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「行革」進まぬ福岡市 嘱託職員増加の意味
― 高島市政の実態 ―

2014年2月10日 10:00

 退職した福岡県警警察官の再雇用が、年々増加している実態が明らかとなった福岡市(高島宗一郎市長)。いま全国の地方自治体では、正規職員の削減が進む一方、非正規の嘱託職員が増加しており、同市も例外ではない。
 こうした傾向の背景にあるのは、地方自治体の財政難。福岡市も、歴代市長を通じて膨らんだ借金を減らすための様々な施策を打ち出してきた。その一つが、もっとも市民の理解を得られると見られがちな正規職員の削減。しかし、実態をつかむため行った福岡市への情報公開請求の過程では、同市のちぐはぐな対応が目立つ結果となった。これが意味するのは・・・・・。
(写真は福岡市役所)

増え続ける嘱託職員
 歳出削減を目指してきた福岡市は、他の地方自治体同様、正規職員の数を減らし、嘱託などの非正規を増やすことで現場をまかなうようになっている。平成20年度から24年度までの福岡市の正規職員数および嘱託職員数の推移を見ると、次のようになっている。

【正規職員数】 
・平成20年度・・・10,390名
・平成21年度・・・10,267名
・平成22年度・・・ 9,653名
・平成23年度・・・ 9,592名
・平成24年度・・・ 9,546名

【嘱託職員の任用数】(年度の延べ数)
・平成20年度・・・3,622名
・平成21年度・・・3,832名
・平成22年度・・・3,750名
・平成23年度・・・3,820名
・平成24年度・・・3,946名

 平成24年度でみると、一般行政、教育、消防の普通会計部門の正規職員が7,814名。病院、水道、交通、下水道などの公営企業等会計部門が1,732名で計9,546名。これが正規職員の数だ。

 一般職員の人口1万人当たり職員数は38.70名で、類似団体の人口1万人当たり職員数46.68より低くなっている。教育、消防の職員も、人口1万人当たり職員数が54.92名で、類似団体の人口1万人当たり職員数68.24名を下回っている。福岡市は歴代市長の方針の下、かなり正規職員を減らしてきたことがわかる。

 正規職員を減らすのにともない、増加傾向にある嘱託職員の業務内容は、部署ごとに採用する事務職をはじめ、公民館の主事や留守家庭子ども会(学童保育)指導員、水質検査の補助業務など多岐にわたる。身分は、地方公務員法に規定される非常勤特別職であり、労働時間は正規職員の4分の3程度に抑えられている。福岡市の場合、週の勤務時間は27.5時間だ。

 福岡市は今年9月、平成26年度からの組織編成方針として、「ポイント制」を導入することを決定、これに伴い週あたりの勤務時間を現行より長くする(1日30分)新たな嘱託員制度を新設することも公表している。ポイント制と新設嘱託員については、市側の説明資料には次のように記されている。

【ポイント制】
 職員、嘱託員の人件費を局・区毎にポイント換算し、ポイント管理による総人件費の抑制を図りながら、各局区長の責任と権限で、柔軟に組織編成が行えるよう、ポイント制定員管理による新たな組織編成手法を導入する。
 各局・区においては、配分されたポイントの範囲内で、新たな組織編成手法の特徴を活かしながら、業務の質と量に見合った効率的・効果的な組織体制となるよう編成に取り組むこと。

【新設嘱託員】
 新たな雇用形態となる嘱託員の活用人件費を抑制しつつ、組織力を最大化させるため、新たな雇用形態となる嘱託員(以下「新設嘱託員」という)を平成26年度から導入する。各局・区においては、現在、職員等が行っている業務について、業務の専門性に着目したうえで点検を行ない、比較的専門性が低い業務やマニュアル等で対応可能な定型業務については、新設嘱託員への切り替えを積極的に行い、業務に見合ったより効率的な職員配置を進めること。

 ポイント制の問題点については稿を改めるが、市が、今後さらに嘱託という雇用形態を利用して正規職員の数を減らす方向であることは間違いない。嘱託職員の増加傾向は止まらない。

嘱託職員報酬額は約90億円
 それでは、嘱託職員への報酬額はどうなっているのか―。市への情報公開請求の結果、驚くべきことが分かった。福岡市は、嘱託職員への報酬総額について市全体の数字をまとめた資料を作成していないというのである。

嘱託.bmp そのため、情報公開請求で入手した部署ごとの報酬支払状況を精査し、平成20年度から24年度までの嘱託職員への報酬総額の推移をまとめた。

 右がその結果で、今度は額の大きさに驚かされた。福岡市における職員給与の総額は、年間約540億円(市長、副市長を除く)。これに対し、嘱託職員への報酬総額は90億円近くにまで上っていた。

情報公開めぐる市側の杜撰な対応
 嘱託とは別に臨時職員なども雇用されており、市長、副市長などへの給与もある。純粋な人件費総額はそれらのすべてを合算して求めるべきだが、市が嘱託職員全体への報酬額を把握していなかったことは、「人件費」の詳細を把握していないことを意味している。そんなことがあるだろうか。

 福岡市は、年度ごとに職員給与と職員数についてまとめ、『福岡市の給与・定員管理の状況』として公表している。この中で示されているのは、正規職員と市長・副市長、議長・副議長など特別職に関する数字だ。平成24年度の職員給与は前述した約540億円。正規職員と市長ら特別職の給与のほか、共済組合に対する事業主負担などを含めた「人件費」は約788億円となる。事業費支弁人件費を入れると約831億円だ。
(注:事業費支弁人件費とは、給与が普通建設事業費、災害復旧事業費および失業対策事業費に含めて支出される職員(事業費支弁職員)の給与に係る経費。投資的経費として把握される)

 どう見ても『福岡市の給与・定員管理の状況』の中には、嘱託職員の報酬額が含まれている。“公文書として嘱託職員の報酬総額を示すものはない”という市側の対応は明らかに間違いだ。念のため、『福岡市の給与・定員管理の状況』の人件費項目の問合せ先となっている市総務企画局人事部労務課に確認したところ、今度は財政調整課に聞いてくれと言う。その財政調整課は、たしかに「人件費」の中に嘱託職員への報酬額も含めれていると明言した。嘱託職員への報酬総額を算出しているということだ。

 正規職員の数や給与額だけが議論されがちだが、嘱託や臨時で採用される職員の状況まで含めなければ、市政の実態を正確に知ることはできない。市として人件費総額を算出した以上、嘱託職員への報酬総額が分からないはずはない。情報公開を求められたら、即座に応じるのが普通。しかし、市側は嘱託職員の報酬額をまとめた数字は「ない」と回答し、開示決定期限を延長して部署ごとの資料を開示した。「杜撰」で片付けられる問題ではあるまい。意識の低さの表れでもあろう。

嘱託増加は行革失敗の証(あかし)
 嘱託職員が増える傾向は、全国の自治体で広まっている。正規の職員に比べ、人件費が抑えられるとの理由からだが、一方で責任の所在がぼやけることや、サービス低下といった懸念も生じる。嘱託職員の増加が、正しい行政の在り方を歪める可能性は否定できない。

 高島市長は、観光やIT関連に力を入れ、過剰とも思える税金投入を行ってきた。しかし財政再建に対しては、歴代市長ほどの成果を上げていない。市長自身が現状を理解していないからだ。職員の数を減らしておけば、体裁が保てると思っているふしさえある。正規職員の数が減る一方で嘱託職員の数が増える現状は、行政組織がスリム化していないことを示唆しており、これは行政改革が進んでいないことの証左でもある。つまりは“失政”ということなのだ。

 4,000名近い嘱託職員のうち、市職員OB、教員OB、そして問題の県警OBの、年度ごとの採用人数を市への情報公開請求で入手した文書から整理した。市職員と教員OBについては高齢者雇用制度による再雇用で理解できるが、県警OBについては採用基準が分からない。県警OBの再雇用を増やす問題点については、前稿「福岡市嘱託職員 増加する県警OB」で述べた通りである。これも高島市長の「失政」であることは間違いない。

【市職員OBの採用人数】
・平成20年度・・・438名
・平成21年度・・・487名
・平成22年度・・・511名
・平成23年度・・・512名
・平成24年度・・・550名
・平成25年度・・・563名

【教員OBの採用人数】
・平成20年度・・・84名
・平成21年度・・・80名
・平成22年度・・・84名
・平成23年度・・・83名
・平成24年度・・・80名
・平成25年度・・・78名

【県警OBの採用人数】
・平成20年度・・・61名
・平成21年度・・・61名
・平成22年度・・・60名
・平成23年度・・・64名
・平成24年度・・・72名
・平成25年度・・・77名



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