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福島4号機・核燃料吊り上げにダブる安倍内閣の行方

2013年11月15日 06:50

首相官邸 安倍内閣発足当初から、政権の命運を左右するのは原発とTPPの二大政策と睨んでいたが、1年過ぎてもその構造に変わりはない。アベノミクスによる株価や景気動向は支持率の波にすぐ反映されるが、国の命運を左右するエネルギー政策と農業、金融から医療まで生活に直結する政策への評価は、表面の波では見えない支持率の根幹を成している。二大政策への対処を誤ると、支持率は長期低迷へ向かって歯止めがかからなくなる。
(写真は首相官邸)

待ったなしの核燃料取り出し
 その原発とTPPで安倍内閣はいよいよ胸突き八丁に立った。「年内全面妥結」を謳うTPPは、米国側事情も手伝って部分的妥協による時間稼ぎで済むかもしれないが、それで済まないのが原発だ。汚染水対応は当然ながら、事故当初から国際的懸案だった福島第一4号機で、使用済み燃料の取り出しに着手するからだ。

 事故当時、定期点検中だった4号機では、原子炉内にあった使用済み燃料が、新燃料ともどもすべてが原子炉建屋最上階の燃料プールに納められていた。そのため炉心でのメルトダウンは避けられたが、1,500体強もの燃料集合体の詰まっているプールが、爆発瓦解した建屋の上部でいわば宙に浮いてしまった。脆弱な4号機建屋を大型余震が襲ってプールが倒壊すれば、即、冷却水が抜けて燃料がむき出しになる。そうなれば、たちまち「臨界」に達して世界中を巻き込む大惨事だ。各国の専門家、有識者たちが、国連をはじめとする国際機関で問題提起したのは当然だった。

 東電は4号機建屋の補強で対応してきたが、所詮は対処療法に過ぎず、一刻も早い燃料取り出しを迫られていた。そこで2020年オリンピックは日本にまかせる代わり、事故収拾へ真剣に取り組めという国際世論の下、安倍内閣も正面から向き合わざるを得なくなったのが汚染水と4号機である。3.11以来の歴代内閣の姿勢は、事故対策の正面に東電を立て、自らは後ろに立つというもの。しかし、それはもう許されない。

困難極める燃料取り出し作業
 燃料取り出しは緊迫感溢れるスリリングな作業となり、大げさにいえば世界中が注視することになる。4号機プール内は、爆発で降り注いだがれきのほとんどが取り除かれてはいるものの、微細ながれきが燃料棒の詰まった燃料集合体とその間のどこかに残っている可能性がある。長さ約4.5m、重さ250kgの燃料集合体4体が納められたチャンネルボックスをクレーンで引き抜き、燃料輸送容器(キャスク)に納める作業はすべてプール内で行われるが、それ自体も慎重に進める必要がある。落下したがれきでチャンネルボックスが変形していることもあれば、小さながれきが挟まって引き抜けないこともあり得るからだ。

 燃料集合体を納めた輸送容器は、プールから吊り上げて建屋外に待機する輸送用トレーラーに運ぶ。もちろん、その作業も慎重にも慎重を期さなければならない。燃料の入った輸送容器は90トンもあり、プール内で吊り上げているときに落下すれば、容器内の燃料も下の燃料も損傷する怖れがある。損傷してむき出しの燃料が密着して臨界を起こす可能性もある。

 トレーラーに積まれた輸送容器は敷地内にある供用プールに運ばれて保管されるが、これら一連の困難な作業を東電はぶっつけ本番でやろうとし、原子力規制委員会委託の専門機関に事前テストを指示されて作業着手は延期された。東電が急いだのは「前面に立つ」と宣言した政府に尻を叩かれたからだが、1500体もある燃料の取り出し、移動には大変な時間と人手を要する。神経を使う作業には熟練したオペレーター(クレーンの操舵手)が必要だが、「使用済み燃料取り出しに慣れたオペレーターは、ほとんど線量を使い果していますよ」(第一原発元作業員)という。未熟なオペレーターによって事故が起きたら取り返しがつかないが、こんなところにも成果を急ぐ安倍内閣の原発対応の危うさ、焦りが見てとれる。

前門の虎、後門の狼
 安倍首相を駆り立てている要因の一つに、小泉元首相が唱える「原発ゼロ」があるのではないか。小泉氏は「いま『原発ゼロ』は無責任」という安倍首相に、「いまだからこそだ」と反論して盛んに安倍首相を挑発している。直近の朝日新聞世論調査でも小泉発言を60%が支持しているように、「世論の大勢は我にあり」と見切ったうえ、自民党内にも小泉効果が浸透してきたからだろう。12日に日本記者クラブで会見したした小泉氏は、原発の停止時期について「即ゼロ」とまで踏み込んでいる。

 自民党総裁直属の自・公両党による「東日本大震災復興加速化本部」(大島理森本部長)は、11月11日に除染費用の追加分や廃棄物の中間貯蔵施設建設に新たな国費の投入、事故収束に向けた東電の分社化や別法人設立案などを提言。安倍首相も具体化に意欲を示したものの、そこには当事者能力を失っている東電の解体や破綻処理など抜本的対策は見当たらず、国民の血税投入策ばかりで安倍内閣らしい煮え切らなさが目立つ。

 見通しの立たない汚染水、4号機が前門の虎なら、「原発ゼロ」を叫ぶ小泉発言は後門の狼。安倍首相の立ち位置は、クレーンで吊り上げられる4号機燃料のようにどこへ振れるかわからない。安定した着地を望むなら狼のご機嫌をとるしかないが、安倍首相にそこまでの決断力はないだろう。

<恩田勝亘>
 

恩田勝亘:プロフィール
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)など。

新刊「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)は、全国の書店で販売中。 



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