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伊藤鹿児島県知事 リコールつぶしで露骨な圧力
県民の自由意志否定 ― 後援会内部からも「強要」「脅迫」の声

2013年12月 4日 07:50

鹿児島県知事公舎 独善的な県政運営を続けたため、リコール(解職請求)を突きつけられた伊藤祐一郎鹿児島県知事が、自身の主だった支援者を集めた会合で、リコールに協力しないよう圧力をかけていたことが明らかとなった。
 知事は、鹿児島市内で開いた会合で、「知事の権限で、リコールに賛同する署名をした人間の名前や住所を見ることができる」などと発言、関係者への周知を求めていた。
 知事の要請を「強要」「脅迫」と受け取った会合参加者もおり、権力を笠に着てリコールつぶしを狙った形。県民の自由意志を否定する知事の姿勢に、批判の声が上がりそうだ。

後援会会合での発言
鹿児島サンロイヤルホテル 知事の問題発言があったのは、10月4日。鹿児島市与次郎のサンロイヤルホテル(右の写真)で開かれた「いとう祐一郎後援会」の会合の席上だった。

 会合には、後援会幹部や、平成16年の知事選で伊藤知事に1億8,000万円を貸付けた弁護士、さらには県内主要団体の幹部ら60人ほどが出席。参加者全員が、知事の話を聞いた。

 会合の中で知事は、リコールについて触れ、次のような趣旨の発言を行ったという。

・知事の権限で、リコールに賛同する署名をした人間の名前や住所を見ることができる。
・このことを、それぞれの関係者に周知してもらいたい。

 会合に参加した複数の関係者に取材したところ、全員が知事発言の内容に間違いがないことを認めている。

 ある参加者は「業界関係者、さらには取引業者にまで知事の言葉を下ろせと言われたと思った。正直、この発言は問題ではないかと感じた」と話す。

 別の会合参加者も受け取り方は同じ。知事の発言に、強い違和感を覚えたという。「会合が終わった直後、他の参加者と話をした。私も、(知事は)こんなこと言える立場なのかな、と思ったが、ある人は『さっきの知事の言い分は、強要じゃないか』と首をかしげていた。知事にも焦りがあったんだろうが、言っていいことと悪いことがある。明らかにオーバーランだ」。

 知事の初当選以来、支援してきたという男性はこう語る。「名前も住所も分かるんだ。そのことを下まで徹底しろ、と脅かされた格好。まるで脅迫。決して気分のいい話ではなかったが、知事にそんな権限があるのなら、従うしかない。しかし、知事だからといってそんなことができるのか、疑問に思っていた」。

「知事権限」は虚偽
 古参の支援者が抱いた疑問はもっともだ。リコールの対象者である知事が、署名簿を見ることなどできるのだろうか。調べてみたが、リコールの署名簿を見ることができる「知事権限」などなかった。

 リコールにおいては、地方自治法が定めた署名者数を超えた場合だけ、本請求が可能となる。本請求後、市町村の選挙管理委員会が20日ほどかけて署名簿を審査。そのあと、集められた署名簿が7日間の縦覧に付される仕組みだ。縦覧までの間、知事といえども署名簿を確認することはできない。仮に法定の署名者数に達していなかった場合、署名簿が公表されることはなく、これまた知事が署名人を確認することなどできない。縦覧までいけば、あとは住民投票。署名人が分かったからといって、進退がかかる知事に、どうこうできる状況ではあるまい。従って、「知事権限で、署名人の名前や住所が分かる」という伊藤発言は、虚偽ということになる。

 3日、鹿児島県選挙管理委員会に一連の取材結果を明かし、「知事権限」について確認したところ、リコール制度の仕組み上、署名簿を見ることができるような「知事権限」はないと明言。脅迫まがいの知事発言については、「選管としてコメントする立場にない」としている。

否定された県民の自由意志
 50年間で2例目となった知事リコールに向けての署名集めが始まったのは10月8日。直前の4日に開いた会合での問題発言は、署名集め開始を前に、リコールつぶしを徹底したい知事の思惑から出たと見る方が自然だろう。焦ったあげく、ありもしない「権限」を振りかざし、署名したら許さないという姿勢を露わにした知事の行為は、県民の自由意志を否定するものだ。

 知事の脅しが効いたのか、リコールの署名集めが始まった直後から、県内では、“署名をするな”という脅しや圧力が、知事を支える企業・団体から加わっているという噂が絶えない。実際、受任者のひとりはこう話していた。「私の友人は地元の企業に勤めています。その友人に、《リコールの署名した人はみなわかるので署名はしないように》という内容のメールが届いたんです。こんなことって許されるのでしょうか」。

聞いて呆れる「清々粛々」
 今年8月、定例会見でリコールに対する感想を聞かれた伊藤知事は、次のように述べていた。

『(県知事へのリコールは)50年で今まで1件しかないですし、成立もしていません。―中略―全国的に非常に注目が集まるのです。そういう意味で、やはり鹿児島県の名誉がかかってきますので、おやりになるとしても清々粛々やってほしいと思います』。

 伊藤知事、あなたは「清々粛々」と受けて立っていますか?



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