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福岡市 補助金審査で重大ミス
移転で揺れる中央保育園がらみ ― 今度は「補助ありき」

2013年7月 3日 09:55

福岡市役所 福岡市の強引な移転計画に揺れる「中央保育園」(福岡市中央区)の施設整備補助金をめぐり、市が重大なミスを犯していたことが判明した。
 移転を前提に、同園の運営法人が提出した施設整備補助金の申請過程で、市の所管課が間違った書類を作成。市側はもちろん、外部の有識者らで構成する補助金審査組織もその文書の誤りに気付かぬまま、補助金交付にゴーサインを出していた。
 組織ぐるみで意図的に同園側への公費投入を推し進めた結果ともみられ、補助金行政の根幹を揺るがしかねない事態だ。
 HUNTERの指摘を受けた市側は、手続きに瑕疵があったことを全面的に認めている。
(写真は福岡市役所)

施設整備補助金交付までの流れ
 保育園等の社会福祉施設を運営する法人が、県や市の施設整備補助金を受ける場合には、一定の手順を踏むことが定められている。

 福岡市の場合、まず、保育園の運営母体が様式に従って書類を作成し、市に提出する。この際求められるのは、施設整備計画のおおまかな内容を示した「社会福祉施設整備調書」や「建設設計図」、「事業資金計画書」など14種類の書類だ。

 申請を受付けた市は、法人側が提出した書類を確認した上で、計画概要を整理した「事業計画書」(以下、「計画書」)を作成。その後、外部の有識者らを中心に構成される「福岡市社会福祉施設整備費等補助対象施設選定委員会」(以下「選定委」に、法人側提出の書類と計画書をあわせて提示する。

 選定委は、審査及び意見聴取を行った上で、市にその結果を報告し、これを受けた市の所管局が最終的な決済を行うことになる。県への補助金申請はその後だ。
 市の選定委で県の補助分まで審査するのは、県からの支出が実施されるまでの間、いったん市側が全額を負担するからだという。

一致せぬ法人側と市側の計画内容
 福岡市が立案した中央保育園の整備計画によれば、現在150人の定員を300人に増やし、問題の移転用地の中に定員165人の「中央保育園」と、同135人の「第2中央保育園」を建設することになっている。
 移転用地には、市が今年4月に約9億円で取得した土地をあてるが、約5億3,000万円にのぼる施設整備費は、3分の2を福岡県、12分の1を市が助成する仕組みだ。

 このため、保育園の運営母体である「社会福祉法人 福岡市保育協会」は今年4月、規定に従って補助金申請を行った。この際、詳細な事業計画書もないまま、仮の保育士配置計画に基づく申請を行っていたことは、昨日報じた通りである(⇒『福岡・保育園移転 なかった「事業計画書」 』)。問題はこの後の市側の対応だった。

 事業を所管する市こども未来局は、選定委が行う審査の基礎資料として、法人側提出の書類の内容に沿って、前述の「事業計画書」を作成したという。だが、この内容には大きな誤りがあった。

 下は、福岡市保育協会が提出した「社会福祉施設整備調書」だが、「中央保育園」と「第2中央保育園」について、定員や夜間保育といった役割分担の違いを正しく記入している(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

  • 「中央保育園」⇒定員165人。午前2時までの夜間保育実施。
  • 「第2中央保育園」⇒定員135人。夜間保育なし。

社会福祉施設整備調書

 一方、こども未来局側が作成した、「事業計画書」が次の2枚だ。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

事業計画書 事業計画書

 「中央保育園」と「第2中央保育園」の内容を取り違えており、二つの保育園が完全に入れ替わってしまっているのが分かる。

  • 「中央保育園」⇒定員135人。夜間保育なし。
  • 「第2中央保育園」⇒定員165人。午前2時までの夜間保育実施。

 これでは、保育協会側の提出した書類との間に整合性がなくなる。どちらかが間違いであることは、一見して分かるはずだが、「事業計画書」は訂正されることもなく、補助金申請が認められてしまっていた。

見過ごされた重大ミス―選定委でも
 市側の説明によれば、誰もこの書類上の矛盾に気付かなかったのだという。決済にかかわった職員、課長、部長のすべてが、間違いを見過ごしていたことを認めている。

 こども未来局が、この重大な見間違いを認識したのは、HUNTERの指摘を受けてのことだ。それまで市側はもちろん、厳しく審査したはずの「福岡市社会福祉施設整備費等補助対象施設選定委員会」の面々も気付いていなかったことになる。内容の違う文書をそのままにして、審査の結論が出せるわけがない。市も選定委も、文書を精査しないまま、補助金申請を通したということに他ならない。最大の問題はここに在る。

 驚いたことに、今回の選定審査は、各委員に持ち回りの形で行われたとされ、実質的な審議などなかったことが、市側の説明でわかっている。選定委の構成は次のようになっているが、委員長には日当13,000円、委員には11,000円が支払われているという。

【福岡市社会福祉施設整備費等補助対象施設選定委員会】

  • 福岡教育大学名誉教授・特任教授 田中敏明⇒委員長
  • 福岡女子短期大学教授 尾花雄路
  • 公認会計士 升永清朗
  • 福岡市社会福祉協議会常務理事 松田潤嗣(市OB)
  • 福岡市住宅都市局建築指導部長 森敏彦

 重要書類の重大な間違いに気付かず、安易に補助金申請を認めてしまうというのでは、“税金泥棒”と言われてもおかしくはあるまい。委員の目がただの「節穴」だったのは、確かなのだ。日当を得ていた以上、審査をやり直した上で、即刻辞任するのが筋だろう。

「申し訳ない」―福岡市こども未来局長の話
 補助金行政の根幹を揺るがす事態を引き起こしたことについて、市こども未来局の吉村展子局長は、市側に非があることを認めた上で、次のように釈明している。
「書類に間違いがあったことは、今日になって初めて報告を受けた。大事な問題だ。こども未来局の責任であり、大変申し訳ないと思う。指導が行き届かなかった。チェック機能が働いていなかったことは事実で、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。」。

「補助ありき」―市民オンブズマン福岡・児嶋研二代表幹事の話 
 書類上の重大な誤りを見逃したまま補助金申請が認められたことは、市の行政運営―とりわけ税金を原資とした補助金の審査過程が形骸化していることを示唆している。

 今回の事態について、公費支出の在り方に詳しい市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は、次のように話している。
「内容の違う書類を基に補助金申請を認めたことは、チェック機能が働いていないことを示している。『補助金ありき』で形式的な審査をしている証拠だ。選定が、お手盛りチェックでことを済まし、市民の目をごまかすための儀式となっているのではないか」。

 補助金審査過程に瑕疵があったことを認めた以上、市は中央保育園がらみの補助金について見直しを図るべきだ。放置して移転計画を進めることは許されない。



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