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僭越ながら:論

恥知らずな「公」と「私」使い分け

2014年2月24日 09:35

 天皇陛下がお言葉を発せられたあとで、「これは個人的な意見である」などとおっしゃるだろうか?――断じてそのようなことはあるまい。陛下が個人と天皇を使い分けられるはずがない。いつ、いかなる時でも、陛下のご発言は「天皇陛下のお言葉」でしかない。その分、陛下はこの国の誰より、重い責任を背負っておられる。だからこそ、天皇は国民が尊敬してやまぬ、「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」(憲法第一条)でありうる。
 翻って、現在の政府要人やNHKの幹部たちはどうか。言いたい放題に持論を述べ、問題視されたとたん「個人的な見解」だったとして開き直る。撤回すれば事が済むとでも思っているようだが、そうはいくまい。
 「公」と「私」が、あまりに都合よく使われすぎてはいないか。

相次ぐ右寄り発言
 本来、地位が重い人ほど、都合の良い公・私の使い分けは許されないはずだ。そうでなければ信頼も得られない。しかし、この国では、日ごろ「保守」を自称する責任ある立場の人間たちが、次から次に国際社会から批判されるような右寄り発言を公然と行い、騒ぎにななってから「個人的な見解」だとして逃げる状況となっている。問題発言はすべて安倍晋三首相の「お友達」によるもの。どうやら国民も、一連の発言が首相の気持ちや思想を代弁したものであることに気づきはじめている。

NHKの惨状
 政治家であれ、役人であれ、公の肩書を背負うことには、それなりの覚悟が必要なはずだ。もちろん、NHKの会長や経営委員にも同じことが言える。NHKが国民の受信料で成り立つ組織である以上、そのトップに求められるのは、より高い資質と責任意識だ。しかし、NHK会長や経営委員たちの姿勢は、見苦しいとしか言いようがない。

【籾井発言とその後】
 ― 従軍慰安婦は、「戦争をしているどこの国にもあった」
 ― 「韓国が、日本だけが強制連行したように主張するから話がややこしい。それは日韓基本条約で国際的には解決している。蒸し返されるのはおかしい」
 ― 「日本の立場を国際放送で明確に発信していく、国際放送とはそういうもの。政府が 右と言っているのに我々が左と言うわけにはいかない」
 ― 特定秘密保護法については、「通ったので、言ってもしょうがないんじゃないか。必要があればやる。世間が心配しているようなことが政府の目的であれば大変だが、そういうこともないのでは」

 籾井氏の暴言は、1月25日の会長就任会見で飛び出した。「会長の職はさておき」との身勝手な姿勢をたしなめられ、即座に発言撤回を言い出したものの、時すでに遅し。自らの見識のなさを露呈したばかりか、国内外から批判を浴びることとなった。“国益を害した”と言っても過言ではあるまい。

 参考人として呼ばれた国会では、「個人的な発言」だったとして一連の発言を撤回。しかし、ふてぶてしい態度からは、反省するそぶりなど微塵も感じられない。その証拠に、12日に開かれたNHK経営委員会で「大変な失言をしたのか?」と述べていたことが報じられている。やはり、何が問題なのかを理解していない。

 国会質疑では、NHK経営委員の百田尚樹氏らの発言が原因で、米大使館がケネディ大使のインタビューを断った問題も取り上げられた。これに対し、籾井氏は「取材・制作の過程については答えを差し控える」と繰り返し、審議は空回りとなった。まさに前代未聞。NHKの予算は、国会の審議を経たもの。記者会見で答えた内容を、国会答弁で拒否するなど許されることではあるまい。

【百田発言とその後】
 籾井氏を会長に選んだ経営委員のお粗末さにも呆れるしかない。
 「人間のクズみたいなやつに投票してほしくない」―こちらは NHK経営委員を務めている作家の百田尚樹氏の弁。東京都知事選挙に立候補していた田母神俊雄氏の応援演説で発せられた。

 街頭演説での暴言はさらに続いた。
「1938年に蔣介石が日本が南京大虐殺をしたとやたら宣伝したが、世界の国は無視した。なぜか。そんなことはなかったからです」「極東軍事裁判で亡霊のごとく南京大虐殺が出て来たのはアメリカ軍が自分たちの罪を相殺するため」

 こうした発言に対し、中・韓だけでなく米国も反発した。百田氏は国営放送の経営委員。その放送局のインタビューを、米国大使が喜んで受けるはずがない。取材お断りは、米国側の日本に対する警鐘と見るべきだろう。

 百田氏が、何の反省もしていないことは、その後の彼のツイッターにおけるつぶやきを見れば分かる。
(2月12日)
《民主党が百田尚樹の国会招致を要求していたが、自民党が拒否したらしい。実に残念や! 国会に出て、思う存分、喋りまくって、前代未聞の国会答弁をしてやろうと思ってたのに―。本当にがっかりや!》
《民主党、もっと頑張って、自民党に要求して、百田尚樹を国会に呼び出せよ! びっくりするようなこと、いっぱい喋ってやるから》

(2月15日)
《アメリカ大使が百田尚樹の街頭演説を理由に、NHKの取材に難色を示したという。もしこれが本当なら、アメリカは「東京大空襲と原爆投下は大虐殺」という言葉に、よほど腹が立ったのだろう。ちなみに、アメリカは東京大空襲と原爆投下に関しては一度も謝罪していない。私は謝罪を要求する気はないが》

 たしかに、「言論の自由」は保障されている。しかし、時と場合によって、言っていいことと悪いことが区別されるべきだということを、この人気作家は理解していないらしい。言いたい放題を止めたくないのなら、即刻NHKの経営委員を辞めるべきだろう。それが責任ある大人のとるべき態度だ。

【長谷川氏の古色蒼然】
 同じく経営委員である埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏は、象徴天皇制を否定している。長谷川氏は、新右翼として活動し、朝日新聞社内で自決した野村秋介氏の追悼文集に、次の一文を寄せていた。
≪野村秋介氏が二十年前、朝日新聞東京本社で自裁をとげたとき、彼は決して朝日新聞のために死んだりしたのではなかつた。彼らほど、人の死を受け取 る資格に欠けた人々はゐない。人間が自らの命をもつて神と対話することができるなどと露ほども信じてゐない連中の目の前で、野村秋介は神にその死をささげたのである。「すめらみこと いやさか」と彼が三回唱えたとき、彼がそこに呼び出したのは、日本の神々の遠い子孫であられると同時に、自らも現御神(あきつみかみ)であられる天皇陛下であつた。そしてそのとき、たとへその一瞬のことではあれ、わが国の今上陛下は(「人間宣言」が何と言はうと、日本国憲法が何と言はうと)ふたたび現御神となられたのである≫

 「現御神」とは、天皇を神とする考え方に基く言葉。「神である天皇陛下の命令は絶対」という、戦前・戦中における日本の統治理念につながる。天皇が現御神だという長谷川氏は、現行憲法に謳われた「象徴天皇制」を否定しているのである。

 長谷川氏については、産経新聞に寄せたコラムで、女性の社会進出が出生率を低下させたと主張し、男女共同参画社会基本法を批判していたことも分かっている。だが、当の長谷川氏は、自らの主張の正しさを言い立てるばかり。批判する側がおかしいとの態度に終始している。この女性学者、文体もそうなら考え方まで古色蒼然。危険思想の持ち主にしか見えない。

本性剥き出しの首相側近
 NHKが右寄り急旋回を続ける中、これまで比較的おとなしくしていた政府要人たち、とりわけ安倍首相の「お友達」が、過激な発言で物議を醸す事態となっている。

【本田内閣官房参与―特攻隊、靖国、強力な軍隊】
 内閣官房参与・本田悦朗氏の神経は理解できない。米紙ウォールストリートジャーナルのインタビューに応じた本田氏は、安倍首相の靖国参拝と神風特攻隊をからめ、「日本の平和と繁栄は彼らの犠牲の上にある。だから安倍首相は靖国へ行かなければならなかったのだ」と発言。さらに、「日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙できるようにするためだ」とも話したという。

 本田氏はその後、記者団に「全くの曲解。(ウォールストリートジャーナルに)抗議の電話をしたら修正の用意があると返答があった」と述べていたが、ウォールストリートジャーナル社側が、「記事の内容は正確」と反論したとたん、意気消沈。ダンマリを決め込む格好となっている。

【衛藤首相補佐官は米国批判】
 次いで衛藤晟一首相補佐官。Youtubeで米国政府が首相の靖国参拝について「失望した」と表明したことを「むしろわれわれの方が失望だ」と述べていたことが発覚。衛藤氏は「個人的見解」だとし、発言を取り下げると述べたが、問題収束には至っていない。菅義偉官房長官は、衛藤発言を個人的な見解とし、日本政府の考えを代弁するものではないと擁護したが、駐日米大使館側は、衛藤氏の発言を本国の国務省に報告している。

「個人的見解」ではすまない
 NHKの籾井、百田。政府側の本田、衛藤。いずれの発言も隣国を一方的に侮辱したり、同盟国である米国まで怒らせる内容だ。国内外から「戦前回帰」を疑われるに足る発言内容であることも確かだ。しかし、首相をはじめ政府は、一連の発言を「個人的な見解」として、問題なしとの構えを崩していない。

 責任ある立場の人間達が、「個人的見解」だとして言いたい放題になったらどうなるか――公・私の使い分けに対し、真っ先に「大人はずるい」と思うのは子ども達だろう。もちろん、多くの国民がNHK幹部や政府の言い分が「詭弁」であることに気付いている。そこに「信頼」は生まれない。「個人的見解」ばかりが幅を利かせば、この国の秩序は崩壊してしまう。「美しい国」を作るという政権が、自ら、この国のもっとも誇るべき「恥を知る」という文化を否定しているのが現状だ。いったん口にした言葉には、責任を持つべき。それが「恥を知る」ということだろう。

 ついでに一言。問題発言の当事者たちは、人一倍「皇室」を尊ぶ方々ばかりだ。もう一つ共通しているのは、首相の「靖国参拝」を高く評価している点だろう。それなら、この質問にはどう答える?
天皇陛下は、なぜ靖国神社に参拝されないのか?
 「個人的な見解」でも構わないが……。

<中願寺純隆>



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