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安倍政権に物申す ― 山崎拓・元自民党副総裁、新春に語る(上) ― 

2014年1月 6日 07:15

山崎拓氏 小選挙区制になってこのかた、「見識」を備えた政治家が極端に減った。風頼みのパフォーマンス好き―そうした小物ばかりがバッジをつけるようになったからに他ならない。戦前から高度経済成長期にかけての激動の時代を知る大物政治家たちが次々と永田町を去ったことも、この国の政治にとってはマイナスにしか作用していない。永田町では、物事の本質を見極め、すばやい判断を下すことのできる人物が払底しているのである。
 そうした中、安倍政権は特定秘密保護法を成立させ、次には集団的自衛権の行使容認へと突き進んでいる。安倍一強の前に、国会は機能停止状態。自民党内では、公然と首相を批判することなどできそうもない状況だ。党内のハト派は見る影もない。明らかな右傾化に、国内外から懸念の声が上がっているのも事実だ。
 新春。HUNTERは、こうした状況をどう見ているのか、安全保障問題の第一人者である山崎拓元自民党副総裁に話を聞いた。修羅場をくぐり抜けて来た熟練政治家の言葉は、やはり重い。

【特定秘密保護法について】
 ―― 昨年12月、特定秘密保護法案が成立しました。率直な感想を聞かせて下さい。
 日米同盟を強化すること及びNSC・国家安全保障会議を設置したということ。この二つの要素から、安全保障上の機密情報を得るということが主たる根拠となって、秘密保護法の制定が急がれたということです。以前から懸案となっていたことではあるのですが、これを処理するのに、あまりに拙速であったと私は見ています。

 むしろ、臨時国会のような、緊急不可欠の法案や予算といった案件の処理をやるべき国会において、理念的で、なおかつ国民の論争を招くような法案を、不十分な審議でかつ強行的に成立させたということは、衆・参両院において過半数を占めた与党の驕りの表れであると国民は見ているでしょう。

 この法案の持つ恐ろしさというものが論じられています。戦前の国家、治安維持法の再現じゃないかという指摘さえあります。法案の一部に疑念が叫ばれて、国民の過半数が懸念を示している状況であり、思い切って修正が必要だと考えています。来年度の予算が成立した後、国会において速やかに修正すべきでしょう。世論の反発は明確であり、それに沿った修正をやるべきです。

 具体的には、政府が秘密を指定するという点はやむを得ないとしても、“政府の範囲”が全省庁になっているので、やはり従来通り、限定すべきだとい思います。外務省、防衛省、警察庁に限定すべきです。どの省庁もが安全保障にかかるという解釈を持ち出せば、秘密の範囲が無限に広がるからです。

 多くの人がこの法案の意味をよく分からないまま、賛否が分かれてしまっています。それはマスコミが分かれているからに他なりません。大新聞が二つに分かれているでしょう。秘密保護法賛成の新聞を読んでいる人たちは「賛成」。反対の立場の新聞を読んでいる人たちは「反対」に回るという現象ですね。まぁ、読売・産経VS朝日・毎日・地方ブロック紙連合という構図ですね。法案の問題点について、じっくり考える時間を与えられなかったため、こうした現象が起きたというべきでしょう。そうした意味でも「拙速」だったと思います。

 ―― 秘密保護法の方向性についてどう考えますか?
 法案の必要性については、以前から「米国の要請」という形で日本側に伝えられてきたことになっており、その観点から是認されていたと思われています。しかし、それはどうでしょう。米側は本当に軍事情報を渡すでしょうか。私は疑問に思いますね。日本に秘密保護の法的システムが整備されたとはいえ、軍事大国アメリカは自らの地位を保持しなければならない。同盟国といえども、重要な軍事情報を渡すとは考えにくい。その意味では、方向性が正しかったとは言えないでしょうね。

山崎拓氏  ―― それでは、なぜこうまで法案成立を急いだのでしょう?
 それは“思い込み”ですね。安倍総理に、『NSCと同時に処理しなければいかん』という思い込みがあったんだと思います。別にタイムラグがあっても問題ないはずなんですが、『NSC発足と同時に秘密法案をやらなきゃいかん』、そう思い込んだのでしょう。また、それを安倍総理に進言した者がいたのも確かでしょう。『NSCと法案は同時ですよ!そうでなければ、アメリカの信任は得られない』と進言した人間がいるんですね。ここで名前を出すつもりはありませんが・・・・。

【集団的自衛権について】
 ―― 安倍首相は、集団的自衛権の行使容認に向け前のめりになっています。どう見ていますか?
 まったく説明不足。私は「解釈改憲」については反対です。日本は世界に冠たる法治国家。その法治の根幹は、最高法規たる憲法にこそある。憲法の地位が揺らぐということは、法治ということを考えた場合、大問題だと考えています。

 もうひとつ。この解釈改憲というものは、とりわけ集団的自衛権についての解釈というものは、国際法上認められている権利ではあるものの、日本の場合は憲法9条に照らして、その行使ができないということになっている。これは歴代政権において解釈が確立されているんです。

 誤解のないように言っておくと、内閣法制局が確立したのではなく、その都度、内閣が閣議決定しているのです。つまり、従来の解釈に基く法律を出す場合は、内閣法制局が審査し、それを閣議にかけて国会に提出する。歴代内閣はこれを繰り返してきた。

 なおかつ、この解釈に関する国会質疑が、政権が替わる度ごとに行われており、時の内閣総理大臣が答えています。内閣法制局長官が答えることがしばしばあったのは事実だが、しかし、その時には『ただ今、内閣法制局長官が答弁したとおり、我が内閣におきましては、集団的自衛権の行使はいたしません』として、歴代総理が明言している。つまり、総理が決めること。法制局長官が決めることではない。

 歴代政権の中で、もっとも理念右翼と目されている安倍政権がこの解釈を変える。するとその次にはもっとも左翼と目される総理が誕生するかもしれない。そうなると、また変える。つまり、憲法が、時の政権の解釈によって、その都度変わってくる。もちろん、その部分だけではないでしょう。例えば、基本的人権の一部に関しても、あるいは認めないという解釈をする政権ができるかもしれない。≪そんなバカな解釈改憲はできない≫とその時の法制局長官が抵抗すると、安倍総理がやったのと同じように更迭して、『俺の言った通りに見解を出す奴を起用する』ということになりかねない。“悪しき前例”を作ろうとしているんです。これを認めるべきではない。

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 山崎氏は、特定秘密保護法を強引に成立させた安倍政権の手法について、「拙速」だと断定。首相が、米国側の意図を見誤っているとの見方を示している。その上で、法案の修正について言及しており、今後の同法をめぐる議論に一石を投じた形だ。
 安倍政権が推し進める集団的自衛権の行使容認についても、ばっさりと「認めるべきではない」。解釈改憲を認めると、法治国家の根幹である憲法が揺らぐと指摘した。論理は明快だ。
 インタビューはこのあと、集団的自衛権をめぐる議論のあり方について、専門的な内容に触れていく。その中で山崎氏は、豊富な経験と知識に裏打ちされた持論を披露。安全保障に関する安倍政権の姿勢に対し、厳しい批判を展開する。

つづく

【山崎拓氏プロフィール】
・1936年生まれ
・福岡県立修猷館高校、早稲田大学商学部卒
・福岡県議会議員
・衆議院議員(12期) 
・防衛庁長官、 建設大臣、自民党幹事長、同党副総裁を歴任
・近未来政治研究会最高顧問
・柔道6段、囲碁5段
・著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など



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