンビに対し、政府・自民党は当初「原発だけが都政の課題ではない」と予防線を張った。原発が争点化し、敗れて全国に脱原発が波及することを恐れたからだ。しかし、選挙情勢調査の結果が自民推薦の舛添要一氏優位を示した途端、態度を一変させ、「原発も重要な争点」だと言い始めた。2日日曜日になると、安倍首相はさらに厚顔さを発揮。都知事選を「政権への信任投票」と位置付けてしまった。都知事選での「民意」を、自らが進める原発推進、集団的自衛権の行使容認にまで利用するつもりであることは間違いない。

「民意」を弄ぶな
 橋下氏は常々、「選挙はある種の白紙委任」だと主張してきた。安倍氏も同様の考え方のようだ。たしかに、争点となった課題については、そうした意味合いもあるだろう。橋下氏が選挙にこだわる理由はそこにある。だが、選挙に勝ったから、すべての政策が容認されるというわけではない。一つひとつの政治課題について、市民の思いを汲み取り、時間をかけて自らの政策との整合性を求めていくのが民主主義国家における為政者の務めではないのか。それを、無理やり民意を操作したり、選挙結果をすべての政策に拡大解釈するようでは、乱暴過ぎるというものだ。

 「民意を弄ぶな」。橋下、安倍の両政治家に、そうした市民の声が届くだろうか・・・・。

<中願寺純隆> 



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