11月14日夜、みんなの党の渡辺喜美代表は、都内の中華料理店で安倍晋三首相、菅義偉官房長官、塩崎恭久自民党政調会長代理と密談した。渡辺氏が自民党所属議員だった時代に4人で結成した「アビ―・ロードの会」の会合だったが、ここで話し合われたのが特定秘密保護法案の取り扱い。翌日からみんなの党が急速に与党にすり寄ったことを見ても、渡辺氏が、「昔のよしみ」で同法案に賛成することを約束したのは間違いない。渡辺氏を変節させたのは何か―永田町では、「入閣という甘い香りのする媚薬をかがされた」(みんなの党関係者)との見方が広まっている。
強まる与党志向
密談直後から「みんなの党は政権入りしたがっている」との話が出始め、さらには「渡辺氏には大臣ポストが与えられるらしい」と、まことしやかな噂が囁かれた。実際に安倍首相らとの会合以降、渡辺氏は与党寄りの発言を連発。秘密保護法案だけでなく、集団的自衛権の行使についても容認すべきだと語るなど、安倍首相のご機嫌取りに必死となっている。
これに対し、党内から公然と反発ののろしが上がる。27日の参院本会議でみんなの党を代表して質問に立った真山勇一参院議員が、秘密保護法案について「国会は急がず徹底審議する責任がある」、「民間人や対抗する政治勢力への圧力になる」として、法案への慎重姿勢を示したのである。真山氏は江田憲司前幹事長に近いと言われるが、渡辺氏とは程よい距離感を保っていた。ところが今回は、同法案に賛成することを決めた渡辺氏に、真っ向から盾突いた形だ。
これが渡辺氏の逆鱗に触れる。渡辺氏はすぐさま真山氏を呼び付けたのである。2人の間でどんなやりとりが行われたか、具体的には伝わってきていないが、翌28日の参院本会議の前に行われた議員総会には、真山氏の姿はなかった。同党の議員は口々に言う。
「真山さんは議員運営委員会のメンバーだ。議員総会には出席して、議運の様子を報告しなければならない。それなのに欠席するというのは、なんとも不思議だと思った」。
「どうやら渡辺氏にひどく叱責されたようだ。それがショックで議員総会に出たくなかったのだろう」。
そして28日夜、側近の松田公太参院議員に近い上田令子東京都議の国政報告会に出席した渡辺氏は、権力志向の本性を露わにする―「与党に入らないと、政策実現できない」。事実上の「与党入り宣言」である。
分裂必死
8月の江田憲司前幹事長更迭以来、混迷状態のみんなの党。その後も渡辺氏の独断専行はますますひどくなっている。これに対し、江田前幹事長は2日、日本維新の会の松野頼久国会議員団幹事長の政治資金パーティーで「自民党にすり寄り、自民党と連立を視野に入れて動くなどとんでもない。有権者への裏切りだ」と渡辺氏を激しく批判。松野氏との連携強化を明言した。すでに松野氏や民主党の細野豪志前幹事長らと、野党再編を目的とする勉強会の立ち上げを決めており、今月10日にスタートさせる予定。みんなの党からは、江田氏を含む十人程度が参加するものと見られている。渡辺執行部は秘密保護法案の採決における造反を理由に、江田氏ら3人の所属議員を処分する予定だが、これが党分裂の引き金となる可能性が高い。
戦前回帰を狙う安倍首相にすり寄り、党内だけでなく国民をも裏切った形の渡辺氏。甘い香りの媚薬をかがされた結果だとすれば、あまりにお粗末である。