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安倍政権に物申す ― 山崎拓・元自民党副総裁、新春に語る(下) ―

2014年1月 7日 08:10

山崎拓氏 特定秘密保護法を成立させ、集団的自衛権の行使容認に突き進む安倍政権。これに対し、山崎拓元自民党副総裁は、「拙速」「解釈改憲には反対」と真っ向から批判する。安倍首相の政権運営に異を唱える保守政治家が少なくなった現在、山崎氏の存在はやはり貴重だ。
 かつて防衛庁長官を務め、自民党幹事長、副総裁として政権中枢を担った山崎氏は安全保障問題の第一人者。現在進行中の集団的自衛権をめぐる議論については、とくに問題点を指摘しておきたかったらしい。語り口は次第に熱を帯びた。

【集団的自衛権「4類型」の欺瞞】
 ―― 集団的自衛権をめぐる議論については、持論がおありですね。
 そもそも、集団的自衛権についての議論からして間違っているんです。安倍首相は、集団的自衛権の行使容認に向けて、官邸に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」を設けています。座長代理は北岡(伸一)さんですね。そこでは、集団的自衛権について「4類型」を示しています。とりあえず、この4類型を軸に議論を重ねている。4類型に限り解釈を変えていいということなんですが、そんなことができるとは思えない。この4類型ですが、二つは集団的自衛権の範疇にあるもの。しかし、他の二つはそれ以外のものなんですね。「集団的自衛権」と「集団安全保障」は違うものだということが分かっていないんです。4類型がゴチャゴチャになっている。

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<ワンポイント解説>
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」とは、安倍首相が集団的自衛権の行使容認のために官邸に設けた私的諮問機関。座長は柳井俊二国際海洋法裁判所長。実質的には座長代理である北岡伸一国際大学学長が議論をリードしている。安保法制懇における議論で、集団的自衛権が容認される「4類型」とは以下の通り。
(1) 公海上の米艦防護
(2) 米国向けの可能性のあるミサイルの迎撃
(3) PKOなどで他国軍が攻撃された時の“駆け付け警護”
(4) 海外での後方支援活動の拡大

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「集団的自衛権」 
 例えば、北朝鮮がミサイルを発射するとする。発射されたミサイルが、日本の上空を通過してアメリカに向かうとする。同盟国のアメリカにミサイルが撃ち込まれるのだから、日本としては、日本上空で撃ち落とす。こういう議論がある。これは集団的自衛権の発動なんですが、非現実的想定でしかない。北朝鮮からアメリカにミサイルを飛ばすためには、よほど高いところを飛ばすしかない。そんなものを落とせますか?物理的に無理でしょう。これじゃ、宇宙衛星からの攻撃になってしまう。そんなことできないでしょう。第一、北がミサイルで狙うとすればアメリカの西海岸。一番近いのはアラスカになりますね。そうすると、北極圏を飛んでいくんですよ。最短距離で飛ばすのが常識ですからね。4類型のうちのひとつは、非現実的なんです。学者がもっともらしく論じているだけなんだな。ユニフォーム(自衛隊の制服組)は笑っている。学者や外交官は軍事の素人。防衛省の人間なら、背広組だって分かることですよ。

 もう少し実例を挙げてみましょうか。アメリカの艦船と自衛隊の艦船が併走している時に、アメリカの艦船が攻撃を受けたとします。日本としては何もしないわけにはいかない。ここまでは集団的自衛権の発動です。しかし、これを個別的自衛権の発動と捉えることも可能です。

「集団安全保障」
 一方、現在、PKOに派遣されたPKO要員が、他国のPKO要員に守られています。日本のPKO要員は、自己防御のための武装しかしていないからです。「警察比例の原則」で武器を持っているわけです。警察比例の原則というのは、警察権が発動されるにあたって、いくつかの手段が考えられますね。その場合に、目的を阻む障害の程度と比例する限度においてのみ警察権の行使ができるというものです。聞きなれない言葉でしょうが、日本の警察や自衛隊は、使用する武器も使い方も、相手の抵抗の度合に合わせた必要最小限のものしか与えられないということです。

 機関銃で攻撃された場合、対応できないですね。だから、他国から派遣された部隊に守ってもらうという形になっている。しかし、日本はその逆ができない。他国の部隊を守れない。いわゆる“駆け付け警護”ができない。これをできるようにしようとしている。これは集団的自衛権ではない。PKOは国連の活動であって、集団安全保障。集団安全保障行動の中で、武器使用の権限の範囲を広げようというんです。これまで集団的自衛権の範疇に入れてしまっている。明らかな間違いでしょう。

集団的自衛権行使容認の危険性
 もうひとつ大きな問題があります。周辺事態法との関係で、米軍が北東アジアにおいて北朝鮮と戦う時が来たとしましょう。朝鮮半島が乱れ、南北が戦う場合、中国は北を支援するかもしれない。米軍は韓国を支援しますよね。もちろん、その他のケースもあり得えますが、その結果、米・中が衝突したと仮定しますよ。集団的自衛権の行使を認めてしまえば、朝鮮半島において日中武力衝突になりかねない。また、東シナ海において、航行する米軍艦船と中国人民解放軍海軍との間に戦闘が発生した時に、日本の自衛隊が行って、米国を助けて中国と戦うことになる。米中戦争に巻き込まれることになるんです。

安保条約第6条の意味
 日本が侵略を受けた時には、アメリカが助けてくれることになっている。安保条約第5条の規定に基づくものです。私は、第6条事態が起こりうると言っているのです。6条では、極東の安全が脅かされる時は、在日米軍が出動してこれに対処することになっている。第6条によれば、日本が基地を提供し、その基地から米軍が出動することになっている。普天間からも嘉手納からも行く。この上、“日本も一緒に戦う”なんてことを認めてしまったら、中国も韓国も黙ってはいないでしょう。

山崎拓氏 1999年に、新しい日米安保ガイドラインに基いて制定されることになった「周辺事態法」の審議で、私は特別委員会の委員長をやっていました。周辺事態とは、日本の安全に重大な影響を及ぼすと考えられる事態。この場合は、第6条に基き、米軍が出動するが、日本は一緒には戦えない。できるのは「後方地域支援」ということにしたんです。正面と後方、正面が前線、後方は兵站ですね。じつは後方支援もできない。だから「後方地域支援」という言葉をつくった。同じ事態において、集団的自衛権を認める、ということを、北岡さんたちはやろうとしている。これは大騒ぎになる。とくに中国は反発を強めるでしょう。

イージーゴーイング
 4類型には、これほど多くの問題点があるんですよ。にもかかわらず、とりあえず4類型に限定して集団的自衛権を認めようとしている。いまは、その方向性になっている。これが安倍政権の底意です。これだけ問題があるのに、限定的にでも認めたら、際限がなくなっていくでしょう。一部と全部、認めるのにどこが違うというのか。最終的に全部認めたら、憲法9条の改正さえ必要がなくなるんですよ。憲法改正の肝は9条。その肝がなくなるんですから。解釈改憲がまかり通れば、96条(憲法改正の発議は、全国会議員の3分の2以上を必要とする)まで改正して2分の1にした上で、9条を変える必要がなくなる。イージーゴーイングなんですよ。

 ―― 安保条約との関連でもう少しお話し下さい。
 憲法解釈で、集団的自衛権の行使はできないが、安保条約には5条と6条があります。5条は日本が侵略された時の、米国の共同防衛義務。6条は「極東条項」と呼ばれていますが、アジア太平洋地域における平和と安全のために米国が出動する場合に備えて、日本が施設、区域(基地)を提供する義務を定めたものです。つまり、集団的自衛権の行使ができない代わりに基地を提供している。

 日本が集団的自衛権を行使するということになれば、6条を変更する必要が生じます。つまり基地の提供義務がなくなる。じつはアメリカの一部の識者は、このことを憂慮している。6条があるがゆえに、米軍は日本国内で軍事基地が造れる。沖縄の人たちは、早晩そのこと言い始めるでしょう。集団的自衛権が行使できるようになった。アメリカがやられたら日本が助けに行く。だからアメリカ国内に日本の基地を造れと―。治外法権の基地を造れと―、こうなる。安倍総理はそのあたりが分かっていない。先の見通しを考えない現状の議論の上で、集団的自衛権の行使を容認すれば、大変なことになります。解釈改憲は、いろいろな意味で、私は反対だということです。

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<参考>
日米安保条約(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)
日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。

第1条:締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危う くしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、 国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第2条:締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長 することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の 経済的協力を促進する。
第3条:締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第4条:締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第5条:各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第51条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならな い。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第6条:日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
第7条:この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
第8条:この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。
第9条:1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
第10条:この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。
 もつとも、この条約が10年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後1年で終了する。

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山崎拓氏 ―― 最後に、いまの日本の政治について、一言お願いします。
 政党が雨後の筍のごとく出来ては消える。これでは有権者の期待に応えることはできません。荒波の時代を知らない世代とはいえ、まず、政治家として明確にすべきことがあるでしょう。右と左、あるいは保守とリベラルとでも言いますか。または、国家主権尊重を国民主権尊重より上位に置くか、その逆であるか。または国家主義者(ナショナリスト)であるか民権主義者(リベラリスト)であるか。そこをハッキリさせた上で、政策集団を形成する必要がありますね。

 ただ、それが言いづらい小選挙区制にも問題があるんです。現行制度では、特定の政策やイデオロギーに偏すると当選しません。2人に1人の得票を必要とする選挙制度だからそうなる。国民が求める全部を網羅した政策を発表せざるを得なくなるんです。つまり、特定政策の専門家がいなくなるということ。政党の盛衰ですべてが決ってしまう現状は、やはり間違っているでしょうね。小泉チルドレン、小沢チルドレン、安倍チルドレン、毎回100程度の新人が国会議員になっては消える。これもまた、日本の政治のレベルを下げる要因のひとつでしょう。息の長い政治家が育たなくなったんです。選挙制度を見直すことも必要でしょう。

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インタビューを終えて
 山崎元副総裁の話は、じつに分かりやすいものだった。特定秘密保護法案をめぐる国会論戦や集団的自衛権の行使容認に関する国会議員たちの話は、勝手な見立てばかりで、論旨も不明快。しかし、防衛庁長官、自民党副総理を歴任し、国政の中枢で重きをなした山崎氏は、懇切丁寧に用語まで説明しながら、それぞれの事案の問題点をするどく指摘してくれた。安倍政権に対しても、歯に衣着せぬ物言いだ。“ああ、この政治家が総理大臣だったら・・・・・”―正直な感想である。

【山崎拓氏プロフィール】
・1936年生まれ
・福岡県立修猷館高校、早稲田大学商学部卒
・福岡県議会議員
・衆議院議員(12期) 
・防衛庁長官、 建設大臣、自民党幹事長、同党副総裁を歴任
・近未来政治研究会最高顧問
・柔道6段、囲碁5段
・著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など



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