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「情報はタダ」。デジタル・ジャーナリズムに問われるもの

2013年12月27日 07:55

PCイメージ 「デジタル・ジャーナリズムをどう考えるか――と一口に言っても、誌面を電子書籍化したものをどう売るか、ホームページへのアクセスと有料会員をどう増やすか、という次元の話ではない。既存大手メディアの成長曲線が下降線を辿るなか、小回りの利く小規模メディアによる報道記事がさらに増えてくるだろう。カンバンの信用力がない彼らに求められるのは、ユーザーに「読ませる記事のプロデュース力」、「読むことに集中させるデザイン力」、「この記事ならお金を払ってもいいと思わせるプレゼン力」。これらをジャーナリスト1人ひとりが身に付けることこそ、デジタル・ジャーナリズムを支える根幹となる。

狭く、深く、シンプルに
 17日、早稲田大学大隈小講堂で「デジタル・ジャーナリズム最前線」というシンポジウムが開かれた。メイン講師は、アメリカのニューヨーク市立大学大学院ジャーナリズム学科アントレプレニュリアル・ジャーナリズム・コース教育担当ディレクターで、ニューズウィーク誌などでジャーナリストとして活動していたジェレミー・キャプラン氏。欧米、とくにニューヨークではネット技術を巧みに取り入れた「アントレプレニュリアル(起業家的)ジャーナリズム」が盛んだそうで、日本初のジャーナリズム大学院を創設した早大とのコラボレーションとなった。

 いくつか示唆に富んだ話題が出てきたが、とくに刺激を受けた事例を紹介しよう。貧困や衰退する農業など社会問題を扱う調査報道サイト「narratively」(直訳は「話術的に」)はとても印象に残った。なぜなら、1週間に1テーマしか報じないからだ。しかも、基本的に1日1取材対象の話にまで絞り込んでいる。数多の情報が溢れるこの時代、このサイトは、あえて狭くて深い情報(というより物語)発信に積極果敢に挑戦している。バナー広告などを極力排除したシンプルで美しいデザイン、ひとつの高品質な物語を1日ごとに配信する深耕性、効果的に情報発信するために印象的な画像、取材対象の声を聴く動画、そしてテキストをマルチに配置したクリエイティブさが特徴的だ。

デジタルの優位性がない日本のデジタルコンテンツ
 narrativelyの収入源は「スポンサーシップ」「シンジケーション」「カスタムコンテンツ」「イベント」「プレミアムコンテンツ」「有料会員」の6つで構成されているという。ちなみに「シンジケーション」とは、端的にいえば教育の教材として高品質のコンテンツを提供すること。翻って日本を見てみると、有料会員に対するプレミアムコンテンツはあるだろうし、たとえば講演会などのイベントで収益を上げるメディアもあるだろう。ただ、これら6つをすべて兼ね備えることを戦略とするメディアは果たしてあるだろうか。

 「ネット上の情報はタダで手に入るもの」という今の風潮にあって、月額いくらで記事全文が読めるとか、とりあえず誌面を電子書籍化したものを切り売りするといったことだけがデジタルメディアの収入源だと考えるのは、もはや時代遅れなのである。筆者は月額数百円で週刊誌数十冊をスマホで見られるサービスを使っているが、そこにあるコンテンツはあくまで「昔ながらのアナログ・ジャーナリズム」の産物であって、デザインも記事も誌面容量の制限内に収められたもの。デザインを容易にカスタマイズできる、記事の文字数に制限がない、画像や動画などのマルチメディアで構成できる、全世界の人に配信できる、といったデジタルの優位性はそこではほとんど生かされていない。

ユーザーから問い返されている
 アメリカではデジタルインフラの問題解決のため、古くからある大手メディアであっても、外部の各プロフェッショナルの助言と技術的支援を積極的に取り入れているのだそうだ。日本ではこうした外的コラボレーションが立ち遅れているのではないか。大手新聞社のサイト構成は紙媒体を元に作られているため、各社横並びのデザインと記事になりがちだ。

 また、日本にはジャーナリストを凌駕する専門知識を持った個人がブロガーとして、情報発信力を生かしてのちに著作物を多く世に出しながら著名になる人もいるが、ではそうした人たちが「ジャーナリスト」なのか、「評論家」なのか、「学者」なのか、そんな紋切型の分類ができるのか、という問題が出てくる。

 かつてマックス・ウェーバーは『職業としての政治』のなかで、ジャーナリストの資質を「学者の仕事と少なくとも同等の『才能』が要求され」、「身分的に安定した地位にいないと精神のバランスがとれないような人間には最も不向き」と語った。個人的に付け加えるなら、埋もれた事実を掘り起こす「歴史家」であり、あらゆる散乱したニュースから物語をつむぐ「ストーリーテラー」であり、自分で稼げるコンテンツをつくれる「事業主」であることも重要な資質だと思う。

 「情報はタダ」だと思っているデジタル・ジャーナリズム時代のユーザーは、ジャーナリストたちに「ジャーナリズムとは何か」を改めて問い返しているのだ。

<嵯峨照雄>



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