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再稼働など論外 川内原発の素性

2014年1月14日 08:55

川内原発 安倍政権の特定秘密保護法とエネルギー基本計画により、原発再稼働の動きが加速した。昨年7月の原子力規制委員会による新規制基準に基づく再稼働申請は4電力12基だったが、その後に東京電力、そして12月には東北電力と中国電力も手を挙げて、申請済み原発は7社16基へ拡大。核燃サイクル事業に執着する日本原燃も年明けに青森県六ヶ所村の再処理工場の審査を申請しており、原発推進の勢いは止まらない。それらのなかで先行するのは、九州電力の川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)と目されているが、同原発の素性を知ったら、地元はもちろん西日本の住民すべてが黙ってはいられないだろう。
(写真は川内原子力発電所)

立地の問題点
 鹿児島県川内市にある川内原発の成り立ちからその後を振り返れば、こんな原発を九電は30年も動かし続け、それを国や県もよくぞ認めてきたものと呆れる。電力、国、県一体となった彼ら原発マフィア最大の罪は、当初から原発立地にもっとも不向きなところにあるのを知っていたことだ。

 古くから地震と原発に警鐘を鳴らしていた地質学者の生越忠氏(元和光大学教授)は、大量の水を必要とする原発を日本で立地するとすれば、すべて海岸部となり、その多くが地盤脆弱なところにならざるを得ないと指摘していた。河口であればなおさらだ。九州第二の大型河川である川内川流域の川内平野は、何億年にもわたる上流からの堆積物によって形成されている。その河口にある川内原発はまさしく砂上の楼閣だ。

国会で明かされた「コア」差し替え
 そんなところに原発を建てようとすれば何が起きるか。密かに行われた衝撃的な出来事が10年後、それも国会というこれ以上にない公の場で明らかにされた。
私がやりました」。
 1977年(昭和52年)11月21日、参議院の科学技術振興対策特別委員会に出席した川内市の故中野近夫氏(農業)の証言は明瞭だった。この日の委員会は川内原発を立地するにあたり、地質調査のボーリングで実際に掘り出したもの(「コア」)が別ものに差し替えられたか否かを審議するために開かれたものである。ボーリング調査での差し替えなど言語道断、審議が延々3時間に及んだのも当然だろう。

 当時の議事録を見ると出席者は議会側が委員長と理事4人、委員13人の計18人、政府側が委員として科技庁長官官房長、原子力安全局長ら3人と事務方2人。そして参考人として呼ばれたのが九電常務とボーリングを請け負った西日本地下工業の社長、日特建設福岡支店鹿児島営業所長というボーリング調査当事者側3人。それに池満洋川内市議会議員とボーリングの現場作業員だった中野氏である。

 九電が立地候補地として川内と佐賀県玄海町での地質調査に着手したのは1967年(昭和42年)。川内でのボーリング調査をしたのが先の2社であり、その現場に作業員として雇われていた一人が中野氏だ。その現場の様子を後に知ったのが池満市議。特別委員会が開かれた76年当時の池満氏は社会党市議として川内原発反対運動の地元リーダーの一人で、中野氏らボーリング調査に当たった作業員を見つけ出して数人と接触。ボーリングしたコアの地質が悪いため、関係のない場所でボーリングした「コア」への差し替えが行われたことが反対運動団体に知れ渡った。

 そこで反対運動団体は国会議員に真相糾明の委員会開催を、作業当事者には国会での証言をそれぞれ働きかけ、実現したのが先の参院における特別委員会だった。この当時の日本は沖縄を除く全電力会社で原発の建設ラッシュが始まるところだった。委員会ではどのようにコアの差し替えが行われたか、各議員が入れ替わり、立ち代わり政府委員と参考人に質問を浴びせかける。微に入り、細をうがったそのやり取りは一遍のドラマを見るようだ。質問によって差し替えに疑義をはさむ議員、肯定的に捉えている議員などさまざまで与野党各議員の立ち位置が窺われるのも興味深い。

 そんな委員会にあって意地悪質問に対しても見聞したこと、自らの手で行ったことをありのまま正直に答えていたのが先の中野参考人だ。コア差し替えに対する中野氏の証言を一言でいえば、先述のように「私がやりました」である。それにも拘わらず翌12月には川内原発1号の原子炉設置許可が降り、79年に着工して84年に運転を始めている。

 地質調査という初段階からのゴマカシが明らかになっても平然として事を進めるのが九電だ。コア差し替え問題に続くとんでもない所業が次々に暴露され、それらを検証すれば川内原発は直ちに廃炉すべきであることが理解されるはずだ。

(以下次稿)
<恩田勝旦>

恩田勝亘:プロフィール
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)など。

新刊「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)は、全国の書店で販売中。 



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