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前代未聞!市長告発会見に市職員の同席容認
ジャーナリズム逝く ― 福岡市政記者クラブの実態(下)

2013年11月20日 08:00

市政記者室 HUNTERが提起した記者クラブの運営実態についての質問取材に対し、事実上の回答拒否で応えた福岡市役所の記者クラブ(『福岡市政記者会』)が、高島宗一郎市長を刑事告発した市民の記者会見に、市職員の同席を許していたことが明らかとなった。
 告発されたのは市長。本来ならその部下である市職員が、告発報告の会見に同席するのは非常識だ。当然、そうした行為を止めるべきだったが、記者会側は必要な措置を一切とっていなかったという。
 権力とジャーナリズム―対峙すべき両者が、あたかも利益を与え合う格好になっている福岡市役所の記者クラブ。その現状と問題点を報じる。

市長告発会見に市職員
 問題の会見が行われたのは今年10 月。福岡市の認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転用地取得をめぐり、高島宗一郎市長に背任の疑いがあるとして、在園児の保護者らが福岡地検に告発状を提出したことを報告するものだった。

 市役所会見室での会見に臨んだ告発人らが異変に気付いたのは、会見がはじまってしばらく経ってから。目の前に、市広報戦略室の職員がいるのに気づいたという。“おかしい”と思ったらしいが、会見中、記者会所属の記者は、誰一人として市職員の会見場からの退去を言い出さなかったため、その場で抗議はしなかったとしている。

税金で告発つぶし
 また、会見場では、ひとりの市職員が記者向けに用意されていたはずの「告発状」のコピーと「添付した証拠資料一覧」を受け取り、その後、急いで部屋を出て行ったという。この時点で、告発状の内容を知ることのできない高島市長サイドに、すべてが漏れた可能性が生じる。市職員の告発会見参加は、刑事告発された市長に、逃げ道を与えることにつながる。会見参加で入手した資料に基き、事前に弁護士を交えて対策を講じることも可能だろう。そうなると税金を使った告発つぶしと言っても過言ではあるまい。だからこそ、市職員の会見参加は非常識なのだ。それを止めなかった記者会の責任はなお重い。

 会見場で資料を受け取ったことについて、市報道課は、遅れてきた地元テレビ局の記者に渡すためだったと言い訳しているが、記者は子どもではあるまい。資料が必要なら、自ら告発人にもらうべきで、市の職員がわざわざ手助けすべき話ではない。また、記者へのサービスを理由に、会見場での振る舞いを正当化できるとも思えない。

 会見中、市職員が告発状や添付資料を確認できる状況にあったのは事実。告発人と記者とのやり取りも聞き取っており、そのすべてを市長周辺に報告したと見るのが自然だろう。どう“へ理屈”を並べてみても、状況はクロ。告発人から「スパイ」だと批判されても仕方があるまい。
(*地検に提出された告発状は、11月8日付けで正式に受理され、「捜査」が開始されている)。

開き直り
 市報道課に話を聞いたが、告発会見での同席を認めた上で、今後もあらゆる会見への参加を続けると明言。完全に開き直った格好だ。
 市長を記事告発したことを報告する会見に、市長の部下が参加するのは非常識ではないか―HUNTERの質問に対し、市報道課は、次のように主張する。

  • 市役所の建物の管理権限は市にある。会見場が適切に使用されているか、確認する義務と権利がある。
  • 会見参加は、会見がスムーズに運ぶよう、セッティングや資料配布を手伝うためのもの。記者クラブや会見者への配慮の一環。これからもすべての会見に出る。

持ち出したのは「管理権」=記者クラブ制度の否定
 驚いたことに、市報道課は「管理権」を持ち出してきた。建物の管理権限を盾に会見に参加するという考え方が社会一般で通用するのなら、マンションのオーナーや管理会社が、自由に店子の部屋に出入りするのと同じ意味になる。これが許されるはずがない。

 会見室は市役所の建物の中、市政記者会が使用する記者室の隣だ。両室はつながっており、記者たちは自由に二つの部屋を行き来している。しかし、記者室は事実上「権力の監視」を目的に設置されたスペースであり、だからこそ公費投入が認められている。行政機関のために設置されているわけではないのだ。当然ながら市が管理権を盾に勝手な振る舞いができる場所ではない。

 会見室も同じだ。管理権をふりかざし、職員が自由にどの会見にも同席するなど、もってのほかだ。市長会見など役所側の発表は別として、市民団体などが市を相手に訴訟を起した場合など、明らかに市と利害が対立する内容の会見からは市職員は排除されてしかるべきだ。今回の市長告発会見のケースでは、主催の記者会に市職員を排除する責任があったはずだが、結局、それを怠っている。職員同席が慣例になっているため、神経が鈍くなっているのだろう。

狙いは「圧力」?
 問題の会見では、市職員が告発人の目の前に座っていたという。告発人が無言の圧力をかけた形で、権力側の脅しともとれる。同時に、記者会のメンバーがどう反応し、何を聞くか、職員が監視していた可能性がある。告発人寄りの姿勢を見せた記者は、個別に締め上げるつもりだったのだろう。実際、福岡市では、市側に都合の悪いニュースを流した記者を、市幹部が呼びつけて説教するのだという。こうした状況に慣れきった記者が、まともな仕事をするはずがない。

市政記者会に問う
 会見は、原則として記者クラブ主催で行われるべきものだ。福岡市役所でも以前からそれが守られてきた。会見における権力側の恣意的運用を避けるためには、記者クラブ主催が当然。そこに建物の管理権を盾に市が介入したらどうなるか―たちまち記者クラブ制度は崩壊するだろう。福岡市役所では監視する側とされる側の緊張関係が失われており、これが許されれば記者室の存在意義もなくなる。税金で「権力の犬」を飼っておく必要は、ない。

 報道の使命は権力の監視にこそある。日本新聞協会は、2006年に公表した「見解」の中で次のように述べている。

報道機関は、公的機関などへの継続的な取材を通じ、国民の知る権利に応える重要な責任を負っています。一方、公的機関には国民への情報開示義務と説明責任があります。このような関係から、公的機関にかかわる情報を迅速・的確に報道するためのワーキングルームとして公的機関が記者室を設置することは、行政上の責務であると言えます。常時利用可能な記者室があり公的機関に近接して継続取材ができることは、公権力の行使をチェックし、秘匿された情報を発掘していく上でも、大いに意味のあることです。
記者クラブの機能・役割は、(1)公的情報の迅速・的確な報道(2)公権力の監視と情報公開の促進(3)誘拐報道協定など人命・人権にかかわる取材・報道上の調整(4)市民からの情報提供の共同の窓口―である。

 福岡市役所の記者クラブ(福岡市政記者会)は、「見解」を理解しているのか?それ以前に、あなた方は何のために記者をやっているのか?ぜひとも聞いてみたい。



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