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市職員が告白していた意図的な文書隠し ― 中央保育園問題で
福岡・高島市政を蝕む隠蔽体質(中)

2014年1月27日 09:19

 福岡市(高島宗一郎市長)が、13億円以上の税金が投入される事業の関係者会議議事録を非公開にすることを決め、昨年末までにHUNTERなどの情報公開請求者に通知した。文書の中にはすでに報道で公表されたものも含まれており、すべてを非公開にする合理的な理由はない。市はこれ以前に、情報公開条例に違反し、開示決定を放置するという愚行も犯していた。
 いずれも、不透明な計画が問題となっている認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転に関する公文書をめぐってのこと。一連の「隠蔽行為」は、中央保育園移転計画の真相を糊塗するため、組織的かつ意図的に行われた可能性が高い。
 昨年6月、初めて同園の移転計画に関する情報公開請求をかけた時から、すでに市側の隠蔽は始まっていた。
(写真は福岡市役所)

判明した文書隠し
 問題は、昨年6月、中央保育園に関する公文書について、HUNTERが初めて情報公開請求した折に起こった。一回目の情報開示が不十分だったため、再開示となっていたその日、本来作成されていなければならないはずの文書がないことに気付いた記者が、担当職員に強くその点を指摘した。次の瞬間、あわてた市保育課の担当者二人(ここでは職員A、職員Bとする)の間で交わされたのは、次のやり取りだった。

職員A「やっぱり、あれがいる」
職員B「・・・・・・・・」
職員A「あれ、取って来て」

 「あれ」――。関連文書のすべてが揃っているはずの情報開示の場で、片方の職員が別の文書の存在を示唆。同席していたもう一人の職員に、文書を保育課まで取りに行くように頼んだのである。数分後、中央保育園側に支給される施設整備補助金に関する文書が、新たに開示された。保育課は、補助金の審議過程で必要となる文書を隠していたのである。

 関連文書が揃ったことによって、同園の運営法人「社会福祉法人福岡市保育協会」が提出した補助金申請と、補助金審議のため市側が作成した文書の記述内容が違っていたことが発覚する。

 福岡市の場合、施設整備補助金を得るためには、まず保育所の運営母体が様式に従って書類を作成し、市に提出する。この際求められるのは、施設整備計画のおおまかな内容を示した「社会福祉施設整備調書」や「建設設計図」、「事業資金計画書」など14種類の書類だ。申請を受付けた市は、提出された書類を確認した上で、計画概要を整理した「事業計画書」(以下「計画書」)を作成。その後、外部の有識者らを中心に構成される「福岡市社会福祉施設整備費等補助対象施設選定委員会」(以下「選定委」)に、法人側提出の書類と計画書をあわせて提示する。選定委は、提出文書を基に審査及び意見聴取を行った上で、市にその結果を報告、これを受けた市の所管局が最終的な決済を行うことになっている。

 中央保育園の運営母体である「社会福祉法人 福岡市保育協会」は昨年4月、移転にともなう施設整備補助を受けるため、規定に従って申請を行った。申請を受けた市こども未来局保育課は、選定委が行う審査の基礎資料として、法人側提出の書類の内容に沿って前述の「計画書」を作成したが、保育園移転にともなって整備される新「中央保育園」と「第2中央保育園」の内容を取り違え、二つの保育園が入れ替わる形の文書になっていた。

【申請書類】
・「中央保育園」⇒定員165人。午前2時までの夜間保育実施。
・「第2中央保育園」⇒定員135人。夜間保育なし。

【市側作成の事業計画書】
・ 「中央保育園」⇒定員135人。夜間保育なし。
・ 「第2中央保育園」⇒定員165人。午前2時までの夜間保育実施。
  (下、左は申請文書、右2枚が市側作成文書。HUNTER編集部による赤いアンダーライン部分に注目)

補助金1 → 補助金2 補助金3

 これでは、保育協会側の提出した書類との間に整合性がなくなる。どちらかが間違いであることは、一見して分かるはずだが、「事業計画書」は訂正されることもなく、選定委で補助金申請が認められてしまっていた。「持ち回り」などというふざけた形で行われていた選定委の審議が、形骸化したものであることを示す事実でもあった。(参照記事⇒「福岡市 補助金審査で重大ミス」)

補助金選定に瑕疵―職員は隠蔽を告白
 昨年6月の情報公開にあたって、市側作成の文書が、意図的に隠されたことは明らかだった。記者は、ことの重大性に、文書を隠した担当職員を問い詰めた。色を失った職員は、こう話している。
「(市側作成の「事業計画書」を)見られたら、公文書の内容に整合性がないことに気付かれるだろうと思った。申し訳ありませんでした」――当事者である職員が、補助金選定過程に瑕疵があったことを認め、隠蔽した理由を記者に告白していたのである。

 意図的に公文書を隠す行為は、情報公開条例はもとより、市の服務規程、さらには地方公務員法の規定にまで抵触する可能性がある。しかし、HUNTERの記者は、担当の課長、部長、局長に事実関係を知らせた上、過ちを繰り返さないように釘を刺すに止めていた。隠蔽が発覚した時点で、「独断でやった」と主張し謝る若い職員の将来を考え、記事にすることを見送ったのである。

 だが、この判断が早計だったことは、市が中央保育園移転事業の実情について嘘や隠蔽を重ねたその後の経過が証明している。この時の担当職員の行為は、じつは職員単独の違反行為ではなく、組織ぐるみで隠蔽に走っていた証(あかし)だったと見るべきだろう。「あれ」のひとことに、他の職員がすぐさま反応したことや、情報公開の対象文書について、部署ごとに決済していることを考えると、結論はひとつしかなかったのである。重大な文書隠しを見過ごした結果、その後の度重なる隠蔽を招いた可能性がある。HUNTERの記者の判断ミス。「報道失格」と叱責されても仕方がない。

問題の本質は
 言うまでもなく、中央保育園の移転計画が社会問題化した原因は、高島市長にある。市立中央児童会館と中央保育園が併設される予定だった建物に、「商業施設」を入れることを主張したのは、他ならぬ高島市長。この経緯については、移転計画に関与した複数の元市幹部が証言している。「ふたつ(中央児童会館と中央保育園)とも出してしまえ!」――市長の指示は、子育て支援とはまったく無縁の、企業との癒着さえうかがわせるものだった。

 また、同園の移転計画にからみ、市が福岡市内の不動産業者から、不自然なかたちで9億円もの移転用地を購入。この件では、市長自身が背任の疑いを指摘され、福岡地検に提出された市民の「告発状」が正式に受理されている。市政史上、かつてないほど汚れた事業と言っても過言ではない。

 移転事業には13億円以上の公費が投入される。もちろん、一部局だけで事を進められる案件ではない。こども未来局が市長の強い指示で動いていることは、市職員やOBの証言でも明白。無理筋の計画をゴリ押しすることで、保護者や市民の反発を正面から受け止めているのは市職員だ。

 一方で、市長自身は無責任な言動を繰り返し、問題が起きれば「原局(事業の所管部局)がやっていること」と逃げを打つ。あげくの果てには平日、それも議会開会中の業務時間中に、フィットネスクラブで汗を流すという放埓ぶりだ。日ごろ、職員が気の毒だと思ってきたが、それと隠蔽とはまったく別次元の話。公務員は全体の奉仕者であって、高島宗一郎氏の走狗ではないはずだ。市長の命令を守るために市民を欺くことなど、絶対にあってはならない。

市役所にはびこる恐怖政治
 市職員を庇うわけではないが、この際、背景にあるのが市役所にはびこる恐怖政治であることにも触れておきたい。

 現在、福岡市内部では、市長や外部から入り込んだ市長側近の意向に逆らった職員が、次から次に配置転換など懲罰的な人事で報復されており、こうした状況に危機感を抱いている市職員やOBは少なくない。

 県警OBの副市長が中心となって、報道関係者との接触がチェックされ、情報源捜しが行われている現状もあるという。件の副市長らの動きを「ゲシュタポ」と呼ぶ市関係者もいるほどだ。根太が腐り始めている中、職員が身を守るため理不尽な命令に屈し、嘘や隠蔽が横行する組織になっていると指摘する声もある。

 しかし、それを差し引いても、市こども未来局の隠蔽姿勢は容認できない。明らかに矩(のり)を超えているからだ。中央保育園の移転計画では、市が、子どもの命や保護者の心配を無視して強権的手法を押し通してきた。無理な計画が招いた計画破たんや不透明さをごまかすための「隠蔽」は、市民の不利益に直結することを忘れてはなるまい。

つづく



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